マディアだけでなく神王も
オーストリアに集結していた輝竜兄弟だったが、揺れが始まると支配が解けている職神達を率いてルロザムールが来てくれたので欧州は任せて、揺れを止めようとするドラグーナを内で支えるに至っていた。
【父様!】【皆で父様を支えるのです!】
オニキスとウィスタリアに続いてドラグーナの周りに子供達が集まった。
【俺は大丈夫だよ。
輝竜兄弟が支えてくれているからね。
人世の反対側をお願い出来るかな?
散開して俺と同じように支えてね】
【はい!】一斉に瞬移した。
今度は狐神達が現れた。
【ドラグーナ、儂等は海の力を吸い上げる。
無茶はするなよ】
【そうしたいんだけどね……】
【言っても無駄だとは知っておる。
しかし言っておく。
此れで終わりでは無かろうからな】
【そうだね……お互い余力は残さないとね】
【うむ】
大きく頷き、狐神達に視線で指示をすると、オフォクスとトリノクス、その子供達も術移した。
―・―*―・―
月では――
「道は壊れてないよ♪」ぴょんぴょん♪
「イーさま、もう人世に行けるの?」
「繋がった? まだ繋がってない?」
「あと少しかなぁ……確かめるねっ♪」
「「うんっ♪」あら?」「ん?」「ほら……」
ミルキィが指した方向、遠くに瑠璃色の龍が居た。
「真っ白な羽……」「鳥みたいな大きな羽……」
「うんうん。僕らの知ってる龍神じゃない。
頭で輝いてるのは光輪かな?
僕達よりずっと神々しいねっ♪
でも……何かに隔てられてるみたいだね。
壁? 見えないけど。
先に向こうに道を伸ばしてみるねっ♪」
「「お手伝いする~♪」」「ありがと♪」
―・―*―・―
橙マーズと白マーズはショウ達と共に中渡音から東へと離れ、動けない人々を運びつつ、祓い屋達と連携して地区毎の避難所を整えていた。
祓い屋達も面を着け、具現化ユーレイ達は忍装束になっている。
【あの龍神様、彩桜とお兄さん達だよね?】
【だな。揺れを抑えて、建物の崩壊を止めて。
大神力だから光ってしまうのも利用して陽の代わり。
流石だよな】
【特忍、凄いよね♪ 目指そうね♪】
【モチロンだ♪】
―◦―
西海村の住人は大半が老人だ。
その全てをミツケン保養所に運び終えたシドと勝士と勝士喜は、西へ西へと救助活動の範囲を拡げていた。
〈シド、ソラは?〉
〈どうしても現れてしまう怨霊と戦ってます。
でも本体なら大丈夫です♪〉
〈そうか。頼もしいな〉〈はい♪〉
―◦―
中渡音市とその近隣の避難所と化したオッテンバッハ アウトレットパークでは、ミツマル建設と栄基土木の社員達が誘導をし、避難所を整えていた。
「岐波部長!」
栄基土木の紗桜が息を切らして走って来た。
「紗桜部長、何かありましたか!?」
「いや、山南牧場の牧丘さんから電話なんだ。
輝竜常務に繋がらないからって」
スマホを差し出した。
「ありがとうございます!
もしもし、輝竜の代理で岐波と申します」
『ウチの牧場も無事だから前にイベントで使った小屋を建てたんだよ。
避難所として使ってもらえるかな?
イベントの時の臨時駐車場も開けたからね』
「ありがとうございます!
すぐにそちらに参りますので!」
『食料も輝竜さんから預かっているからね。
心配せずに利用してね』
「はい! ではすぐに!」
『待ってるよ』
「紗桜部長ありがとうございます!
京海、此処をお願い。
牧場の避難所を整えたら戻るから」
「はい!」
「巧! 第二避難所に行く!
ついて来い!」
「はい! 順志兄さ――じゃなくて岐波部長!」
「ったく巧は~。チャリで行くぞ!
紗桜部長、では少しだけ抜けますので!」
順志と巧は自転車で牧場に向かった。
―・―*―・―
邦和の他の場所では、秋小路・松風院・春日梅グループの社員達が同様に動いており、オッテンバッハ社のアウトレットパーク・タウン・モール全てが避難所と化していた。
その周辺では、身体を具現化した祓い屋ユーレイ達が避難誘導しており、災害の大きさに比べれば、被害は最小限に止められたと誰もが感じていた。
他国も同様で、違いは祓い屋ユーレイよりも人に偽装した職神が多い程度。
世界各地に支社や施設を多く所有するオッテンバッハ社と邦和の財閥御三家グループは『地星の救世主』と、後にその名を轟かせるに至るのだった。
「ユーレイの皆様の御力が大きいのに、申し訳ありませんね」
松風院が人々からサイオンジを離して小声で言った。
「いやいや社長さん、なぁんもだぁよ。
オイラ達は死人だぁ。
社員だと思ってもらえりゃあ本望だぁよ」
〈サイオンジ! 怨霊が膨らんだから戻って!〉
〈ヒビキチャン、直ぐ行くからよぉ。
キンギョ!〉〈はい! 御師匠様!〉
「チョイと本領発揮案件だからよぉ、中渡音に行って来らぁよ。
コッチは頼んだよぉ、社長さん」
「それじゃ私も♪」「おい皐子!?」
「キツネ様直伝だから~♪」
サイオンジ、キンギョ、皐子は具現化を解いて瞬移した。
―・―*―・―
マディアの怒り爆発な神力と、ザブダクルの禁忌術のぶつかり合いに乗じて地星を滅亡させようとした闇禍は、唱えていた途中でオーロザウラに邪魔をされ、立ち消えたと思っていた術の暴発で地星の外に弾き出されていた。
地星は?
飛ばされているのか。
ならば儂の好機は続いておるな。
そう笑って地星に向かおうと飛び始めた。
「そうはいかないからね」『ヒノカミ!?』
「光神輝煌!!」
地星の者が誰も知らない場所で闇禍は消滅した。
―・―*―・―
人世の大災害も混乱も知らないままのザブダクルは、どうにかこうにかマディアの視線呪縛を解いた。
若化術を重ねたのでマディアの魂を確かめようと封珠を取り出そうとしたが空振り。
慌てて辺りを捜し始めた。
―・―*―・―
【ツカサちゃん、トシは?】
【全然よ。地上は大変だし、怨霊も出ているから、もう構っていられないわ】
【そうね。恐怖からの不穏で怨霊だらけね。
先生と合流しましょう】
【ええ】
―・―*―・―
近くには封珠の気配が無いと感じたザブダクルは物見水晶を取り出した。
落ちておるのか!?
上に小さく見えておるのは神力射か!?
下に小さく見えておるのは龍神か!?
こうしては居られないとマディアの尾を掴んで瞬移した。
――目の前の封珠を掴む!
「お前……ダグラナタンだなっ!!」
「ちっ違っ、違う! 儂は――」
「何度も何度も現れやがって!!
マディアの鱗を剥ぎやがって!!
許さんからな!!」問答無用に豪炎を吐いた。
銅色の神炎に包まれて叫びつつ――
この気! 先程のウンディではないか!
もう戻ったと言うのか!?
――必死も必死で瞬移した。
――が、こんな状況では そうそう遠くには行けなかった。
息つく暇も無く、目の前には再び銅ピカ龍神。
「掴んでるのはマディアだろ!! 返せ!!」
「ま、待て――」〈あ♪ ウンディだ~♪〉
「おうマディア♪ コイツ叩きのめすから待ってろ♪」〈うんっ♪〉
今度こそと死力を振り絞って瞬移したザブダクルだった。
――離脱に成功したザブダクルはマディアに若化術を掛けて眠らせると、目的を思い出して神王殿に向かった。
そして眠らせたままのマディアを別室に封印して、謁見の間のティングレイスに詰め寄っていた。
「確かに僕達は文通していました。
ですが仰るような話はしていません!
どうしてそう誤解なさったのかは理解できませんが、僕達はただ励まし合っていただけなんです」
「内容なんぞ知った事か。
お前はマディアと話していた。
それだけで許し難い事なのだからな」
「そんな……」
「王妃を滅するか記憶を滅するかを選べ」
「……記憶を」
「ふむ。記憶を滅し、魂のみとして封じる。
抜け殻王として玉座にただ座しておれ。
儂の邪魔をせぬだけで最悪の王と成れる。
悪名を残せる程度には、この神世を残しておいてやろう」
ティングレイスはザブダクルの言葉には何も返さず、目を閉じ、唇を噛んで俯いた。
―・―*―・―
【揺れは収まったみたいだね。
もう少しだけ様子を見て、人が避難しきったら社に戻ろうね】
【はい♪】一斉。
こんな時に不謹慎だと言われようが、父の声が嬉しい子供達だった。
狐神達も同様で、オフォクスとトリノクスの言葉に嬉しそうに返事をしていた。
もちろんそれは収束が見えてきたという安堵感からでもあり、地星が消滅しなかったという喜びからでもあった。
修行を積んだ神は姿よりも気で誰なのかを判別します。
なので鱗色なんかどうでもなんです。
特に人神は。
鱗が龍神の命・魂に直結するなんて知りませんからね。
利幸に龍神だと気づかせる為に随分とフィアラグーナ様も命の欠片を込めていましたから、あまり主張しないドラグーナ様の欠片よりも前に出てウンディの気=フィアラグーナの気に近くなっていたんでしょうね。
で、ウンディは何をしていたのでしょう?
龍に戻れたので飛びたくなって飛んでいただけみたいです。
マディアの咆哮は聞こえなかったの?




