マディア奪還
兄弟からの色とりどりの命の欠片と浄破邪を貰ったマディアは、父達が再生した美しい碧鱗を纏い、赤子から少しずつ成長していった。
〖マディア、そろそろ飛べると思うよ〗
〖サーブルくん、連れて離れてね~♪〗
【はい!】〈サーブルいこ~♪〉
ふわりと浮いた小さなマディアをサーブルが抱いて離れようとしたが、
「させぬ……行かせぬ!!」
怒りで我を失ったザブダクルが神力を爆発させ、縄を遥かに超えた神力は人神達を弾き飛ばした。
残っているのはエィムの網とリグーリの縄だけだった。
【負傷者を職域に!】【治癒を頼む!】
まだまだ浄破邪が必要なマディアから龍神兄弟の浄破邪をザブダクルに向けさせる訳にはいかなかった。
エィムは姿を龍狐に変えて浄破邪を放った。
狐姿のリグーリからも浄破邪が達する。
「お前、先程の罠も……あのエィムだったのだな!!
儂を裏切りおって!! 許さぬぞ!!」
怒りで高まる神力が禍化し、滅さぬよう加減している浄破邪を呑み込み始める。
「僕は元より貴方の補佐ではなくマディア兄様の補佐!
穏やかな最高司の貴方にならば従うのも善しとするが、マディア兄様を苦しめるのならば容赦しない!」
負けじと神力封じの網に伝えている浄破邪を強め、禍を押し返していく。
「兄弟……だとっ!!
最初から騙しておったのか!!」
「そもそも貴方はマディア兄様からエーデリリィ姉様を奪った!!
それ以前に兄様が貴方に何をした!?
兄様がどれほど苦しんだか!!
貴方を慕って従っていたとでも思っているのか!!」
「エィム、そのくらいに」「……はい」
横に並んだゴルシャインが肩を叩いて止めた。
怒りの収まらないエィムは睨み続け、浄破邪を強め続ける。
それでもザブダクルを滅してはならないとだけは忘れてはいなかった。
「私達は弟マディアを助けたいのです。
元に戻したいのです。
弟の魂を、姉を、妹とその夫の魂をお返しくださいませんか?
弟マディアはこのままでは消えてしまいます。
どうか、術を解き、支配や禍、呪を消して頂けませんか?」
「術だと? 儂は成長させる術を施した!
お前も見ていたではないか!!
禍や呪だと?
そんなものを込めてはおらぬ!!」
「貴方が込めた支配が禍化しているのです。
呪を生んでいるのです。
今、浄破邪で徐々に滅していますが、マディアの身体は貴方の禍と呪で消滅寸前なのです」
「マディア、が……消滅、だと……?」
ザブダクルがマディアを求めて視線を巡らせていると、ゴルシャインの後ろを綺桜色の小さな龍が過り、エィムの肩に乗って宥めるように頭を撫で始めたのだった。
「マディア……その手を儂に……此方に……」
呼ぶ声の方を恐る恐るチラリと見たマディアはエィムの背に隠れてしまった。
「マディア……何故……」
「何故って、馬鹿かよオッサン!」
「シルバスノー、言葉が過ぎるぞ」
ゴルシャインが窘めて止め、代わって続けた。
「白銀の弟を止めはしましたが、私も思いは同じです。
今のマディアは生まれて1年といったところでしょう。
記憶もありません。
ですので、ほぼ本能で動いています。
本能に刻み込まれたものからの反応で、素直に怖がり、嫌がっているのです。
貴方はそれだけの事をマディアにしたのです」
浄破邪で弱っている今こそと、封珠を返してもらいたい一心で説得を試みようと話し始めたのだが――
「マディアは儂のものだ……心配し、支えてくれる従順な、腹心だ。
儂から離れたい、なんぞど、有り得ぬ。
マディアを、奪うの、ならばっ!
渡さぬ、為、ならばっ!!」
網と縄の隙間という隙間から闇黒の蛇が躍り出てエィムに向かった。
【させぬ!!】
リグーリからの白蛇の群が黒蛇を追い、呑み込んでいく。
それでも黒蛇が達するかもと、サーブルはエィムの背後に瞬移してマディアを抱いた。
「儂のマディアを!! 返せーーーっ!!」
サーブルが更に瞬移して離れようとした刹那、ザブダクルの禍が爆発した。
〖闇呼吸着!!〗〖強制術移!!〗
禍に包まれ、弾き飛ばされた龍と狐は、詠唱を止めた父達に集められた後、マヌルの里へと移された。
――が、立ち込める禍がザブダクルの神力として吸収されると、素早くマディアを探した。
「其処かっ!」
弾き飛ばされ、禍で気絶した小さなマディアを歯を喰い縛って離すまいと抱くサーブルは、離れてしまった為に落ちたまま残っていた。
即座に瞬移して両手で掴み、引き剥がそうとするザブダクルと睨み合う。
「返せ! 儂のマディアを返せ!!」
「マディアは僕の弟です!!
返してもらいます!!」
「禍を受けておきながら小癪な!
若化仙華昇!!」
至近距離で術をまともに受けてしまったサーブルは気絶したがマディアを抱え込み、尾を身体に巻き付けた。
「第3中隊、只今到着――ってエィム?
やったわね~。許さないんだからっ!
縄と浄化、一斉にねっ!!」
サーブルの手と尾を解こうとしていたザブダクルは三方からの縄に絡め捕られた。
「浄めてあげる!!」「今度はチャムか!!」
「え? バレちゃった?」
職域の強い浄破邪結界へとザブダクルを連れて術移しようとしたチャムが止まった。
『言っている暇があれば術移すれば?』
とエィムが居れば言いそうだが、その場には敵神と神世に昇って来たばかりの中隊の人神しか居ない。
「マディアは渡さぬ!!」
縄を禍で断ち切り、消えた。
「あ……攻撃じゃなくて逃げたのね?」
「中隊長殿! 下に龍が落ちております!」
「連れてエィムの所に行きましょ!」「はっ!」
「集まってね~♪」術移♪
―◦―
今の『神世』から遠く離れようと、闇雲に瞬移を繰り返していたザブダクルは、草原を見付け、マディアが喜びそうだと留まった。
「マディア……目覚めよマディア」
声を掛けても揺すってもマディアは目覚めない。
そうこうしているうちに、マディアの身体は浴びた禍を吸収して、じんわりと煤けていった。
「マディア? そうか。マディアも破邪を浴びて苦し気にしておったな。
儂と同じなのだな」
勝手な解釈をし、同じだと喜んだザブダクルはマディアの身体に禍を込め始めた。
―◦―
《王妃ちゃん大丈夫だからねっ!》
《ユーチャリス、グレイは生きているからね。
泣かないでね》
間の悪い事に、ザブダクルが禍を爆発させた直後――つまりゴルシャイン達をマヌルの里へと飛ばした直後に、退行術の副産物である『黒いの』がティングレイスの魂に現れ、猶予の無いティングレイスに集中せざるを得なくなっていた。
〈はい!〉
《俺も月に着いているから、もう安心してね》
《ドラグーナ、いろいろ並行だけど、次はマディアだよっ》
《もうこんなにも……今度は支配ではなくて禍のみ?
これではマディアの身体は――》
《ドラグーナ。諦めちゃダメだよ。
作り直せると言っても、やっぱり最初の身体がイチバンなんだからね。
禍だけなら、ごく表面だけに集めようよ》
《内側に浸透しさえしなければ魂を戻しても影響は及ばない……そうですよね!》
《ん♪ やってみよ~♪》《はい!》
―・―*―・―
人世では輝竜兄弟と交代した神マーズ達が世界各所で地面を元通りにしては瓦礫を集めて建築資材に戻し、道路を整備していた。
【神世は災厄 真っ最中だから人世をサッサと終わらせないとね~♪
ガンガンいっちゃうよ~ん♪】
【だから引っ張るなと何度言えば覚えるのだっ!】
【早くぅ~♡】【男神姿で言うなっ!】
【女神ならいいんだ~♪♡】【違う!】
相変わらずなガネーシャとキャンプーも頑張って陽の気を保っていた。
―・―*―・―
《マディアてば、繋がり切っても繋いじゃうね~♪》
《本当に強い子ですね》ふふっ♪
《僕達もガンバロ~♪》《勿論です♪》
希望が見えた父達は、娘達を安心させる為以上に楽し気に話していた。
―◦―
黒く染まったマディアの身体は、また大きく膨らみ禍龍と化していた。
「マディア、全てを破壊するぞ。
儂からマディアを奪おうとする全てをな。
先ずは王都だ。
神王殿は本殿のみを残し、儂の城とする。
これで人神達は終わりだ。
次は獣神の里。そして人世だ」
言い聞かせるように話しながら撫でていたマディアの背に乗った。
「行けマディア!」〈ヤダ〉「なっ――」
腹立たしさのままに強い支配を込めた。
「行け! 全てを破壊せよ!!」
込める度にザブダクルの身体も禍の闇に包まれ、瞳は暗赤に燃えていった。
―◦―
《暴走せよ暴走せよ♪
そのまま破壊の限りを尽くせばよい♪》
《浄破邪雷撃!!》
《まだ生きておったのか!?》
《逃げてばかりなのに、どうして僕が滅されたとか思えるの?
避けるのと隠れるのは得意だけど攻撃なんてしていないじゃないか!》
続け様に浄破邪雷撃を放つ!
《呪の暴走が止められねば儂の勝ちだ!》
また姿を眩ませた。
《逃げるな卑怯者!!》
こうなったら呪に向かって放つしかないよね。
間に合うのかが問題だけど。
お願い、気づいてザブダクル。
君はオーロの子なんかじゃないんだよ。
優しくて聡明な君に戻って。お願いだから――
呪鎖だらけのザブダクルの魂内で、カーリザウラの微細魂片は声よ届けと祈りつつ、浄破邪を放射し始めた。
マディアを奪還したのはザブダクルでした。
オーロザウラの呪に支配され、完全に魔化したザブダクルは神世を破壊し尽くすのでしょうか。




