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暴走が止まらない



 ティングレイスをどうにか気絶させたザブダクルは、今 襲われたなら終わりだと気合いで緊張状態を保つと、ティングレイスから少し離れて様子を見つつ大の字に転がった。


 それにしても……

 見回りも見張りも居らぬのだな。

 しかし見つかれば厄介極まりない。

 此奴を玉座に戻して去らねばならぬな。


 だが去る前に、この王……

 神力も抜けず、これ程まで身体を

 動かせてしまうのならば

 繋がりは極限まで細くせねばならぬな。

 支配も込めておかねばな。



 この日 何度も破邪を浴びたザブダクルは、気が遠くなりそうな意識をなんとか留め、倒れそうな身体を浮かせようとしても足を引き摺ってしまう状態で、何度も休みながらティングレイスを玉座に戻した。


そして繋がりを細め、支配を込めていたが、その手が止まった。


 ん? この術……身体を若返らせるだけで

 記憶はそのままではなかったか?

 では何故マディアは……?

 術とは無関係に忘れたのか?


ようやく気付いたものの、真相を知らないザブダクルは首を捻るばかりだった。


 いや、考えておる場合ではないな。

 早急にマディアを連れて去らねばならぬ。




 重い身体を引き摺って隣室に行くと、マディアが片目だけ開けた。

〈誰?〉


〈何度 言ったら覚えるのだ?

 儂はマディアの主だ〉


〈知らない。此処……何処? 僕、帰る〉瞬移。


〈マディア!? 戻れマディア!!

 儂に……治癒を当ててはくれまいか?〉〈ヤダ〉


ザブダクルは泣き崩れた。



―・―*―・―



 夜明けが迫る稲荷山では、仮職域の形は完成しており、各施設・設備が稼働可能かの最終確認を大急ぎ且つ的確に行っていた。


確かに切羽詰まってはいるが、これまでにない程に意気揚々と職神達は動いていた。


もちろんそれは、神にとっては陽の気こそが正義だからでもあるのだが、支配を解いてもらったばかりの者達が今ピュアリラ様は美神(びじん)だと口を揃えて話した効果でもあった。


【こんなにも信奉者が居たとは……】


【確かにな。ラピスリが気付いたなら、また嫌そうな顔をするだろうな】


【嫌で仕方無いのだろうよ】


【美神も真実なのだがな】


【自覚は薄そうだからな】


【確かにな】


ロークスとラナクスも手は止めていないが、なんだか楽しそうなのは口数の多さが物語っていた。



―・―*―・―



 ザブダクルは場所を移して泣き続けていたが、マディアの治癒が恋しくて起き上がった。


 儂の声は聞こえておったな。

 王を餌にすれば現れるか?


神眼を神王殿に向けた。


 流石に明るくなれば臣下も集まるか。

 王めが臣下達と楽し気に……

 前よりも良くなっておるではないか!!


 その笑顔なんぞ消してやる!!

 全ての街を破壊し、

 都に迫ってやるからな!!


 その為にもマディアを捜さねば――


首輪から伝わる筈の王の声が聞こえていないのにも気付かないまま、ザブダクルは神王殿に向けていた神眼を閉じ、マディアの気を捜し始めた。



―◦―



 封珠の中で夜中に意識を取り戻したティングレイスの魂は、エーデリリィ、ユーチャリスと話しているうちに身体と離れている事、身体は玉座に居るという事に気付いて慌てていた。


それをエーデリリィが特任で王の影武者をしているのだから王として振る舞いなさいと説き伏せたので、神王殿の人神達は影武者だとは知らず、自分を王だと信じて接しているのだと認めるに至ったのだった。



―◦―



 支配が解けている宰相や大臣達は、王の雰囲気が変わったのを悪神の破壊行為で神王殿中が暗く落ち込まないように努めてくれているのだと受け止めていた。

なので支配が解けていない大臣達に早まるなと説得し続けてくれていた。


「陛下、本当に軍を動かさなくてもよろしいのですか?」

しかしそれでも我慢の限界だと、大臣の中から1神が進み出た。


ティングレイスがその大臣の方を向いた時、首輪が外れて落ちた。


「相手は軍神よりも強いから、今は壊させておくしかないよ。

 街の皆さんは地下に保護しているし、建物はまた建てればいいんだからね」

外れた首輪を玩んでいたが『捨てて』と控えていた執事に渡した。


「ですが――」


手で制して、皆に寄るように手振り。

「エーデラーク様の配下達が動いているから心配しないで。

 街の人神さん達を地下に保護しているのもエーデラーク様なんだよ。

 あの黒い龍は術で成したものなんだって。

 だからほら、形はエーデラーク様そっくりだけど、あの美しく煌めく碧色は濁った心では再現できなかったみたいだね。真っ黒だから。


 職神様達も人世に避難して四獣神様の所で反撃の為に修行してるからね。

 全てエーデラーク様の獣神語での御指示なんだけどね。


 今、飛び出せば滅されるだけだよ。

 悪神は禁忌無関係な攻撃をするらしいからね。

 僕は誰も失いたくない。

 だから心が苦しいけど我慢してね」


臣下が大勢の時は『何もするな』『出て行くな』としか言わなかったティングレイスだったので、大臣達は納得して静かになった。



―◦―



 見つけたぞ!


 ふらふらヨロヨロなザブダクルがどうにかこうにか瞬移を繰り返して着いた先は最果ての岩壁の上で、マディアは強い浄破邪結界の中で眠っていた。


離れて見る事しか出来ないザブダクルは目覚めるのを待つより他には無いと座った。


 鱗が元に戻りつつあるのだな。

 ルサンティーナの瞳と同じ美しい碧色に。

 儂とて黒くなんぞしたくはないのだ。

 しかし反抗するのならば――


唐突に苦し気に震えだしたマディアが吼えながら嘔吐した。


「マ――」〈来るなっ!〉


ボテボテと落ちる闇球を1つ1つ破邪光で包んでいたが、もう出ないとなると、

滅禍輝雷(めっかキライ)!! オジサン嫌い!!〉

怒りも露に全て消し去って、フンと外方(そっぽ)を向いて伏せた。



 ザブダクルが声も掛けられないまま、肩で大きく息をしているマディアをただ見ていると、半球状だった結界が球体になって浮き、スッと遠くに離れてしまった。


〈来ないでよね。

 もっと離れたいけど追っ掛けて来るでしょ。

 だから見えるギリギリ。

 ……どーして来たの。

 人神が来るトコじゃないでしょ。

 どーして離れてくれないの。

 さっき嫌いって言ったでしょ〉


〈マディア――〉〈どーして知ってるの〉

〈儂は主だ――〉〈初対面〉

〈昨日も儂――〉〈修行してた。ひとりで〉


何を言おうとしても聞きたくないとばかりに遮られ、ザブダクルは口を(つぐ)んだ。


〈僕、同じニオイの人神(ヒト)知ってるの。

 いっぱい地に叩きつけられたし、いっぱい鱗も剥がれたの。

 大好きなトリノクス様を堕神にされたの。

 だからマリュース様を連れてかれないように修行して早く強くならなきゃなの!

 もう来ないで!!

 人神(ヒト)トコ帰ってよ!!

 獣神(ケモノ)に関わらないで!!〉



 トリノクスが堕神とされた後、マリュース、ティングレイスと共に禍の滝に戻ったマディアは、時折こうして単独修行していたのだった。


滝で2神と共に居ると落ち着いており笑顔も見せるマディアだったが、ひとりになると殺伐としていて、この不安定さはエーデリリィに出会うまでずっと続いていたのだった。


優しさを取り戻し、明るくなれたのはエーデリリィと共に暮らしていたからこそ――などとは知る由もないザブダクルは記憶を消したからだとも思い至れず、昨日の事すらも忘れているという状況に異常さを感じる事すらも出来ずに、ただ怒りを爆発させてしまったのだった。


「若化仙華昇!!」


 それでも足りずにマディアの魂と身体との繋がりを断つと結界が消えたので、背に乗り、一気に大きく膨らませた支配闇球を押し込んだ。


再び鱗が煤けていき、真っ黒になった。


「マディア」


返事は無いが頭を上げて目も開けた。

子供らしく大きくて澄んだ青い瞳は暗い赤に変わっており、瞼すらも重いと言っているかのように薄く開けて声の出所を探している。


ザブダクルはマディアの顔の前に浮かんだ。


「儂はマディアの主だ。主の(メイ)は絶対だ」


小さく吼えた。


「先ずは儂に回復治癒を当てよ」


右手が上がり、爪の先からの治癒光がザブダクルを心地よく包んだ。


「ふむ。では儂を乗せ、人神の街に向かえ。

 何処からでもよい。破壊し尽くすのだ。

 街ともなれば強い者も居ろう。

 邪魔立てせぬよう先に地下に封じ、街ごと神力圧で押し潰すのだ。よいな?」


低く唸り、乗れと身を低くした。


乗ると浮かんだが、ぎこちなかった。

それでも黒いマディアの身体は飛び始めた。



―◦―



「マディア! マディア!?

 もうっダグラナタン!

 泣いていないでマディアに神力!!」


「はははいっ!」


マディアが喋った事も思った事も全て流れて来るので、ダグラナタンはまた自分の所為(せい)でと泣いていたが、慌てて寄り、マディアの魂から漂う悪気(あっき)に浄破邪を当て始めた。



〈あれれ?〉「マディア♪」〈あ……〉ぽ♡

「エーデよ♪」〈ええっと~、、大好き~♡〉


気絶から目覚める度にこうなので、すっかり慣れてしまってはいたが、不安が増しているのも否めないエーデリリィとユーチャリスだった。


その時ふわりと何かが落ちて来た。


「え? 糸!?」


〈ん? 僕の? 戻したらいい?〉


「戻せるの?」


〈まっかせて♪〉


ピンと張った糸がスルスルと昇って行った。


「凄いわね……」「そうですね……」


〈元通り~♪ あ……〉


「どうしたの?」


〈アイツ……どーして乗ってるの!?〉

「落ち着いてマディア!!」ぎゅっ!


〈うん♪ でもどーして?〉


「アイツは人神の街や村を全て破壊しようとしているの。

 ひとりにすれば本当に神世を破壊し尽くしてしまうわ。

 だからマディアに乗っているのを逆に利用するのよ。

 マディアなら破壊の直前に人神達全てを地下に逃がせられるでしょう?」


〈うん♪〉


「蓋をしてアイツに見えなくも出来るでしょう?」


〈簡単だよ♪〉


「おとなしく言う事を聞いている振りをして、皆さんを助けてあげてね♪」


〈うんっ♪〉







暴走魔ザブダクル。

全てがオーロザウラの呪だとしても、気づけないものなんでしょうか? ですよね。



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