神は無知なだけで罪
雲地での今日の作業は終了だと、輝竜兄弟はマーズとしての各々の持ち場に行こうとした。
【待ってもらえるかな?】
【ドラグーナ様どしたの?】
【うん、昨日の成長促進で呪の残滓よりも成長の方が勝ったと思うんだ。
皆各々忙しいと思うけど、マディアとグレイを元に戻すのを支えてもらえないかな?】
【そりゃ当然だなっ♪】【支えましょう♪】
【ドラグーナ様オモテねっ♪ 頑張ろ~♪】
口々に同意だと言って、妻には持ち場に戻ってもらってウラに。
押し出されたドラグーナは集結した。
【ありがとう。じゃあ行ってみるね】
まずは神王殿の上空から確かめる。
【これなら戻せそうだよ】
短く唱えて鏡を成した。
【ドラグーナ様ソレ何?】
【ブルー様に教えて頂いた千里眼鏡だよ。
神王殿には古い結界が絡まって残っているから神眼でも見え難いんだよね】
【そっか~♪ 術あった~♪】
【彩桜なら神力十分だと思うよ】【ん♪】
次はマヌルの里。
アミュラの作業部屋前に行くと、術待ちの列から離れて力丸とショウが居た。
【それじゃあ待つ間だけ】兄弟をオモテに。
「力丸♪ ショウ♪
あっ、バステート様こんにちは~♪」
「こんにちは今チェリー様♪」
「『様』いらにゃいのぉ」
「あら」 「親分わしわしヤメッ」ぎゃあ~!
ショウは大笑い♪
「バステート様もアミュラ様待ち?」
「私は分離していただいたわ。
マリュースを待っているの」
「そっか~♪
終わりそぉだからドラグーナ様ナカ戻る~♪」
モグとマリュースと一緒にアミュラも部屋から出て来た。
ドラグーナが元気な子猫のマリュースに微笑む。
「グレイとマディアを元に戻そうと思ってね。
アミュラ様、如何でしょう?」
千里眼鏡で仲良く眠っている赤子達を見せた。
「ふむ。良さそうだねぇ。
行くとしよう。
ダグラナタン、ザブダクル。来な」
【アミュラ様、いっぱい待ってるのにいいの?】
【カウベルルとカシスもやってるからいいんだよ】
「揃ったね。行くよ」空間ごと術移。
――神王殿の広間。
〈ユーチャリス、エーデリリィ。グレイとマディアを連れて来てくれるかな?〉
ティングレイスとマディアが くっついて眠っている小さな籠ベッドに手を当てたユーチャリスが現れ、続けてエーデラークがディルム達を連れて現れた。
「「あっ……」」
エーデラークの姿に目を見開き、声を上げてしまった元ナターダグラル達をアミュラが睨む。
と同時にダンディ中年神ディルムがエーデラークの前に立ち両手を広げる。
「最高司様に何か御用でしょうか?」
「「えっ?」」
「やめてよディルム。恥ずかしいわ」
「はい、最高司様」フッ。
笑みを浮かべたディルムが下がると、エーデリリィが苦笑していた。
「都や街を破壊したのはマディア――つまりエーデラークじゃない。
その通りだよねぇ? ザブダクル。
だからエーデラークは死司域に復帰したんだよ。最高司としてね。
言っとくけど、決めたのは死司神達でエーデリリィじゃないからね。
ほらほら始めるよ」
【ヨォ♪】
ドラグーナの背に隠れていたマリュースが顔を出してニヤリ。
【【父様!?】】
【ディルムもハーリィも元気そうだな♪
俺は引き千切られてバラバラだったから再誕なんだが、神力が落ち着いたら成長させてもらえるからな♪
だから見学兼ねてだ♪ 一緒にやろ~ぜ♪】
【【はい!♪】】
「外で見てるってのに来やしないねぇ」
〈ラピスリ! ルサンティーナも連れておいで!
集まってるのは気づいてるんだろ!〉
ルサンティーナと響を連れたラピスリが現れる。
「ラピスリはアタシの正面!」
ラピスリは次の怒鳴り声が飛んでくる前に半龍半狐姿となって向かいに立った。
「やれば出来るじゃないか♪
ドラグーナはラピスリの隣。
ルサンティーナはアタシの隣だよ。
モグもコッチにおいで。
猫夫婦はドラグーナ側にね。
左右は妻達だ。
犬っ子達、ユーチャリスの両側だよ。
ああ、前王達も来たんだね。
丁度いい。王妃の近くにね。
エーデリリィの両側はマディアと仲いいのが囲みゃいいさね。
そういやダグラナタンは子になったんだったね?
それじゃあエーデリリィの横だ。
他は間を埋めとくれ。
そうそう、い~い感じだよ。
ザブダクル!
神力の弱いトコは見えてるんだろ!
サッサと補いなっ!
皆でアンタの尻拭いしてやるんだからね!
さ、気合い入れて始めるよ!」
アミュラが話している間にエーデリリィの同代も集まっていたし、救出した人神達を避難所に運んでいたランマーヤも来ていた。
各々、手招きされて囲みに加わり、術が始まった。
―◦―
大掛かりな術が終わり、大騒ぎした後、静かになった大広間からマヌルの里に戻ったアミュラは、部屋に押し込んだザブダクルが泣いてばかりなので行ってみた。
「休みなとは言ったが、ただ泣いてたのかい」
ザブダクルの前に回り込んで座った。
が、ザブダクルは顔すら上げようとしない。
「ザブダクル、泣いてばかりじゃあ何も始まらない。進みゃしないよ。
お前さん、マディアに何をしたのか、どうして嫌われたのか解ってるのかい?
そもそも何をしたのか忘れてたろ?
マディアが尽くしてくれてた理由、もう分かってるんだろ?
ずっとマディアにルサンティーナの幻想を重ねてたんだろ?
マディア自身なんて、これっぽっちも見ずにねぇ。
理想を押し付けて、従わなければ支配を込める。
マディアの意志は無視だ。
記憶を引き千切って消したんだから、お前さんを知らなくて当然だよ。
従わなきゃなんない理由すらも消しておいて、無理強いするなんてねぇ。
ルサンティーナはオーロザウラから愛を示せと強要され続けてたんだよ。
お前さんの為に耐えてたんだ。
けれども何を言われようが、されようが、お前さんへの愛は消えない。
それがバレちまってねぇ、あんな醜い姿にされて、支配まで込められちまったんだよ。
どうにもこうにも、よく似てるよねぇ。
お前さんがマディアにルサンティーナを重ねたのも頷けるよねぇ。
どっちも心が強いからねぇ。
己よりも大切なものを守る為に……そんな健気な姿がねぇ。
お前さんも、オーロザウラと同じだよ。
同じ事をしちまったんだよ」
「私が……オーロザウラと……」
「認めたくないってだけで、もうよ~く分かってるんだろ?
ルサンティーナはシッカリ重ねちまってるよ。
だから寄り付かないんだ。
前生では消滅寸前にされ、再誕したなら滅された方がマシってくらい苦しめられたんだからねぇ。
オーロザウラと同じなお前さんのままじゃあ望みは無いよ」
「ルサンティーナが……再誕……?」
「前生はサミルシシスの妹サンティーナ。
オーロザウラの兄の婚約者だった。
兄はサンティーナと結婚した後、王位を継ぐと決まってたんだよ。
その全てを奪いたくて父と兄を滅したんだ。
だがサンティーナはサミルに逃げた。
渡せと脅す為に神力射を生み出したんだよ。
アタシが親友リリムティーナに呼ばれて行った時、禍と呪が成した矢を全て受けたサンティーナは消滅寸前だった。
サンティーナを救いたい一心で兄サミルシシスと姉リリムティーナは神力を高めるのに結婚までして、命の欠片を一緒に成して今度は娘として再誕させたんだよ。
それがルサンティーナさ。
リリムティーナはルサンティーナを連れて身を隠していたのにねぇ。
神力を求めて放浪するオーロザウラに見つかっちまったんだよ。運悪くねぇ。
だからオーロザウラは最初っから息子の妃になんか考えてなかったろうよ。
あの手この手と使いまくってサミルシシスからルサンティーナを奪ったんだよ」
「だから私を拒絶し、追っ手を増やしたのか……」
「ああ、ルサンティーナが頼みに行った後だね?
そのサミルシシスは支配を込められちまってたんだよ。たんまりとねぇ。
ルサンティーナと話したって理由でねぇ。
内容を聞こうと脅しても口を噤むサミルシシスに話すまで支配を込め続けたら、お前さんをサミルで匿うつもりだと言った。
だからすっかり手足にされちまったんだよ。
アタシも後で知ったんだけどねぇ。
お前さんもマディアとティングレイスが話してたって理由で、あんな酷い事したんだってねぇ。
ほら、同じだろ?」
「マディアは何も話してくれなかった。
王と友だとも、話しているとも……」
「まぁだそんな事を言っているのかい?
お前さんならオーロザウラに友神を紹介するのかい?
何されるか分かりゃしないのに。
マディアがどうしてダグラナタンのナターダグラルなんかの補佐してたのかも知らないんだろ?
マディアは幼い頃ダグラナタンに鱗を毟られてるんだよ。
龍にとって鱗は魂。命そのものだ。
だからダグラナタンは殺神罪で投獄されたんだよ。
瀕死のマディアを助けたのがティングレイスだ。
マディアの、あの優しい治癒を教えたのもティングレイスだよ。
恩赦で釈放されたダグラナタンに何度も苦しめられたマディアとティングレイスは、ずっと支え合って生きてきたんだよ。
けど、とうとうティングレイスが拐われちまったんだ。
する筈の無い簒奪なんぞをして王になっちまった。別神になっちまってねぇ。
人神の住処を護っていた兄弟は封じられ、獣神だというだけで堕神にされるようにティングレイスがしたとされちまったんだ。
マディアはダグラナタンを捜し出し、ティングレイスを取り戻そうとしたんだ。
だから死司最高司補をしてたんだよ。
何も見てなかったとか言ってたらしいけど、ずっと見てただけじゃなく、弱禍を使ってダグラナタンをけしかけてたんだろ?
それもマディアを苦しめてたんだよ。
獣神は嗅覚が鋭い。
お前さんの禍隷臭はマディアの魂の根底、つまり本能に憎むべき敵の臭いとして刻み込まれてたのさ。
だから記憶を失って全く知らない者になろうが、その臭いは危険だと本能が訴えるからお前さんを受け入れられなかったんだよ。
長~~~い間、お前さんは敵でしかなかったんだからねぇ」
「私は……知らずに……」
「知らずに、と言えばだけどねぇ。
神は無知ってだけで罪なんだ。
覚えときな。
お前さん、若化の術を何度も重ねたろ。
二神が消滅寸前になったのは、その術の所為なんだよ。
人神にとっちゃあ何て事ぁない術だけどね、獣神に使うのは禁忌なんだ。
だから今じゃすっかり廃れてるんだとよ。
あの術は獣神の魂を喰らうんだよ。
記憶も一緒にね。
どんどん記憶が失くなってるてぇのに、幼くなってってるてぇのに、変だとも思わないなんてねぇ。
ついでにマディアを何歳だと思ってるんだい。
重ねに重ねてまぁ、とんでもない馬鹿者だよ、アンタは。
マディアの歳が足りなくなってたんだよ。
まったくもう!
本当に同じ事をしてやりたいよ!」
丸まってグスグス泣いているザブダクルの背をバシッと叩いた。
「ついでだから追い討ちみたいになっちまうけど言っとくよ。
成長させる術も人神用だったんだよ。
だから半獣神なティングレイスには効いてもマディアには効かなかったんだ。
悪い事にマディアに込めた支配にだけ効いちまったんだよ。
純粋な人神のアンタの神力だからねぇ。
ギチギチに膨れた支配は禍化したんだよ。
呪まで生んでねぇ。
禍を己が神力に出来るのは操禍を持つ者だけ。
マディアは持っちゃあいないよ。
それなのにボロボロのマディアの身体に支配と禍を込め続けたろ。
マディアを助けようとしてる者達の言葉も全く耳に入れずにねぇ。
アンタは知らずにだろうが、マディアの魂も身体も滅そうとしてたんだ。
大勢が必死で保ったからこそ生きちゃいるけどねぇ。
無知は罪だって、よ~く分かったかい?」
ザブダクルが背を震わせながら頷いた。
「これだけマディアを虐め抜いたんだ。
容易く仲良くなれるなんざ思えなくなったろ。
けど……どうやら救世主が来たみたいだね。
アタシが苛めた代わりに慰めてもらいな」
ノックの音が聞こえたので、苦笑しつつアミュラは自室に戻った。
マディアとティングレイスが元に戻ったところで章を区切ります。
お話としては続き中も続き中で区切れていないんですけど、そうなると長~い章になってしまいますので。
アミュラ様が話した後、ザブダクルの部屋にはカケルが来ます。
そちらの内容は本編で、です。
邦和の不穏と言い、神世の反乱軍と言い、何やら障害の多い復興です。
これって、もしかして超越者様?
災厄前にも拾知を妨害したりしていましたよね。




