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吼える禍龍



「――マディアに昇齢煌拡卽!!」


ビクン、ビクン……ビクンビクッビクンッ――


「兄様この術を!!」

瞬移で戻ったエメルドがゴルシャインに光球を放った。


「共に!」

エメルドとゴルシャインがマディアを上から押さえ付けるようにして詠唱を始めた。


命の欠片を込め続けていた兄達は詠唱の妨げにならないように続けている。


しかし苦し気に暴れるマディアの力は強く、兄達を弾き飛ばしてしまった。


プツッと何かが切れた。


陽に煌めきながらマディアの身体から離れていく それは透明な糸に見えた。


その糸がシュルンとザブダクルの腹に入った。


「さっきの何だよ?」シルバスノーが睨む。


「まさか……儂が切った筈……何故……」


「おい答えろ!! さっさと答え――」


ギャオオオオーーーーーーォオオン!!


火を噴く勢いで吼えたマディアが大きくなり、ザブダクルを咥えて瞬移した。


「私が追う! 王をマヌルの里に!」瞬移!



「急ごう。マディアの事は兄貴に任せよう」


「あれ? サーブルは?」


「追ったのかもな。ソイツにも任せよう」

一斉に瞬移した。



―・―*―・―



 身体が成神(せいじん)の大きさに戻ったマディアは、苦し気に暴れ悶えながら飛び続けていた。


「マディア? 何処へ行こうとしておる?」


しかし低く唸るばかりで答えなかった。


「目を……閉じておるのか?」

身体を縛る鎖の背中側に歯を引っ掛けているらしく、顔が下を向いているのでよく見えないが、捻って見上げると固く閉じているように思えた。


「もしや、あの場から儂を助け出してくれたのか?」


ギリッと歯が鳴った。


「すまぬ! 静かにする!」

食べないでくれ落とさないでくれと祈る思いで、今度はザブダクルが固く目を閉じた。


しかし、静かにしてもマディアが鎖を噛む音は止まなかった。



「あの……」


ザブダクルが恐怖を覚えて震えていると、マディアよりも上から声が聞こえた。


「マディアの身体に何を仕込んでいるんですか?

 凄くお腹が膨れているんです。

 たぶんそれが苦しくて鎖を噛んでるんだと思うんです。

 それに今は本能だけで動いてるから、苦しさから逃げたくて飛んでるんだと思うんです。

 お腹のを消すか出すかしてもらえませんか?」


マディアの身体は成長したのではなく、中の支配の闇球が膨張しただけなのかも知れないと、ようやくザブダクルは気付いた。


「儂をマディアの背に上げてもらえぬか?

 背から込めたのでな」


「やってみます」


マディアの真上を飛んでいたサーブルが真下に回り込もうとした。


ガギュギッ! 「ぅわあっ!」「ああっ!」


耳障りな音がして、ザブダクルは落下した。

マディアが苦し紛れに噛み続けていた鎖が切れてしまったようだ。



―・―*―・―



〈マヌルヌヌ様!! カウベルル様!!〉


何重にも聳える封じられた門扉を次々と開けて、ようやく奥に着いたシルバスノーが叫ぶとカウベルルが姿を見せた。


〈カウベルル様! コイツは人神ですけどマディアの心友(しんゆう)なんです!

 どうかお助けください!〉


〈もちろん助けます。

 グレイを育てたのは私ですので〉


〈えっ!? あっ、お願い致します!!〉


カウベルルはティングレイスに手を翳して唱え始めた。


〈その術……さっき兄貴とエメルドが唱えかけたヤツ……?〉


〈そうですよ。グレイは半獣神。

 どちらも有効なのです。

 術を覚え、交替で絶やさず唱えてください〉

詠唱は続いている。


〈はい!〉一斉。


〈それと、神王殿に王が不在と気づかれれば要らぬ不安を煽ります。

 身代わりを居室に横たえれば十分でしょう。

 最近は臥せっていたでしょうから〉


〈え?〉


〈禁忌の術を何度も重ねられ、魂が蝕まれています。

 これでは起きてなんていられません〉


〈マディアも魂 喰われてるって言ってたな。

 あのオヤジそんな術を……許さねぇ!!

 あっ、それよか神王殿だな。

 誰か行ってくれるか?〉


〈それなら僕が。

 具現化も偽装も得意ですので〉


〈そっか。オパール、見つかるなよ?〉


〈気をつけます〉〈僕もいい?〉


〈そんじゃあエメルドまでだぞ。行け〉


〈ん♪〉〈行ってきます!〉瞬移!



―・―*―・―



 ザブダクルが落ちた直後マディアが暴れたので、サーブルはザブダクルを追えないまま、マディアを落ち着かせようと抱き締めていた。


「マディア、マヌルの里に行こう。

 苦しいの消してくれるから。ね?」


サーブルが瞬移しようとしたその時、マディアが先に瞬移してしまった。



――「って……何処?」


キョロキョロしていると犬を連れた男が現れた。

〈何事だぁよ?〉


〈あの……僕はサーブル。ドラグーナの子です。

 このコは弟のマディア。

 悪いものを込められて苦しいのから逃げようとしてて……此処、何処です?〉


〈副都の北、もう少し行きゃあ次の都だぁよ〉

《おい孫、マディアは無事に生きてるのか?》


〈えっ? フィアラグーナ様ですか?〉


《だよ。答えろ。見えねぇんだよ》


〈生きてはいますけど……無事とは……〉言えない。


《ワル神は?》


〈あのオジサンですか?

 落ちましたけど……〉


《神なのに落ちただと?》


〈たぶん神眼も使えないみたいでしたから、とても消耗してたんだと思います〉


《ふむ。マディアをマヌルの婆様トコに連れてってくれ》


〈はい!〉

と、返事したものの、目の前の男が気になって仕方無い。


〈オイラかぁ? フィアラグーナ様の器。

 ユーレイだぁよ。

 コイツはマリュース様の器だったモグラだぁ〉


〈ええっ!?〉


〈ま、ちゃんとな挨拶は後でだぁな。

 今は急ぐんだろ? おやぁ?

 また龍神様だなぁよ。

 今度はドラグーナ様そっくりだなぁよ♪〉


〈父も知って――あ、ゴルシャイン兄様〉


ゴルシャインは治癒光で包んだザブダクルを爪で引っ掛けて連れて来ていた。


それが見えたらしいマディアが激しく暴れる。


「マディア! 苦しいの出してもらお?

 ね? おとなしくしてよ」


「早くマディアから支配を出せ!」

ゴルシャインがザブダクルをマディアの背に投げた。


〔イヤーーーーーーッ!!〕

意思のある咆哮を轟かせ、周りの皆を衝撃波で弾き飛ばしたマディアは瞬移した。



〈追うぞサーブル!〉〈はい!〉



―◦―



 神王殿に王の身代わりな具現化物を寝かせたオパールとエメルドが上空に瞬移すると――


「龍神様っ!?」


――驚いている男と笑っている女が宙に居た。


「人神?」「ではなさそうだね」


「私達、ユーレイなの♪」


「「ユーレイ!?」」


「人世から来たの~♪」

「ええっとぉ、オフォクス様とか、ドラグーナさ――」「「父様!?」」


「ドラグーナ様のお子様なのね♪」

「その神様達の指示で動いてるんですよ」


「そうですか♪」「父様、元気なんです?」


「地震と津波を消せるくらいには。

 んで、ニコニコしてましたよ」


「良かったぁ」

「それで、貴殿方は此処で悪神を待ち伏せですか?」


「待ち伏せ、つーか待機かな?

 何かあったら動くつもりなんですよ」

「旦那様とモグちゃんが副都なの~♪」


「大勢なんですか?」


「え~とぉ、人6犬3です」指折り数える。


「そうですか。協力したいんですけど僕達も動いている最中ですので……」

「あ、そ~だ♪

 何かあったらコレ振ってください」


「神呼びの鈴ね♪」


「「知ってたんですか!?」」


「響ちゃんが死神様から貰ってたの~♪」


「ユーレイが?」「死司神に?」顔見合わせる。


「ええっとぉ~、エィム様だ♪」

ナンジョウ、ポンと手を打つ。


「エィムでしたら納得です♪ 弟ですので♪」


〈オパール兄様、どの代のコ?〉〈末代だよ〉

〈へぇ~♪〉〈エメルドも会ったじゃないか〉

〈あ~そっか♪ 思い出した♪

 ルビーナ姉様を――〉〈もういいからっ!〉

「それでは僕達はこれで」「またね♪」瞬移。



―・―*―・―



 マディアの背に飛ばされたザブダクルは支配の闇球を取り出そうと必死になっていた。

しかし吼えながら暴れるマディアに乗っているだけでも大変で、膨れ続けて身体にギチギチな闇球を取り出すのは不可能ではないかと諦めそうになっていた。


「マディア! 苦しいの出すから止まって!」

「マディアに煌齢獣拡華!!」


〈やっと、繋がった。でも……限界。

 もう……たぶん出せない……身体、弾ける寸前。

 支配が、禍に、変わってる……弾けたら、凶悪な禍、振り撒い、ちゃうよ。

 だから……全部、滅する、からね。

 ゴルシャイン兄様……サーブル、ありがと。

 封珠だけ……後で、お願い……今、は……離れて、ね……〉

青い瞳から涙が零れた。


「そんな……マディア、マヌルの里に行こ?」


〈コイツに、里、知られる、なんて……ダメ。

 早く……離れて!!〉


「嫌だよマディア!」


〔みんな大好きだからーーーーっ!!〕


「待ってマディア!!」

「来るな!! マディアは儂のものだ!!

 儂が助ける!! 若化仙華昇!!」


近寄ろうとしたサーブルに向けられた術を翻ったマディアの尾が受けた。


マディアの意識が途絶え、意思の無い咆哮が轟き、吼える毎に身体が細くなっていき、鱗は闇を深めた暗黒に変わっていった。


カッと見開いた瞳は暗赤に鈍く光っていた。


【サーブル! あれはもうマディアではない!】

ゴルシャインがサーブルを掴んで離れた。







このバカオヤジは! ですよね。



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