破壊し始めた禍龍
【おいサイ】
怨霊だった人魂を死神に渡している響達を離れた場所から見ていると、フィアラグーナが声を掛けてきた。
その声は初めて明瞭に聞こえたとサイオンジは思った。
【何だぁよ?】
【俺がサイの中に入った経緯が判明った。
さっきの地震だ。
あの時、俺は孫を助けようとしてたんだ。
『みんな人世に逃げて!』と吼えた孫を助けようと、俺は近くにあった俺の欠片を集め、身体を成そうとしていたんだ。
其処に憎悪の化身の如き人神が現れた。
中途だったが已む無しと俺は戦った。
奴は孫に乗り、孫を操ろうとしていた。
しかし孫は抗っていた。
孫の魂は身体の中には無く、何処かに封じられていると感じた。
身体を保つ為だろうが、糸の如き細い繋がりが見えたのを辿ると、奴の腹の中に達した。
触れた封珠を掴み出そうとした俺を奴は渾身の術で時空の彼方へと飛ばそうとしたんだ。
途上の身体では防ぎきれなかった。
飛ばされていた俺に孫の声が届いて引き戻され、また別の術に撃たれと繰り返して、落下したのが生まれたばかりのサイの中だったという訳だ。
そもそもサイに入ってたプラティーナ(妻)が引き寄せてくれたんだがな。
その時の神力の激しい ぶつかり合いが、俺の落下と共に、時は違うが人世に落ちたのが、さっきの地震だろうよ。
それを鮮明に思い出したし、見えたんだよ】
【そんじゃあ今お孫さんはよぉ?
まだ戦ってるんじゃねぇのかぁ?】
【そうだろうな……だがドラグーナの子だ。
ドラグーナの子は強い。
支配されるなんぞ有り得ぬ。
まだまだ耐える筈だが……人世が落ち着いたならば助けに行きたい。
必ず戻ると約束したからな】
【勿論だぁよ!】
―・―*―・―
ティングレイスも魂のみにして封じた後、ザブダクルが別室に行くと、目覚めかけのマディアは封印を破って飛ぼうとしていた。
慌てたザブダクルは知る限りの眠りの術を幾重にも掛けて、ようやく深く眠らせたマディアを引き摺るようにして職域の上に戻った。
誰も居らぬのか……?
儂が入れぬようにした上で逃げたのか!?
ならば神世に戻れぬようにしてやる!
ようやく状況を把握したザブダクルは、今度はマディアを背負う格好で瞬移した。
――神力射が並ぶ空。
「誰も通れぬようにしてやる!!」
誰にともなく叫び、詠唱を始めた。
―◦―
その様子を、三角に並んでいる神力射を盾として窺っていたエィムとミュムは姿を消したまま そっと離れた。
神力を察知されないよう静かに飛んで。
【上の様子をと思って来たのだけれど……】
ミュムが悔し気に振り返った。
【もう昇れそうにないね。
人世で神力射よりも強くならなければね】
【皆様にも報告しなければ……】
【ミュム? 落ち込んでる?
リリムも人世なんだから人世でよくない?】
【マディア兄様が……あんなに黒く……】
【兄様は強いんだから……振りだよ振り】
【エィムも無理矢理……でも信じるよ】
涙を堪えて急いで降りていた。が――
『また来やがったな!! マディアを返せ!!』
――の声で反転した。
しかし、銅色の神炎に包まれた敵神が消えたのを見ただけに終わった。
【エィムあれ!】【ったく~】
神力射の射出口が開き、侵入者に狙いを定めたのが見えた。
仕方が無いのでエィムとミュムは兄を捕まえに行き、触れて即、眠らせると人世に降りた。
―◦―
またザブダクルの腹の中に戻された封珠の中では外の様子が全く見えなくなっていた。
「グレイ! しっかりして! グレイ!」
「マディア! 目を覚まして!」
ティングレイスの魂は気絶状態で現れ、暴れ騒いでいたマディアの魂も今は気絶していた。
魂のみとされて封じられた夫を抱いてエーデリリィとユーチャリスは神力を注ぎ、呼び掛け続けていた。
ザブダクルの支配を確かめに行って間違いなく人神用だと報告した後、再び外の様子を見る為に外殻付近に行っていたダグラナタンが戻った。
「ザブダクルは王を玉座にただ座らせ、軍神達の支配を強めて人世から神が戻れないように下空に配置しました。
その上で、マディア様の身体に乗って村や街を襲うと決めました。
マディア様は抗っておられますが――」
〈させないよ……みんな……地下に……入ってて。
蓋、するからね……我慢しててね……必ず助ける、から……〉
「マディア……」
〈大丈夫……助けるよ……〉
〈宰相殿、心配だろうけど動いてはならないよ。
サティアタクス王様の御指示を待ってね。
誰も滅されてないから……静かになるのを待っていてね……〉
「グレイ……?」
「サティアタクス王様って……」
「記憶の混乱かもしれません。
私も随分と思い出せませんでしたので」
「そうかもしれないわね。
身体から離されると起こる事なのかもね。
大丈夫よユーチャ。
グレイは生きているのですもの」
「そうですね」
「私、外殻に行って声が届くのかを試してみるわ。
マディアの魂からの糸は身体に繋がっていると思うの。
だから糸を通じて、身体からマディアの言葉を伝えてみるわ」
マディアの魂をダグラナタンに託して、エーデリリィは糸を辿って昇って行った。
―・―*―・―
すぐに放送が復旧した避難所のテレビは、押し寄せようとしていた高い津波が固まって止まっている場面から、音も無く消える迄を何度も何度も繰り返して放送していた。
他は病院や発電所やらが奇跡的に無事だったとか、行方不明者や死亡者の報告が無いとかも繰り返していた。
そこに遠くから地響きが伝わった。
不安気な人々が崩落音のする方を向く。
「何事でもありません!
避難が完了して誰も居なくなったから、街の瓦礫が落ちているだけです!
マーズの龍神様がずっと保ってくださっていたんです!
復興はお任せください!
元よりも良い街にしますので!」
順志が声を張りながら走り回っている。
「順志お兄さん!」
「ああ、祐斗か。大丈夫だから――」
「僕達にも何かさせてください!」
「それじゃあ、さっきの伝えてもらえる?」
「はい♪」「放送室、ありますよね?」
「そうか! BGMも流そうかな?」
「凌央ナイス♪」「行くぞっ♪」
「闇雲に走らないでよね。店長とかは?」
「そうだな。事務室に行こう!」「はい!」
―・―*―・―
〖誰か……声を拾って……誰か……〗
【拾ってますけど……もしかして姉様ですか?
僕は龍の里のサーブルです】
〖私はエーデリリィ。初代よ。マディアの妻〗
【マディアの!? 僕、マディアと同代です!】
〖良かった……。
マディアの言葉を伝えてほしいの。
壊された街や村の人神達に。
人神達は地下に居るわ。
マディアが保護したの〗
【見えました。
あれは……マディア?
でも黒い?
黒いマディアが街を……どうして?】
サーブルが神眼で見ている光景がエーデリリィにも伝わり、外殻から微かに見えている光景と合わさった。
〖マディアの魂は封じられているの。
私も。王と王妃も一緒よ。
街を壊しているのはマディアの身体。
悪神が支配を込めたから黒くなったのよ。
壊してはいるけれどマディアは人神達を地下に保護しているの。
突然 閉じ込められた人神達が恐怖や不安で禍を増やしてしまう前に、伝えて〗
【はい!】
〖人神にとって、あの龍はマディアではなく死司最高司補エーデラークよ。
だから魂を抜かれて封じられているのはエーデラーク。
その言葉として伝えてね。
神世を滅ぼそうとしている悪神から見えないように地下に保護しているだけだから、不安を懐かないでと。
悪神を倒したら出しますからと〗
【はい!】
―・―*―・―
【オフォクス~♪ も~揺れないよねっ♪】
ぽよん♪ とガネーシャが現れた。
【はい。暴走神力は全て吸収しましたので】
【ドラグーナは?】
【今は休んでおります】
【それじゃボク達が復旧しないとね~♪】
【は?】
【邦和の人達って、あのくらい平気なの?
騒いでないけど~、他は大騒ぎだよ?】
大きな耳をパタパタさせて集音している。
【……確かに】探らなくても神眼で十分だった。
【だから~♪ もう大丈夫だってくらいは教えてあげないとね~♪
ね~キャンプ~♪】
【私に振るなっ!】
【教えるとは?
御姿を見せるおつもりですか?】
【こ~んな時だから~♪
神降臨もいいんじゃないかな~♪
新たな神話、作っちゃお~かな~♪】
【その前に!】【ん? キャンプ~な~に?♪】
【お師匠様方に揺れは終わりとお知らせせねばなるまい!】
【そっか~♪ もっかい核ねっ♪】消えた。
そして大神達が戻った。
【支え疲れたから寝るぞ】
ブラフマーが宣言して、ぞろぞろと隠し社へ。
【ありがとうございました!】
【父様ゆっくりしてね~♪】
キャンプーとガネーシャが礼!
オフォクスも一緒に深々と頭を下げた。
【あ♪ ボク達、シッカリ神力が高まったんだね~♪
心話ぅわんぅわん反響なくなった~♪】
【確かにな。吸収した神力、核の神力も己が神力としたのであろうよ】
【そ~かもね~♪ あ♪】
【また何だ?】
【ボク達も忍者しよ~♪ 忍ノ里の神忍♪】
【私も、なのか?】
【トーゼンでしょっ♪
でも馬のままでもいいよ~ん♪
神忍のボクが乗ってあげる~♪】
【喧しい! マーズで行く!】
【うんっ♪ 一緒に行こ~ねっ♪】
【寄るな!】
【キャンプ~のイケズぅ~♪】
ぽよん♪ と腰帯ナシ忍者に。
【何故に喜んでいる!?】
叫びつつも同じく忍者に。
騒ぎながら社の外へ。
【あ♪ そ~だ♪】
腰帯をパステルブルーとパステルピンクの2本に。
【神忍マーズだからね~♪】ぽよんぱよん♪
【兄様あれ……】【追いましょう】
近くに居た狐儀と理俱もマーズになって同行した。
マディアの身体は人神の街や村を破壊し始めました。
ですがマディアは人神達を地下に保護しています。
ドラグーナの子だという思いは誇り。
なので無意識でも、幼くなっていようともマディアはマディアなんです。




