マディアの涙
ポスン程度の軽い揺れで目を覚ました禍龍が、ゆらりと浮き上がった。
「どうした? 休んでよいのだぞ?」
グ~フッ。着地して乗れと伏せる。
「都を破壊したいのか?」とりあえず乗る。
答えずに瞬移した。
――大都上空。
ゆらゆらと左右に揺れながら虚ろな眼差しを漂わせていたが、唐突に急降下して都の半分を一瞬で瓦礫にして舞い上がった。
『全てを破壊せよ』と込められた支配が成長し、禍化して呪を膨らませ、マディアの身体を動かしていた。
手順は止められも変えられもしていないので、これまで通りに全ての建物等を瞬間的に複製して人神ごと地下に押し込んでから破壊していた。
術で一瞬なのは、身体の限界を感じ取っているからに他ならなかった。
上空に戻り、再び急降下。
もう半分も破壊術で瓦礫の地に。
ひと声 吼えると、副都へと瞬移した。
―◦―
〈ど~して? ど~して僕の身体なのに僕が動かせないの? ど~して?〉
〈マディア、起きたの?〉
〈勝手に動いちゃうよ? ど~してなの?〉
〈エーデ姉様、口調が。寝言なのでは?〉
〈そうかもね……マディア……〉魂に額を着けた。
その時ユーチャリスには縦に伸びる煌めきが見えた。
〈姉様、もしかしてマディアはまた身体と繋いでいるのでは?〉
〈え?〉ユーチャリスの視線を追った。
〈本当ね。この糸……前よりもずっと細いのね。
でも浄破邪で成しているわ。器用よね。
これなら支配も禍も伝って来られないわね〉
〈そうですね……〉〈ダメ!!〉〈〈え?〉〉
〈もう壊しちゃダメ!! ヤメて!!〉
魂の中に うっすらと見えている小さく幼いマディアは眠っているが、泣いていた。
―・―*―・―
「お~い瑠璃、帰ってるんなら声かけてくれよなぁ」
言いながらウンディ利幸が隠し社に入って来た。
【この姿の時にその名で呼ぶな!】
龍狐姿でオフォクスとドラグーナに回復治癒を当てている。
「あ~そっか。んじゃラピスリ。
第一部隊 連れて神世に行かねぇか?」
【第一部隊だと?】
「職神の精鋭部隊だ♪
アーマルと一緒に編成したんだ♪」
【兄様は?
それより父様は眠っているのだから、声は出すな。耳障りだ】
【こうか?】
【そうだ。
兄様はその部隊を鍛えているのか?】
【だよ♪
アーマルと俺だけで神力射ってヤツ、あんだけ止められたんだから、ラピスリが来りゃあ一個中隊くらい通せるだろ♪】
【ふむ。
ついでに敵神の結界も破壊するとしよう】
【んなモンあったのかぁ?】
【何度も術移を妨害された。
ウンディを掴んだ場所が術移の限界点だった。
おそらくその先、現世の門までにも、現世の門にも罠が仕掛けてあるのだろう。
人神にしか見えぬ罠がな】
【だからアーマルは引き返すつったのかぁ】
【兄様ならば感じ取ったのだろうな】
【サッスガだなっ♪】
【行くのはいいけど無理はいけないよ。
危険を感じたら引き返してね。
次の部隊を送り込む時には俺も行くからね】
【父様……】【起こしちまったかぁ?】
【深くは眠っていない。それだけだよ】
【地星が戻った時の衝撃を全て吸収したのですから、父様は十分お休みください。
回復治癒は誰かに頼みますので。
では行って参ります】
―・―*―・―
「イーさま、何してるのぉ?」
「頭に乗せてるの、なぁに?」
月のイーリスタは異界のアオから貰った壺『集縮』の中身を山と積んだ上に鳳凰姿で浮かんでいた。
「アオがくれた壺に入ってたんだ~♪
布石像だって♪
僕達の瞬移みたいな曲空って技の目標物になるんだって~♪
だから解析中♪
マディアの魂に入ってる僕の欠片を布石像代わりにして、シッカリな絆で繋ぎたいんだ~♪
またマディアと話せるよ~にねっ♪」
子兎な嫁達が顔を見合せ、頷き合った。
「「イーさま。私達、修行する!」」
「ん♪ それじゃあ――」
山から水晶玉らしいのを幾つか浮かせた。
「お嫁ちゃん達にはコレかなっ♪」
その中から1つ、ふわりと飛んで来た。
一緒に受け止める。「「コレは?」」
「修行のお手伝いするんだって~♪
ふたりで抱いて瞑想してねっ♪」
「うんっ♪」「ありがと♪」
「後で引き上げるから頑張っててね♪」
「「マディア私達の弟だもん♪
私達も話せるよ~に頑張る♪」」
ミルキィとチェリーにとっては大きな水晶玉を一緒に抱えて、ぴょこぴょこと少し離れると瞑想修行を始めた。
―・―*―・―
【行け! 私達に構わず門を通り抜けろ!】
【門の結界も神力射も自己修復は早い!
僕達を気にしている余裕は無いぞ!】
【敵の矢は俺達しか狙ってねぇからなっ♪
サッサと通れよなっ♪】
職神精鋭部隊を率いるのはリグーリとエィムとチャムで、リグーリは門の向こうにも罠が在るだろうと先陣切って現世の門を通り抜けた。
エィムとチャムは門の結界が復活するのを遅らせようと、少しだけ門の向こう側に抜け、其処から両柱に治癒眠に近い神力を注いでいる。
【門を抜けさえすれば敵矢は追って来ない!】
【だから早く抜けてねっ!!】
人神達は3獣神が現世の門を抜けた事で、敵矢が全て後方の3獣神に向いた為に飛び易くなった空を、自分達はまだまだだと痛感しつつ必死で門に向かっていた。
【神世には俺達の兄弟も居る!
獣神の欠片を受け取ってくれたお前らは仲間だからなっ♪
一緒に戦ってくれるからなっ♪
兄弟は揃いも揃って強いからなっ♪
心配すんなよなっ♪】
夜空に鮮やかに輝く銅炎を纏い、ガンガン敵矢を燃やしながら、更に神力射を破壊しながら飛ぶ銅鱗の龍は、楽し気に喋り続けている。
【兄様姉様!
第一部隊、全て通り抜けました!】
【そんじゃあエィム、頼んだぞ♪】
【【武運を祈る!!】】
【はい!】【行ってきま~す♪】
エィムとチャムも門の向こうに見えなくなった。
【離脱する!!】
兄弟の尾を掴んだラピスリが術移した。
――人世の灯りが見える高さから星空を見上げた。
【リグーリの声が聞こえなかったな……】
【向こう側の何かと戦っていたのでしょう。
リグーリも強いのです。大丈夫ですよ】
【なぁアーマル、ラピスリ。
神力射と矢、前よか強くなってなかったか?】
【ウンディよりも学習能力が高いらしいな】
言ったアーマルに続いてラピスリも笑う。
【んあ? まぁ、前よか強くなってるんだな】
【【なっている】】
【そっか。けど次も勝つ!】
【当然そのつもりだ。
自己修復可能な結界は門のものだけ。
他は全て破壊したのだからな】
【その上、神力射に込められている王の欠片が味方してくれるのだからな】
【そんな味方いたのかっ!?】
【【気付いていなかったのか……】】呆れ顔×2。
【あ~アレかぁ。アレだよなっ♪
そっか。王の欠片だったのか~】
【【誤魔化すな】】【うっ……】
―・―*―・―
リグーリ達は強く支配を込められているらしい軍神達と戦っていた。
戦うと言っても眠らせて捕獲しているだけなのだが、とにかく数が多い。
【ま~た増えやがったな。
一気に眠らせる!
エィム! 賽子に集めろ!】【はい!】
【蛇眠浄夢弦!!】【闇呼吸着!!】
子守歌のようなハープの音色が短く響き、術1発で眠りに落とされて漂った軍神達を闇を纏ったエィムが一気に引き寄せ、周りに浮かせている修行用賽子に吸い込ませた。
【お師匠様、この為に僕にウンディ兄様を押しつけたんですか?
すっかり使い慣れてしまったんですけど?】
彩桜から貰った玉は胸に仕舞い、回収した賽子は魂納袋へ。
【さぁな♪
皆! 揃っておるか!】
【はい! 隊長閣下!】各班長。
【では職域結界内で暫し休憩だ! 降下!】
【はい!】一斉!
部隊の人神の多くは死司神なのだが、隊長が梲の上がらない老死司神リグーリと同一神物だとは夢にも思っていないのだった。
精鋭部隊は職域に降り、上の地に近い浄化の門近くに陣取った。
【夜明けと共に動く! それ迄、全員就寝!】
人神達が部屋に入るとエィムが寄って来た。
【お師匠様。賽子の中の軍神達をマヌルの里に預けてもいいですか?】
【それがよかろうな。
だが見つかるなよ?】
【はい。術移で刻んで往復します】
【それでも気を付けて行け】
【はい】礼。術移。
ザブダクルが古い人神専用の術を使うし、獣神には見えない結界やらも成すので、戦力的には大したことはなくても人神を連れて行かなければならないんです。
神力射さえ越えれば、軍神なんて どれだけ多かろうが問題ではありません。
リグーリだって強いんですから。




