無いなら作る、不潔なら洗う
茂みを出て、一郎が持ってきた水で手を洗っても、心ここにあらず。
私は、月イチに来るあの乙女の行事に頭を悩ませていた。
一郎から手を繋がれていることに気付いたのは、暖炉のある部屋に戻る直前。
ん?こいつらって用足した時、ちゃんと手、洗ってんのか?
じっ、とつないだ手を凝視していたら、
「ああ、すまない」と手を離された。
なんか、嫌な予感がして、恐ろしいので聞かないことにするが、今後は全員“手洗い励行”を推進することを心に決めた!!
洗ったシーツは、二郎が干してくれていた。部屋に入る前に一郎にそう伝えられたので、暖炉の前に座る二郎にお礼を口にしようとしたが、
「おう、ちゃんと出たか?」
「⋯⋯⋯⋯」
うんこと連呼して中庭に連れて行かれる前、そういえば、こいつ⋯⋯一郎の横に、いたわ。
シーツを干してくれたお礼だけ言った。こいつマジ無神経。
シーツが乾くまで、生理について考える。
うーん、どうしよう。この時代ってどうしてたの?ナプキンのかわりに何使ってたの?まさかの葉っぱじゃないわよね?生理痛とか地獄じゃん。あーなんか、考えるのめんどくさくなってきた。
⋯⋯⋯⋯無性に日本が恋しくなってくる。
うーんうーん、と考えてたら、数年前になにかテレビで特集やっていたのを思い出した。
『布ナプキン』
「これだわ!!!!」
立ち上がり、突然の私の絶叫に、何事かと二郎が振り向き、フリルエプロンを装着した一郎が様子を見に来た。
二人に誤魔化して着席する。
布の形状を思いだす。布の中身どうしよう。布を重ねるだけで良いのかしら?うーん⋯⋯⋯⋯『へー』としか思わなかったから、なにも思い出せない。
まあ、とりあえず作ればいっか!
無いなら作れば良いって一郎も言ってたし。
下着を作る際に出た切れ端で、作ることに決めた。
(湯シャンもあるし、とりあえず、薪割りだわ!)
「二郎!薪割り一緒に行こう!」
「⋯⋯一人で行けよ。さっきからお前ブツブツ一人で⋯⋯こえーよ」
「仕方ないじゃない。独り言ぐらい言わせてよ。それに私じゃ、丸太一人で持ち上げられないもん」
「しゃあねぇなぁ」と、首の後ろをバリバリ。パラパラ。ひぃ、白いアイツ。服の上に粉雪のように舞い散らせ、私は戦慄した。
とりあえず、見なかったことにして、後ずさった。
昨日作った手袋をしまっていた戸棚まで後ずさる。
作った手袋を、装着!クサイ!でも、嬉しい!
「えへへ」
二郎に手伝ってもらって、薪割りに励んだ。
サウナは頻繁には入れないらしいが、一郎に、どうしても!と我儘言ったら折れてくれた。
身体に布を巻いて一郎と二郎を引き連れ、いざ、サウナ!
湯でシャンプー⋯⋯湯シャンをするには、まずは、サウナの熱で皮脂を浮かす作戦よ!
出たり入ったりを繰り返し、その間に垢すりなどを終わらせ、全身に汗が噴き出て来たところで次の行動に移す。
「私がお手本を見せるから見ててね。こうやって、頭皮に沿うように櫛を通すのよ。力は入れずに優しくこそぐのよ」
それに加えて、頭皮マッサージよ!
「こうやって、両手をどんどん近付けて皮膚を押して中の皮脂を押し出すようにするのよ。分かった?」
二人の前でぐ、ぐ、と両手を交差するように皮脂を押し出す。
ちなみに私の脇は永久脱毛済みだ。
しつこく光照射でサイクルで生えてきたやつをグッバイしてやった。
過去の自分に感謝。おかげで、二人の前で腕を上げても平気なのさ。わはは。
「こんな事やって、なんになるんだよ」
と、二郎が荒く髪を梳ぎながら言う。
「ちょっと!私が教えたこと出来てないじゃない!」
二郎から、櫛を奪うと、「こうよ!」と皮膚に沿って髪を解きほぐす。
「頭下げて!」と私に寄せるように、二郎の頭を掴むと下げさせた。
特にこの、粉雪舞い散らせた襟足!貴様をやっつける!!
何という毛量。洗わないのにフサフサなの?不思議。
いや、髪の生え方抜け方は、母親の父方から遺伝する、ってなにかで見たわ。
あと、髪は、女性ホルモンだっけ?お母さんが女性ホルモンが多くてフサフサだったのかしら?
そんなことを考えながら、必死が指の力に出ないように丁寧に丁寧に櫛で皮脂をこそいだ。
ついでに頭皮マッサージもして、もう一度こそぐ。
ふぅ。なんかこいつの頭も更にベタついてきたし、良い感じかも。
脂臭さが不快のはずだが、何故だか今は私の満足感を満たすベタつきと臭いとなっていた。
「はい、終わり!」
と、顔を上げた二郎の顔は、更に赤さを増していた。湯あたり?
とりあえず、一旦外に追い出した。
「さあ、次は一郎よ」
と、振り向けば、何故だか櫛を持った状態で、ホッとしたような表情の一郎。
え?なに?もしかして、一人じゃ出来なかったの?そんなに難しいかな?二郎も雑だったし。
一郎の、二郎よりも長い髪を皮膚に沿って丁寧に梳いだ。
そういえば、この世界ってシラミどうなってんの?
転移する前に動画でおすすめに上がってたから、つい観たけど。
この長い髪は、ヤバいんじゃないの?そう思い、ジッと見る。金髪⋯⋯分かりにくい。
とりあえず、頭にシラミがわいたら、皆で坊主よ。
え?私も?いやだあ〜!
日本に戻れても、寝たはずの娘が起きてきたら坊主になってるとか、お母さんひっくり返っちゃうんじゃない?
そういえば、昔、お母さんの子供時代に、お母さんの頭にシラミを見つけたひいおばあちゃんから、頭にお酢をぶっかけられたって話してたっけ?
民間療法が凄まじいんだけど。
この世界に、お酢ってあるの?
そんなことを考えながら、お父さんを思いだす臭いの発生源の襟足を、二郎と同じく丁寧にこそいだ。
頭皮マッサージも脂が出ていくことだけを念じて、やった。
全体的にマッサージを終えたら、今度はまた頭皮に沿うように櫛で梳く。その頃には二郎が戻ってきていた。
不快な皮脂臭も勝利の臭い。
お湯は、暖炉でサウナの間に温め中だ。
二郎が、薪を追加でくべてくれたらしい。ありがとう。
さあて、いよいよ、流すわよ!
沸かした雨水に、先に温めて冷めた雨水とを足して、十分な三人分の湯を準備。
それぞれ桶を持っていざ外へ!
サウナで火照った身体に冷たい空気が心地よい。
二郎を前かがみにさせて、一郎にお湯をかけてもらう。
その間に、私は二郎の皮脂が全体的に落ちるように、手で優しくすすいだ。
一郎には、二郎が湯を流した。同じようにすすいでやる。
へへへ、少しは臭いが取れてると良いな!
私も同じようにお湯を流してもらった。
やっぱりお湯って良い!
雨水でも気にしない!
ドブ水よりかは、マシだ!
夜は、椅子を橋渡しにして、外に干していたシーツを干した。
早く乾くと良いな。
(乾いたら、とうとう下着作りよ!)
しかし、裁縫なんて小学生の頃に経験したぐらいの、ほぼゼロ経験者の私は知らなかった。
これから作るブラの完成形が、二次元ブラになることを⋯⋯。




