電波ジャックライブ
勝手に点いたテレビ画面に映し出された忍者達から優しい優しい音色が流れている。
よく見れば、弧を描いて並んでいるマーズは15人ではなく14人で、左半分が最初にデビューした7人、右半分が腰帯を長いスカーフにして肩に垂らしているキリュウ兄弟だった。
2曲目は数人が管楽器に持ち換えたが、フルートやクラリネット等ではない横笛と縦笛だった。
その、ただの筒に穴だけのような笛からも美しく優しい音色が流れ出した。
その曲が終わると揃って深く礼をし、暫く留まって余韻が消えてから青マーズがマイクを持った。
『昨日も不満や怒りの気を感じていましたが、邦和は災害に強いと信じて世界各国に散っていました。
ですが説明不足だったと反省して演奏メインの7人だけが集まりました。
確かにマーズは大地震を感知していました。
ですが、まさか世界中だなんて予測できていませんでしたし、時間的な特定も不十分で結果的に備える時間も足りませんでした。
その点は修行不足だったと反省しています。
俺達が地震を起こしたという噂に関しては否定はしますが、俺達自身が何を言っても無意味だとは理解していますので、これ以上は何も言いません』
『と、マーズは言ってるが、これだけは言わせてくれ』
すっかり面を開けている白久がマイクを奪ってニヤリ。
『何のメリットがあってマーズが地震を起こしたと思ってるんだ?
世界征服? したけりゃ、そんな方法でなくても、いつでも出来るくらいの力を持ってる集団だ。
復興してるのを見ただけでも、そう思わないか?
有名になりたい? 既に十分過ぎるくらい超有名集団だ。
そもそも忍者達は、有名になんてのは望んでない。
名声も金も要らない自給自足集団。
誰にも知られなくていいと思ってるんだ。
修行マニアなだけだからな。
力を見せつけたい? 俺達はコイツらに比べればショボいが、それでも化け物扱いされて疎外されて育った。
いい事なんか何一つとして無い。
そういう経験ゼロな、努力もナシに羨ましがってるだけのヤツがヤッカミで変な噂を流してるとしか俺には思えない。
とか言ったら言ったで炎上しそうだがな。
何を言っても無意味だろうから、話すよか音楽しようぜ』
やっとマイクを返した。
『そうですね。
このスタジオを占拠できている時間にも限りがあるでしょうし、復興も急ぎたいので、次は明るい曲にします』
『おいおい青。これだけは言っとかないといけねぇだろ』
今度は銀マーズがマイクを奪った。
『神忍は特忍の上。師匠やら兄弟子達だ。
音楽は俺達が趣味で始めたんだから上の忍者は音楽修行なんてしちゃいない。
マーズなら音楽しろと求めるのはヤメてくれ。
復興の邪魔なだけだからな。
そこんトコ『宜しくお願いします!』』一斉に深々!
頭を上げるとバク転。身を低くしたポーズ。
だけなら よく見る光景だが、服がカラフルなシティキッズスタイルで手には管楽器。
しかも、これまた普通には見ない形のものだった。
顔を隠しているのは深く被ったキャップのみ。
顔が見えてしまえばオシマイなマーズとしては、とんでもなく危なっかしい状態でダンスは変わりなく大きく、激しく動いている。
ヒヤヒヤしつつも目が離せない。
音楽にもパフォーマンスにも惹き付けられて誰しもが見続けていた。
全員が背を向け、龍の刺繍をキラリとさせてブレイク。
次の音が弾けた時、キャップが画面の両側へと飛んでフレームアウトした。
曲は平然と続き、動き始める。
正面を向こうとしている!
視聴者が皆そう感じた時、ガタガタドタドタと雑音が入り、男性の叫び声が続いて画面が真っ暗になった。
曲が止まった。
『見せ場で何するんですかぁ、見田井さぁん』
『だだだって! 引退する気なんでしょっ!』
『しませんってぇ。
あ、電波ジャックはスミマセン』
『おいマーズとキリュウ。
やるなら全世界に放送しろよな』ドイツ語。
『って、どーやって来たんだよ?』
『他のマーズに運んでもらったんだ♪ ほらな♪』
『って見えてねぇし、ドイツ語じゃあ聞けてもねぇだろ』
『コイツが抱いてるのがカメラかぁ?』
『うわわわわわっ』
引っ張られたらしい見田井が離れると、中央にはフリューゲル。
両側にマーズ15人とキリュウ兄弟7人がキャップも元通りで立っていた。
『曲は?』『俺達の新曲でど~だぁ?』
『OKだ♪』『さっきの入れてくれよな♪』
『おうよ♪』『始めるぞ♪』
とメーアと銀マーズが話しているのを白久が訳していた。
改めてラントがカウントを入れ、フリューゲルの新曲が始まった。
メーアの力強い歌声が憂いやらを消し飛ばす。
前を向けと気持ちを押し上げる。
最後のサビ前の間奏でマーズとキリュウ兄弟は背を向けてキャップを投げた。
踊りつつ演奏しつつで前を向く。
『へ?』見田井の声が入り、メーアが笑った。
笑いながらも歌いきり、曲が終わる。
『これは笑えるよなっ♪』
独語→和語は白久。
『俺達は音楽が大好きだからな♪
続けたいから親友の顔を借りた♪』
ササッとメーアの両側に横並び。
総勢22人、同じ顔が笑っていた。
『これでもカナリ考えたんだよ。
本当に普通の忍者に戻ろうか、ともな。
けど神忍達が音楽を求められるのは、俺達のを聴きたいと思ってくれての言葉だと能天気に解釈しようと決めたんだ。
そうじゃない! とかってツッコミもありそうだけどな♪』
『音楽やるなら明るく考えねぇとな♪』
『ソコだよソレ♪
気持ちが音に表れちまうからなぁ。
と、言いたいだけ言ったから復興に戻る。
ただし、これから復興が終わる迄は不定期になっちまうが電波ジャックする。
今はドラマとかも撮ってねぇからな♪』
『次は最初から俺達を呼べよな。
ソーカイも連れて来いよ』
『んん? メーア、和語が聞き取れ――あ~、桜が訳してたのかぁ。
そんじゃあ次回はフリューゲル&マーズwithキリュウwithソーカイだなっ♪』
『よーし決まりだ♪ あ~、告知もあったな。
ブッ飛んじまったナポリのライブは9月末だ。
末週の週末、同じ場所な♪
8月からは延期ナシでヤルぞ♪』
『その調整してくれてたのか?
レコーディングは?』
『城も無事だから順調に進んでるぞ♪
だから今日のトコは帰るからな♪』
『帰してくれ、だろーがよ』
『だなっ♪』
『ったく~。来てくれて ありがとなっ♪
見田井さん、シメ、ヨロシクなっ♪』
『撤収!』『そんじゃあ『サラバ!』』
一斉に言って礼。消えた。
『あ~、ええっと~、マーズは引退しないそうです。
どうやら復興の合間を縫って集まってくれるようですね。
次の唐突ライブをお楽しみに~♪』
固定カメラなので後ろ歩きで下がり、誰も何も無くなった場所に立って困り笑顔で手を振った。
―◦―
「さっきのを見て聞いて、まだ何かありますか?
僕自身は心を洗ってもらった気分です。
手抜き工事とかしようなんて微塵も思っていませんでしたが、それでも良くない感情は懐いていましたからね。
何かありましたら、今お願いします。
後から後から出てくるものに振り回されている余裕なんてありませんから」
順志の言葉はマーズの演奏前と然程も違っていなかったが、語気は優しくなっていた。
しかし、それでも静かなものだった。
帰宅を許されて立ち上がっていた者達はテレビを視る為に座り直していたが、もういいだろうと立ち上がりかけた。
「順志お兄さん、いいですか?」
「いいよ。子供だからなんて遠慮は要らないからね」
「はい。中渡音第二中学2年、久世 祐斗です。
事前に、というのは とても難しいです。
僕達はマーズスタッフもしていますから何か起こったなら避難誘導をと頼まれていました。
だから意見を出し合って考えていました。
でも実際に起こったら、まず聞いてもらえる状況じゃありませんでした。
うずくまって叫んでいる人、クラクションにサイレンも重なって僕達の声は届きませんでした。
マーズ忍法の龍神様が建物の崩落を止めてくれなかったら、大勢が亡くなっていたと思います。
後でなら、ああすれば良かった、こうすれば良かったと、いろいろと出てきます。
それを他人に押し付けるクレームじゃなくて、自分が前進する教訓にするべきだと思うんです」
「という意見も、子供が何を言う、と拒絶、良くてもスルーしようとしていませんか?
苦労も知らないくせに偉そうに、と。
僕も祐斗と同じ中学2年生、波希 凌央です。
生活の苦労は確かに知らないでしょう。
ですが、この避難所ではスタッフとして大人を仲裁するという苦労を知りました。
マーズが地震を起こしたなんて言っている人、信じている人は地震以降、何をしていましたか?
省みてください」
「そうですよね。櫻咲高校1年、古屋 徹です。
毎日の食事、食材も支給品もマーズからです。
避難所スタッフや外でのボランティアは毎日マーズと会っていますから、その誠意と温かさを感じています。
さっきの音楽からもマーズの思いが伝わりませんでしたか?
世界中に同じように支援や復興をしているマーズを、せめて応援してくださいませんか?」
「ここまで言われてもザワザワするだけ?
私に酒を持ってきて酌をしろとか怒鳴った人も居るのにね~。
私は渡音大3年、咲満 美那です。
また苦労知らずが、と思ってますよね?
その通りで、避難所スタッフの多くが若いんです。
確かに若さ分は元気ですから、それでいいんですけどね。
それは置いといて、意見があるなら名乗ってハッキリ言ってください」
どうして名乗らなければならないのか的なザワザワになった。
「だからソレ!
無責任にボソボソ言わずに、自分の言葉に責任もってハッキリ言いなさいよね!」
とうとう叫んでしまった美那を挟んで立ったタカさんこと恭子と雅美が背をとんとん。
「こういう場には家の代表だと偉そうに出てくるけど、スタッフやボランティアの手伝いすらもせずに無闇に憂いて嘆いてゴロゴロしてた人達なんだから少しずつよ」
「家の確認をと呼ばれて動いた男の人達は、そのままボランティアしてるってのにねぇ。
崩れてるのを見るのも怖くて奥さん達が確認しに行ったでしょ。
奥さん達は私達と一緒に避難所と救護所の手伝いしてるんだけど?
ま、少しずつよねぇ。
順志君、そろそろ解散しない?」
「そうですね。では、今回の集まりは これで終わりとします。
合格判定の方は帰宅準備をしてください」
「マーズの音楽、かけてくださいね♪」
美那の提案に多くが賛同する。
「スタッフをしている子供達は残しますから、これまで通りでいいですよ。
あ、僕は祐斗の父で久世 泰斗です。
祐斗、頑張れよ」「うん、お父さんもね♪」
他も親子で確認し合っている。
帰宅許可を得た者に続いてオレンジのマーカー印付きの申請用紙を貰った者が去った。
「残って話し合っても構いませんが、昼食は部屋に届けますので戻ってくださいね」
学生スタッフを仕事に戻した順志も去ろうとした。
「あの……弁当もマーズが?」
「はい。水晶玉から弁当が出てくるなんて、どう考えても忍法ですよね?
味噌汁とかの食材もマーズからです」
それだけを言ってドアに向かう。
「妻が貴重品だけ持って来ましたが、他は?」
「奥様にお確かめください。
と言いたいところですが、家を確かめに、とは瓦礫を資材に戻す前に貴重品を回収してもらう為だったんです。
思い出の品などの当人にしか分からない物もありますからね。
家電や家具は敷地内に簡易倉庫を置いて収納しています。
破損、故障、汚れなんかの修復は忍法でしてくれますが、細々とした整理やらはボランティアがやっているんです。
では、ごゆっくり」
もう振り返らずに廊下に出た。
負の感情だらけなのを傍観なんてしていられません。
大火事になる前にとマーズは消火活動を始めましたが……考え直してくれるのでしょうか?




