これは夢!?それとも転移!?
気付いたら、なんか、異世界にいた。
「え?夢?」
(私、寝ようとしてたわよね?え?コードに足ひっかけて床にダイブしたとか?なに?夢?死んだの?どっちなの?)
ちょっと、最近、転生モノとか転移モノにハマって読んでたせいで、自分に都合よく夢を見せているのかもしれないわ。
「てか、ここ、どこ⋯?」
何もない、野っぱらに私一人。
側には木々。
(大体、お約束だとここで豚っ鼻の野盗とか出ちゃうのよねぇ〜)
腕を組んで、うーんと考えている上下スウェット姿の私に、
「お!!女じゃねぇか!へへへへっ!」
と、下卑た声と喋りが聞こえてきた。
振り向いて、想像していたとおりのズタボロの格好をした野盗に感動を覚える。
「うわあ!ほんとに出た!ある意味、感動!」
「ああ?何言ってんだ、てめぇ」
と、感動で打ち震えている私に、冷めた目の野盗たち。
「おうおう、よく分かんねぇ、頭イカれた女だが、早いとこ身ぐるみ剥いで売っちまおうぜ」
と、物騒な事を言いだした。
「やだ!なにこのテンプレどおりの台詞!やっぱり夢!?」
しかし、取り囲まれて、漂ってくる臭いに違和感を覚えた。
「え⋯なに?くさ⋯」
(夢って臭いするものだっけ?)
よく考えたら、私が立ってるこの地面、こんなに草の感触ってリアルだった?
「え?え?まって、まって⋯」
自覚したら、心臓がバクバク鳴り出した。
(これって⋯めちゃめちゃ、ヤバい状況じゃないの?)
焦りだした私のスウェットの裾を、グッと掴んだ野盗の一人が上に勢い良く持ち上げた。
寝るだけのなにも身につけていない素肌が、野盗たちの眼前に晒された。
あまりの事態に声も出せなかった。
「お!イカれた女の割には、貴族みてぇなイイ身体してんじゃねぇか」
野盗たちの視線の位置から、どう見ても目線が、私のむ⋯⋯
「きゃ⋯きゃ⋯キャーーーーーー!!!!!」
カラオケで鍛えた声量が、野盗達の鼓膜をぶん殴る。
「うぉ!?」
「うるせ!」
両耳を塞いだ野盗達を、押し退けて、私は無我夢中で走った!!
走って走って、無我夢中で走った先に、人がいた。
「たすけ、たす⋯て」
ゼエゼエ、呼吸困難。こんなに走ったの、いつぶり?
授業でもこんなに走らないし、遅刻してもこんなに走らないわ。
「女、どうした?なにをそんなに慌てている?」
よく見たら、甲冑を着たコスプレのような、とんでもない美形だった。
(え?なんのゲームのキャラクター?実写化すると分かんない⋯)
息をなんとか整え、指を指す。
「やとう、やとうに追いかけられて⋯」
「いないぞ」
「⋯え?」
振り向くと、「まてぇー!!」「そこの女をよこせぇ!」「オレたちのもんだ!」なんて、追いかけてくる野盗なんていなかった。低燃費。
「⋯なによ、必死に走って損したじゃない⋯」
ホッとしたと、同時に涙と鼻水がズビズビと出てきた。
グスグスと泣く私に、美形はなにもせず。
(⋯⋯普通、ハンカチとか差し出さない?なんなの?)
覆う両手の、隙間からそっ、と覗くと、この美形、あくびしてる!?
「ひどい!女の子が泣いてるのよ!少しぐらい慰めないの!?」
「なぜ!?」
なんか、真っ当な返しをされた。
「なんとなくよ!」
これでも、けっこう可愛いって言われるのに、クソっ!美形!腹立つ!
怒りで涙も引っ込んだ。ズビーっ!と思いきり鼻をすする。
「ねぇ、ちょっと」
「なんだ、無礼な女」
両者、む、む、と睨み合い。
「私、多分転移者とかそんなんだと思うのよね。こういう時ってあれでしょ?お城で保護とかしてんでしょ?」
「オシロ⋯テンイ⋯?」
「おお?なんだぁ?いきなりカタコト?バグかなにか?」
とりあえず、言葉が通じているのか、いないのか。
突然、私の言葉にカタコトになる、甲冑の美形。
「お前が、なにを言っているのか、よく分からないが、とりあえず、なにか目的があるなら聞こう」
バグが直った美形の申し出に
「お城で王様に会いたい!」と言うと、
「オシロ⋯城のことか!なんという無礼な⋯。王になんてそうそう会えるわけ無いだろ」
(なんだ、コイツ真面目かよ?)
「でも、私、多分、お城に行って王様に会わなくちゃいけないと思うのよね。きっと、向こうでは召喚の儀とやってんのよ」
「⋯⋯なるほど。イカレ女か」
美形がぽそり、と呟いた。
「なんか今、すっごく失礼なこと言わなかった!?」
「失礼なことは言っていない。事実を言ったまでだ」
美形は、キリリッとした顔でそう言った。失礼すぎる。
「ねえ、じゃあ、私、町へ行きたいの。お金ないけど。あなた同行してよ。甲冑来てるってことは、騎士か何かでしょ」
「いかにも。ここで治安を守っている者だ。お前は⋯、そうだな、このまま放っておくと、他の者に迷惑をかけるかもしれん。保護しよう」
(こいつ、口から出る言葉、全部ケンカ売ってんの?)
と、思ったが、また野盗に出くわしたくもなかったので、大人しく従うことにした。
現れたのは馬。
「顔、デカ」
率直な感想。
(馬面てこんなにデカいのね)て、感心した。
「ええ〜⋯高⋯い。これに乗るの?どうやって」
「別に乗らなくても良いが」
「いや、乗るわ!歩きたくないもん!」
美形に介助され、なんとか乗り上げる。今コイツお尻触った!?
美形が後ろに乗り、動き出すが
「ア⋯っ、ア、⋯なに、これ、痛⋯」
「⋯⋯あまり変な声を出すな」
「⋯だって、痛い、いたい。揺れて痛い」
「⋯⋯」
早々に降ろされた。
「私、裸足なんだけど⋯」
無我夢中で逃げ回って、馬面見て馬に乗って、と感覚バグってて気付かなかった。
怪我はしてなかったけど、足の裏が痛い。
「ねぇ〜、おんぶして」
「オンブ?」
「あー?分かんない?ちょっと、地面にしゃがんでよ。そうそう。はい、これがおんぶ」
背中に抱きつくと、一瞬で地面に転がされた。
「なにすんのよ!?」
地面に転がったまま抗議した。
「⋯すまない。つい、反射で」
「反射で、て⋯うわあ!なにこの子、いきなりおしっこしだした!」
馬がジャバジャバ粗相をしだして、私は慌てて起き上がった。
「生き物だからな」
美形はどこ吹く風。
スウェットに跳ね返りが付いてないか、必死で首を巡らし臭いを嗅ぎ無事を確認。
「とりあえず、今のがおんぶよ!おんぶして!」
「⋯⋯うるさいな」
と、言いつつ、美形は再度しゃがんでくれた。
私は、その背に抱きつく。無機質な甲冑がちょっと邪魔にも感じたけど。
「なにしてるの?両手で私の足を持つか、まあ、お尻を支えても良いわよ。そして、立ち上がって、そうそう。それで歩くのよ!」
歩き出した美形の背にピタリと、くっつく。
香水の良い匂いと⋯⋯⋯なんか、脂臭くない??
「ねえ、あなた、お風呂に入ってる⋯?」
クンクンともう一度、美形のうなじの辺りを臭ってみる。
⋯⋯なんだろう。お父さんを思い出すんだけど⋯。
「フロ⋯?なんだそれは」
美形の言葉に、うなじから距離を置いた。
(うおおおおい!そんなバグはいらん!!)
なんなのこれ!?夢なら覚めて!転移なら帰りたい!




