芸は身を助ける、と言うけれど
昨日は、夜になってからも、ずーっと、雨は降っていた。
その甲斐あってか、なのか、翌日の今日の空は晴れ。私の呪いのような祈りが通じたのかしら?
「晴れてる!?」
私は、寝台から飛び起き、窓から外を見た。
「晴れてる!」声に出して確信!
(やったー!蒸し風呂!湯シャンも出来る!)
意気揚々と、私は朝の支度を済ませると、一人で着替えが未だに出来ないのもあって、下着を身につけると、おまるを持ってネグリジェのまま、外に出た。
乾いた空気。絶好の薪割り日和!
とは、言っても仕事から二郎が帰ってきてからの午後になるけど。
(待っている間なにしようかな?手が荒れるけど床磨きかな?ついでに下着も洗いたいし)
かさばる物は共同井戸だが、それ以外の物は、屋敷内で洗濯を済ませていた。
「おはよう、一郎!」と、蒸し風呂の許可を貰いに、台所に行くと、昨日外に出して雨水を溜めた瓶が移動されていた。
そういえば、外に無かった。
「え⋯⋯っ!一郎が運んでくれたの?」
と、聞いてみると、フリルエプロンの一郎から、
「いや、私だけじゃない。二郎と一緒に運んだ」との言葉。
「そうなんだ⋯⋯、ありがとう!助かる!私一人じゃ持てるか分からなかったの!」
一郎にお礼を言って、蒸し風呂の許可をもらう。
(やったー!今日は汗腺から汚れを浮かせるぞー!)
二郎がいる暖炉のある部屋に行くと、二郎が謎の器具を使い作業をしていた。
「おはよう、て、なに⋯⋯しているの?」
二郎の手からみるみるレースが出来上がっていた。
まち針を留め、そこに糸を引っ掛け、謎の道具を器用に操る。その繰り返し。
暫く、その様子を見ていると、「よし、出来た」と二郎は言うと、留めてるまち針を外して、出来を確かめる。
そして、椅子から立ち上がると、作業をしている机から離れ、干してる二郎ブラを取ると⋯⋯
(⋯⋯まさか)
椅子に座り直し、レースを針で器用に縫い合わせ、「ほい、完成!」
見事なレースで装飾されたブラジャー(二郎の)が出来上がった。
「よしよし、ちったぁ、マシな見た目になったな」
よく見ると、いつの間にか、カップ部分も当て布をして強度まで増していた。
(私のブラより女子力高いってどうなのよ⋯⋯!!)
ただのダブル乳あて戦士から、レースで彩るお洒落な変態に華麗な変身を遂げた二郎に、私は震えた。
そして、早速身につけていた。相変わらず、良い筋肉。
シャツから覗くレースブラ。
「あ、あんた、その格好で仕事に行くの⋯⋯?」
動揺のあまり、言葉がどもる。
「おう。布で胸を守れるなんて、なかなかない装備だからな!職場のみんなに自慢してくるぜ!」
(どうやって⋯⋯⋯⋯!?)
脱ぐの!?脱ぐのか!?
脱いで職場のみんなに見せるのか!?
ブラジャーという概念のない世界に、ブラジャーを持ち込むとこうなるのか!!という結果に叩きつけられる。
自身の胸の垂れを気にしていたのが、いつの間にか装備品として二郎の頭にインプットされてしまっていた。
(ど、どうしよう⋯⋯。もし私がどこかの物語の転移者だったら⋯⋯。もし、この装備としてのブラが流行っちゃったら、今後この世界の男どもは、ブラを装備してヒロインの前に、登場してくるってこと!?)
恋愛ゲームや、恋愛小説を仮定して想像してしまった。
だって、よく始まる前に転移しちゃった、とかあるし。
目を瞑り、想像し、頭を抱えていると、一郎が朝食を持ってきたのか、テーブルに、ことり、と食器を置く音がした。
「なかなか、良いではないか」
声のする方を見ると、弟のシャツからチラリする、レースブラを指で触り、一郎が褒めていた。
二郎も兄に褒められ、嬉しそうだ。ほっこり。
⋯⋯⋯⋯じゃない!!!
二郎それはね、女性用ブラジャーなの。本来女性が胸が垂れないように形を保つために生まれたものなの⋯⋯、て言えたらどんなに良いか。
嬉しそうな二郎の前に、私は言えなかった。
朝食を食べ、木の枝を齧り歯磨き。
その間もニコニコの二郎。
嬉しそうに、意気揚々と職場に向かうレースブラ二郎の後ろ姿に、私は、ただただ
(どうか、流行らないでくれ⋯⋯っ!!!)
と、祈ることしか出来なかった。




