しょんぼり二郎
朝、一郎に着替えを手伝ってもらった服は、相変わらずスカートの丈が長い。
腰に細布を巻き、そこに裾を入れ込み、一郎からボロのエプロンを借りる。一郎も出勤して一人きり。
暖炉前の床磨きから続けての、床の掃除をきり上げて、長椅子で寝た。今日も真っ黒の床だった。良く働いた。
そして、目を開けたら、二郎がいた。ホラーかよ。
「びっくりした〜。なにごと〜?」
朝、意気揚々とブラ見せつけに、出勤したと思ったら、なんか暗くない?
「どうしたの?二郎?部屋と同じくらい暗いんだけど」
木々に囲まれている屋敷のせいか、部屋はちょっと薄暗い。
「べつに⋯⋯。お前のマヌケな寝顔見てたらどうでも良くなった」
減らず口である。
「私のマヌケ面で元気が出たのなら、なにより。どうしたのよ?職場で何かあったの?胸あてはどうだったのよ」
敢えてブラと言わない優しさよ。
「⋯⋯ふぅん、で終わった。俺は良い装備だと思ったんだけど」
二郎は、元気のない声でそう答えた。
(よかったーーーーーー!!!!)
と、私は、祈りが通じて盛大に安堵したが、目の前の二郎は、解せないらしい。いや、あれ、そもそも乳垂れ防止装置だから。
しかし、いつもの口が悪いが面倒見の良い、カラッとブラ二郎と違い、今は、ジメッとブラ二郎になってるのも可哀想だな、と思い、慰めることにした。
「二郎、私はすっごく良いと思うよ。そのレースも素敵だし。強度も増して装備品としてのレベルも上がったんじゃない?」
――心にもない言葉である。
「――⋯⋯っ!⋯⋯そう、思うか?」
「うん、思うよ。すっごく良いと思う。なにより二郎に似合ってる」
(二郎が帰ってきたのなら、早く薪割りに行きたい。元気を出して、いつもの三倍働いてくれ)
なんてたって、今日はサウナと湯シャンをしたいのである。
昨日は、お預けを食らったから、きっちり洗わなくては!!!そのためなら、私は平気で嘘もつく。
嘘も方便なのだ。
二郎は元気が出る。私は薪割り要員が確保できる。
誰も傷つかない。ハッピーエンド、てね!
単純な二郎は、「やっぱこれ良いよな!!」と元気にシャツからレースブラをチラ見せさせながら笑顔になった。
良かった良かった。愛は無自覚変態も救うのだ。
元気になった二郎は、良く働いた。
薪が山のように出来ていく。
私も満足。二郎も満足。二人で笑いあった。ブラ着けて。
備蓄庫に大量の薪を置き、乾いてる薪を持って屋敷の中へ。
一郎も仕事から帰ってきていた。安定のフリルエプロン。
「一郎!薪割り出来たよ!二郎がたくさん割ってくれた!今日は蒸し風呂に湯シャンだよ!汚れしっかり落とそうね!」
脂クサイも皮脂汚れも、なるべく落としたい!
夕食を食べ、歯磨き!そして、風呂!!
お湯は沸かした!サウナで皮脂を浮き上がらせるように汗もかいた!
頭皮を櫛でかきだし、脂を出す!
一郎と二郎の分も私がやった!
見本を二人に見せても、動作が雑すぎて見てらんないから!
「俺も髪伸ばそっかな⋯⋯?」
一郎の頭皮を櫛で掻き出してる最中、既に頭皮の掻き出しが終わった二郎が、そんな事言いだした。
二郎を見ると、自分の髪の長さを引っ張って確認していた。
「なんでよ」
(シラミの危険性が出るのに、なにを言ってるのよ)
「だって、伸ばしてもタロタロが梳いてくれるんだろ?」
そう二郎が答えた。
(い、や、よ!伸ばした分だけ時間がかかるのに何言ってんのこいつは!!あと、二人して同じ髪型とかなったら見分けがつかない!!)
と、心の中で盛大に文句を叫んだが、しょんぼり二郎が記憶に新しい私は、そんなこと言えず。
「二郎は、その髪型似合ってるよ、緑の目が綺麗に見えるし。私、緑の瞳って好きなんだ。だから、二郎はそのままの髪型でいてよ」
と、言ってやった。頼む。効いてくれ。
「そうか⋯⋯、まあ、そこまで言うなら今のままで良いか」
という、二郎に私は笑顔のまま、首を縦に振って同調した。
二郎は機嫌良く、湯シャンのお湯の準備をしに出て行った。
⋯⋯手間のかかる弟だぜ。
二郎が出ていったのを確認して、一郎に、向き直ると顔を上げて、じっとこちらを見ていた一郎と目が合って、驚いた。
「わ!ビックリした。頭下げないと続きができないんだけど⋯⋯」
と、抗議する私に一郎が、
「わたしは⋯⋯?」と、言い出した。
「え?」
「私の瞳の色は、どうなんだ?」
――どうとは?
良く分からないけど、聞かれるままの答えた。
「⋯⋯一郎の青い目のこと?綺麗だと思うよ。髪の毛かき上げた時に、見えるのもすごくカッコいいし。素敵だと思う。」
⋯⋯⋯⋯なんだ、こいつら。褒められたいのか?
とりあえず、兄弟平等に褒めてやった。
「そうか⋯⋯」と、一郎は、どこかホッとしたような表情で微笑むと、櫛がとおしやすいように頭を下げた。
(あー⋯⋯のぼせそう。早く終わらせて、私も垢すりしなくちゃ)
自分の垢すりのため、さっさと作業を終わらせて、一郎をサウナから追い出すことにした。
一郎を追い出した後の、全裸垢すり!最高にスッキリ!
本当はワシャワシャ泡立てたボディタオルで、洗いたいけど、そんな便利な贅沢品はこの世には無いのさ。悲しい。
濡らした布で拭き取るのみ。
サウナから出て、二郎が準備してくれた沸かした雨水で、戸口で三人で代わる代わる髪を流した。
あー⋯⋯シャンプーでワシャワシャ洗いたい。トリートメントでしっとりさせたい⋯⋯。
(でも、スッキリ。これ以上望むのは贅沢ってもんよね!)
気持ちを切り替えて、ネグリジェに身を包んで、暖炉の前で髪を乾かすためにも暖を取る。
(これで、スッキリ。よく眠れるわ)
翌朝、洗濯して干していた私のブラに、新たにレースの装飾が施してあった。
私はそれを見て、昨日の二郎の笑顔が浮かぶ。
そして、罪悪感を覚えるのだった。




