妨害だらけでも出発
行方不明の少年・勝士喜を探す彩桜達が漢中国を飛び回っている間に、キツネの里では兄達が昏睡状態の人達の回復に専念しており、次々と目覚めさせていた。
この20人程は全て白久の魂材神フレブランの一部を魂内に持つ人達で、『漢中国の魔女』こと、魔に堕ちた女神オーガンディオーネ持ちの双子姉妹・鈴春と鈴豊の家から保護したのだった。
魔女は人神魂をターゲットとして魂から噛み千切り取る玉を使い、人魂に混入している医神フレブランを抜き取り、それを喰らう事で神世薬草の知識を得て、悪用して毒薬を作っていたのだった。
【魔女の手法を知る大きな手掛かりを見落として忘れちまうなんてなぁ……】
白久が誰にともなく呟いた。
【そうですね。魔女が多くの神様の真核を取り込んで利用していたと知った時にも、この方々の事には思いが至りませんでした】
藤慈も項垂れる。
【白久、藤慈。負に傾いてはならない。
魔女オーガンディオーネは全滅させられ得たのだからな。
この方々は今から救う。
元の生活に戻って頂けるよう、支えよう】
金錦が何事にも、何者にも負けぬと弟達各々に笑みを向けた。
【だよな。白久兄のフレブラン様との共鳴と治癒、藤慈の薬で意識を取り戻してるじゃねぇか。
元気出せよ。ライブもあるんだからな】
まだ意識は確かではないが起き上がれた男性に粥を食べさせている黒瑯も、兄弟に笑顔を向けていく。
そこに月の神達と照陽が現れた。
【置き換えは得意なの。
私達も音神様方の音色を楽しみにしておりますのよ。
参じさせていただきますわね】
宣言して、混入フレブランを摘出している青生達の方へ行った。
狐でない大神達を運んだ理俱が紅火の隣へ。
【何を作ろうとしてるのかは分かった。
俺も勝手ながら加わるからな】
【頼む】
―・―*―・―
最初に行った病院と同様の、古めかしくて設備が整っているとは思えない病院の4箇所目。
【居た! 早く行かなきゃ!】
彩桜は姿を白久に偽装(大人になっただけとも言う)して病室前に瞬移し、突入した。
「まだ外さないでもらえますかね?
彼は邦和人。誘拐されましてね、我々は捜していたんですよ」
薄暗い病室で少年から生命を維持している諸々を外そうとしていた者達は手を止めたが、怪訝も露に侵入者を睨んだ。
「どうやって入って来た?」
この暗さでは顔なんて見えていないだろうと、クルンと忍装束に。
「忍者ですのでね、どうとでもなりますよ。
銀マーズ参上。仲間を返してもらいますね。
ああ勿論、お世話になった分はキチンとお支払い致しますのでご心配なく」
「マーズ……あの有名な?」「エルサムの奇跡……」
「そのマーズですよ。
仲間を引き取っても?
その非人道的行為には目を瞑りますのでね」
医師と看護師達は頷くしかなかった。
「そんじゃあ退院手続きをしましょうね。
緑、空。里に運んでもらえるか?」
「「承知」」
新たに現れた忍者達はベッドや機器ごと少年を連れて消えた。
「そんな顔しなくても後でお返ししますよ」
―◦―
フッカケられているのは承知の上。
更に上乗せして支払って驚かせた時、緑マーズと空マーズが新品に戻ったベッドと最新に化けた機器を連れて戻った。
「礼には礼を以て返す。それが忍者だ。
確かに仲間が世話になったからな。
まだ不足なら俺達の音楽事務所に言ってくれ。
今後、似たようなケースが起こった時にもな。
金にならないからと非人道的行為に走られちゃあ目も当てられねぇからな。
そんじゃあサラバだ」
外へ瞬移。狐儀が連れて術移。
――キツネの里。
【兄貴達~♪ ただいまなの~♪】順にハグ。
最後は青生に。すると大神達から撫でられた。
【神力増強ありがとございます♪
勝士喜くん置き換えは?】
【全て補填したところだよ。
家に運びたいんだね?】青生も撫でる。
【うん。欠片な獣神様、目覚めてもらわなきゃだから犬達と一緒がいい思うの】
【そうしよう】【獣神の欠片があるのですか?】
【と~~っても小っちゃ欠片なの。
でも大神様。無意識瞬移しちゃうの。
たぶん継承アヌビス様。
お社のアヌビス様の……父ちゃん?】
【そうかもね。
欠片の神様がピクンと反応したからね】
【彩桜、どこに居るんだ?】
【悟だ~♪ 俺、兄貴達も一緒なの。
後で合流するから、黄緑達 連れてって会場でリハお願いなの~♪】
【また何か巻き込まれたんだな?
黄緑達なら任せろ。じゃあ後でな】
もうライブ迄の時間が少ない。
各々が中断できるようにキリよく進め、その間に狐儀と理俱が沙由と勝士喜を輝竜家に運んだ。
そしてマーズとして、揃って会場入りした。
―◦―
ライブが始まると、曲中は真剣なので話したりしないが、曲間やステージ転換等で舞台袖に居る時などは ずっと話していた。
この件についても。カウントダウンが始まったらしい災厄についても。
【狐儀師匠、サーロン。
響お姉ちゃんに聞かれたら、勝士喜くんも保護してたにしといてね】
【何故なのです?】
【あんまり早く解決したら団長が拗ねるから?】
【かも~】これは彩桜なりの肯定。
【なんだか張り切ってるから拗ねるよね。
そうしとくよ】【では私も】
【あとねぇ、レコーディング頑張ってるけどぉ、リリース、災厄後なのぉ】
【うん、災厄後だね】青生も加わった。
【日程的に そうだろうとボクも思います。
それも響が張り切ってるから?】
【かも~。でもね、響お姉ちゃんなら、
『でも『後』があるんですよね?
災厄で終わりじゃないなら全力で仕上げます!』て言うから大丈夫なの~♪
話してあげるだけでいいの~♪】
【そっか。黙ってると拗ねるよね】
【あのね あのね♪
人世の復興を支える歌だから頑張ってなの♪
陽の気にしないとなの~♪】
【そうだね♪ 響はお陽さまだからね♪】
【ではレコーディングの為の練習中にでも無難な情報を選んで話しますね】
【お願いしま~す♪】
【狐儀殿に全てを押し付けてしまいますが、お願いしますね】
【ボクからも! お願いします!】
【では、そのように。
彩桜様とサーロンは、今週は?
登校せずに続きをなさるのですよね?】
【うん。勝士さん探さなきゃなの。
ユーレイなってる思うけど……】
【それは、捜索するというだけに留めますね。
ですが団長殿が加わりたいと言った場合は?】
【んとねぇ……ソラ兄、俺と相棒してるのがいいってカケルさん見捨てそぉなってるから、奏お姉さんの為にカケルさんの監視役する言うから大丈夫♪
だからカケルさんの修行と災厄に備えてのお話、よろしくお願いしま~す♪】
【理俱が言っていた件ですね。解りました】
【お兄が必要なの? どうしても?】
【んとねぇ……存在が大事、かにゃ?
えっとぉ……トシ兄と同じみたい。
『加わってる』『仲間』なのが『鍵』みたい。
だから妨害いっぱいなるけど、怒って封印しないであげてねぇ】
狐儀とサーロン、大溜め息。
―◦―
ライブは何事も無く終わった。
新婚ホヤホヤもいいところな黄マーズには心咲と一緒に帰ってもらい、橙マーズと白マーズに黄緑達を頼んで、他はキツネの里に戻った。
黒瑯とリーロンはレストランと両立させるべく分担を決めて動き始めた。
移動サポートには里の狐神が付いてくれる。
紅火と理俱には稲荷堂の仕事もあるので、こちらも分担しなければならなかった。
キツネの里に残る側は、領域昇華を維持する金錦と共に進めるとだけ決め、稲荷堂に戻る側は狐儀と共にカケルの指導も担うと決めた。
狐儀自身は梅華と共に青生と瑠璃の代わりとして動物病院に居るとし、中学校の慎介 彩桜 サーロン、So-χのソラは分身にさせると決めていた。
しかし、青生 瑠璃と話して、さあ動こうという時に理俱に捕まり、カケルの指導は自身でするしかないと諦めたのだった。
狐神ガイアルフを魂内に持つサーロンは里の狐神から術移を習い、すぐに使えるようになったので彩桜と捜索に出ようとした。
【サー兄ちゃんボクも行くのっ!】
【危険だからダメだよユーロン】
【行くのっ!】【ボクが乗せるからいいでしょ♪】
【ユーロン……】【飛鳥までぇ】
【ボクは龍神だから、お家の分身も保てるし、役に立てると思うんだ♪
ユーロンだってユーレイだから、ユーレイ探すの役に立てるよ♪】
【ちゃんと さがすからぁ】
【探すのはユーレイなサーロンが居るんだけどにゃ~ん】
【私はサクラ乗せるから決まりよねっ♪】
チビッ子マーズの親玉登場。
【ランまでぇ】もおぉ~。
なかなか出発できない彩桜とサーロンだった。
行く、行かせないの押し問答を暫く続けたが、家に帰してもコッソリ来るだろうし、そうでなければ勝手に動いて危険に巻き込まれるだろうからと連れて行く事にした。
【俺が団長だからね。サーロン副団長ね。
団員は団長と副団長の指示に従わないといけないの。
違反者は封印するからね。
それでいいなら一緒にね】
【【【は~い♪】】】ケイレイ♪
【彩桜、ショウを連れて来たけど?】
彩桜に頼まれて中渡音に戻り、響を起こして戻ったらチビッ子達がケイレイしていてビックリなサーロン。
【うん、ありがと♪
ショウなら網あるから無茶したら捕まえてもらえるからね♪】
【僕、スズちゃんとアスカとユーロン捕まえる係?】
【最悪そぉなるかも~♪
でもね、ちゃんと考えてるから一緒にお願いねっ♪】
【うんっ♪】
そんなこんなで彩桜 サーロン ショウを乗せたランマーヤと、ユーロンを乗せたサファーナは人世の世界中を巡る旅に出発した。
―・―*―・―
その頃、とある者の魂内では――
《ようこそ御越しくださいました、闇禍様》
〈ふむ。まずまずの居心地だな。
前に儂を呼んでおったオーガンディオーネとやらは?〉
《ヒノカミに滅されまして御座います》
〈ヒノカミが居るのかっ!?〉
《ですが最近は来ておりませぬ。
私はオーガンディオーネの子、オーロザウラと申します。
母と同じく世を滅亡寸前とし、救う者なんぞ存在せぬと示した後の世を統べる者と成りたく存じます。
その為でしたら如何なる事でも致しましょう。
どうぞ御指示を》
〈ふむ。滅亡寸前とな。よかろう。
ただし儂にも時が必要だ。
長旅であったが故な、暫し眠らせてもらうぞ〉
《は》
魔女オーガンディオーネに代わって闇禍を地星に呼び込んだオーロザウラ。
滅亡寸前にして残った世の王になろうとしていますが……闇禍は滅亡させる気でしょうね。
愚かな企てですが、それすらも超越者とやらの思惑の内なんでしょうか?
ともかく、『地星の災厄には必ず闇禍が絡む』という条件は整ってしまいました。
今○○達(瑠璃:今ピュアリラ、青生:今ブルー、彩桜:今チェリー)は近寄れなくされていて、闇禍が来たのも拾知できなくされている状態で、闇禍は密やかに器に融合して災厄を起こすのでしょうか?




