初代四獣神と双子執事①
邦和での騒ぎを鎮静化する第一歩を踏み出したところで すっかり夜が更けていたので、ソラはマヌルの里に戻り、青生と彩桜は明日の為にと眠りに就いた。
―・―*―・―
マヌルの里は夜に入ったばかり。
アミュラが休憩しようと部屋に戻ると、ザブダクルが訪れた。
「あの……アミュラ様、少しお教え頂きたいのですが……」
「婆ぁは疲れてるんだけどねぇ。
ま、いいから座りな」
「すみません。
おぼろげな記憶なのですが……幼い頃、私とシャルダクルは何度かアミュラ様に乗せて頂いたのでしょうか?」
「おや、アタシの封印を解いたのかい?」
「いえ……マディア様から伺ったのです。
何度も夢で見ていたと。
それで探っていたら微かに。
幼いシャルダクルが笑顔で振り返る。
それが天高くで、白い龍神様に乗っている。
アミュラ様に乗せて頂いたのですよね?」
「その通り、アタシだよ。
オーロザウラは女神達からの呪が絡んで操禍と支配を使えなくされたんだ。
父親と兄を滅しただけじゃなく、アレコレと悪さしたから呪の縛りで変えられちまったんだよ。
だから子を生んだんだ。
ザブに操禍を、シャルに支配を込めて、祝福を求めて怒らせた女神達から得た呪で変化させりゃあ、また使えるんじゃないかと考えたんだよ。馬鹿だよねぇ。
けどまぁ確かに変わったんだよ。
それで子が幼いうちに欠片に戻して、神力を取り込もうとしてたんだ。
けどねぇ、支配のシャルダクルは禍で包みゃいいが、操禍のお前さんを滅するのは容易くない。
それも集めた禍を使ってみて初めて分かったんだ。
だから躾だの修行だのと理屈を捏ねて危険な場所に置き去りにして、勝手に災難に遭えってもんだ。何度も何度もねぇ。
また使えるようになっちまったら災厄の元だし、子神達が不憫だから助けたよ。
けど何処に隠そうが父子だからねぇ、見つかって連れてかれちまうんだよ。
その繰り返しさ。
助けてるのがアタシだとバレちまったら次は助けられないだろうからねぇ、記憶を封じていたんだよ」
「私が龍神様の背が好きなのは、アミュラ様に助けて頂いたのを本能に刻み込んでいたからなのですね……」
感慨深気に目を閉じた。
「そう思ってくれるのは嬉しいねぇ。
人神は龍ほどには高く飛べない。
天の風、龍の鱗。その感覚だけは覚えてくれていたんだねぇ。
だからマディアの背に乗りたかったのかい?
ルサンティーナの瞳と同じ碧色に煌めく鱗が嬉しかったんだろ?」
「はい。
封珠から脱する為に引き込んだ者が白い龍だと見えたのは一瞬でした。
とても胸が苦しくて、得体の知れない衝撃が魂の内で暴れていました。
その微かな記憶に苛まれたのだと思います。
そこにマディア様が現れたのです。
飛び込んで来た碧色は私に衝撃を重ねました。
ルサンティーナが私の行いに怒っていると。
声を聞き、この龍がエーデラークかと。
エーデラークが龍だとは気づいてはおりましたが、こんなにも美しかったのかと。
私が身代わりに封じたのは、その妻だったのかと解ったのです。
随分と長く封じられていたとだけは分かっておりました。
ルサンティーナはもう居ないのだろうと。
だから私は、その碧色を欲したのです。
そうだったのかと気づいたのは、つい先程なのですが。
どうしても従えたくなり……その背に乗りたくなり……脅してしまったのです。
奪った身体はナターダグラルでしたので、エーデラークを従えるのには好都合だと。
途方もなく愚かでした……」
「妻を愛しく思う気持ちを知っていながら利用したってのは、アタシゃ今でも許せてないんだよ。
子孫達は過ぎた事だし、反省しているから許してやってくれと言うけどねぇ」
「子孫……?」
「ドラグーナ達だよ。
エアラグーンはアタシの息子。
その子孫だからねぇ、あの『お人好し』達は正真正銘アタシの子孫だよ。
『お人好し』代表のドラグーナが、怒りが収まらないアタシに言ったんだ。
強大な神力を持つ者が許す心を忘れたなら魔となる、だとよ。
大好きな、尊敬する父親から、そう教え込まれてるからねぇ。
だからマディアもエーデリリィも許してくれたんだ。
獣神は獣じゃなく神だからと笑ってたよ」
「そうですか……」
「また泣く気かい?
やめておくれよ。
ザブもオーロザウラなんかが親じゃなきゃ善神として生きられただろうとは思うけどねぇ。
それでも、信じる心を忘れた時点で負けたんだよ。魔になっちまったんだ。
マディアは負けなかった。
何度も何度も難に遭ったのにねぇ。
本当に強い子だよ。
ま、それもこれもエーデリリィが支えてくれてるからだけどねぇ。
マディアはエーデリリィを助け出したい一心で耐えていた。
従っていれば手出ししないと言ったザブを信じてたんだよ。
エーデリリィは無事だと信じてたんだ。
ザブは誰も、何も信じられなくなってたねぇ。
そういや、双子執事には謝ったのかい?」
「は……?」
「まだ会ってもいないのかい。
ザブを助け出そうと国を捨て、ザブから呪を受けても見捨てなかったのにねぇ。
その呪で再誕する度に魂は削られ、ボロボロになっても諦めずに捜してたんだ。
今の王都にあった石碑は知ってたよ。
けどザブの名を刻む訳にゃあいかなかったからねぇ。
『古の悪神』と書かれてちゃあザブだとは思えなかったんだよ。
もちろん初代四獣神は そんな事しやしないよ。
四獣神が『古の人神』としてたのを占領した人神達が上書きしたんだよ。
双子執事も四獣神がザブを悪神だなんて書き残すとは思っちゃいない。
だから捜し回ってたんだよ。
それでもカイダームは、もしやと思って神王殿の中庭を掘り起こす為に貴族になり、子か孫を王にしようとしてたんだ。
けど他の地も捜し続けてたんだよ。
それが災いしてオーロが地に仕込んでた罠にザブと同じ神力を感じて掘り出しちまって、消滅寸前になっちまったけどねぇ。
クウダームの方はアタシの子孫を捜して糸口にしようとしてたんだ。
ダグラナタンと何度か出遭って、禍に包まれるわの堕神にされるわので散々だったんだがね。
しまいにゃ誰かさんに封珠からの脱出路にされて、とうとうまた再誕しなきゃならなくなっちまったんだとよ。
神王殿でヘロヘロになった時に助けてくれた双子の少年、覚えてないかい?
ルサンティーナとシャルの世話もしてるよねぇ」
「あっ!」
「今なら此処で修行してるよ。
何処かに行っちまう前に謝って、王の執事に戻さないとねぇ。
サティアタクスとティングレイスはカイダームの孫だ。
その辺もシッカリ謝りなよ」
「はい!」
よく知っている双子の気へと瞬移すると――
「あら、あなた。
そんなに慌てて、どうかなさいました?」
――シャルダクルを抱いているルサンティーナと双子少年は和やかにお茶していた。
「すまなかった!
信じる心を失い、魔となった私が仕出かした数々の事を許せなんぞと言えたものではないが、とにかく謝らせてくれ!」
土下座の勢いで腰を折る。
「「陛下……」」
「あなた。落ち着いて座ってくださいな」
双子少年が勢いよく立ち、ルサンティーナの隣に椅子を運んだ。
「「どうぞ此方に」」
そして変わりなく優雅な所作でお茶を用意する。
それでもザブダクルは突っ立ったままだった。
シャルダクルがふわふわと飛んで迎えに行った。
「にーさま の とーさま♪ すわって~♪」
「あ、ああ……」
ようやくザブダクルが座ると、絶妙なタイミングで茶が置かれた。
「陛下」「どうぞ」
そこにカシスが戻った。
「ルサンティーナ様♪
今日はシフォンケーキを習ったのですよ♪」
嬉しそうに皿を差し出した。
「まあ、良い香りね♪」
「すぐに切り分けますね♪」奥へ。
「シフォンケーキ?」
「ドラグーナ様の御子のオニキス様から毎日お菓子を習っているのですよ。
それで、カイダーム様とクウダーム様には私の執事になっていただいたの。
あなたには後でと思って……」
「私の執事には?」
「ですからそれは、これからでしょう?」
「確かにな。
あっ! それよりも先に謝らねば――」
「何事か御座いましたでしょうか?」
「記憶はすっかり失いましたし、御覧の通りの年齢ですので、新神として「どうか宜しくお願い致します」」
「私の所為なのだな……」「「そのようなっ」」
『ほ~ら嘘なんかつくから~♪』「えっ?」
ザブダクルが振り返ると爽蒼の龍神が笑っていた。
「「フィアラグーナ……」」
「来てやったぞ♪
記憶が足りないと言うのなら、もう一度 解凍して込め直そうか?」
ニヤニヤしながら双子の後ろへ。
「俺だけなのが不満ならガイアルフもジョーヌも呼ぶぞ♪」
「「不満だなんて、とんでもない!」」
「そういう話し方も出来るのか……」「「あっ」」
「ま、コイツらは友だからな♪
で、俺の事は覚えてるか?」
「え? ・・・ウンディ!? あっ、様!」
「ウンディは孫だよ。ドラグーナの子だ。
俺はフィアラグーナ。
さっき双子がそう言ったろ。
それに、名乗るのは何度目だよ?
で、俺を時空の彼方に飛ばそうとしたのは思い出したんだな?」
シフォンケーキの皿を配ろうとしていた双子とカシスが驚いて手を止めている。
「……はい」
「アレでマディアと押し合い圧し合いしたモンだから、地星が時空の彼方にブッ飛んだらしいぞ♪」
「「「ええっ!?」」」ガチャッ!
女神達は口を押さえて目を見開いている。
「おいダムダム、割るなよ?」ニヤリ。
「「割るなんぞ有り得ませんのでっ!」」
「それで今っ、地星は!?」
「ドラグーナ達が時空の彼方にも友を作って元に戻したんだとよ♪」
「獣神王様は今どちらに!?」
「人神が眠っちまった都だな。
ユーレイ達と一緒に復興真っ最中だ♪
けど行くなよ?
アンタはアンタで落とし前 着けなきゃならん事が山積みだ。
それにドラグーナは謝罪も謝意も苦手だ。
だから最後の最後でいい。
それよりも初代四獣神様に言うべきだ。
どれだけアンタを護ってたと思ってる?
灼熱から助け出してもらっといて責め込んだ人神達と同じになりたいのか?」
「そ、それは、どれだけとは……?」
「アンタを『古の人神』だと記すくらい長~~~い間だよ。
アンタの呪を受けた初代四獣神様は再誕が出来なかった。
だから限界迄たった4神で護り続けたんだよ。
前置きしとくがチョイと長くなるぞ。
忘れ易いとか聞いたが、もう忘れるな。
心して聞きやがれ」
フィアラグーナはザブダクルを睨み据えて話を続けた。
まだブルー様は現れず、前置き的なお話です。
ダグラナタンにもオーロが入っていましたので、双子執事は狙われ続けたんでしょうね。
戦乱期の記憶は再誕の繰り返しでスカスカになっているようですが、きっとその頃もオーロに追いかけ回されていたんでしょう。
月で丁寧に再誕させてもらい、フィアラグーナ・ガイアルフ・ジョーヌから記憶の写しを貰って、ようやく平穏に暮らせるようになったんです。




