暴走進行中
マディアの咆哮を聞いた龍の里の龍神達が小動物の里に行き、小動物神達を集めてくれていた。
小動物の里としては最終の鼠の里に行ったエィムとミュムは龍神達に礼を言い、その間に鼠神達には背に乗ってもらった。
【何処に?】【任せて!】手繋ぎ術移!
――絶滅種保護区域入口。
【開くから先に入って】【了解】
エィムが掌を宙に留めると指輪が光り、扉が現れた。
【開けるよ!】
開くと同時にミュムが入り、エィムも続いた。
すぐに扉は勝手に閉まって見えなくなった。
其処は下空らしく地面は雲地で、種族毎に塊になっている小動物神達が空を見上げていた。
【栗鼠、兎、鳥達、小型猫と鼬鼠と――】
【とにかく種類は沢山。大勢だよ。
鼠神様を降ろさない?】
【そうだね】降下。【それで、この後は?】
【たぶん此処は人神には見つけられない。
だから人世まで行かなくてもいいと思う。
此処の管理神様にお願いするよ】
【管理神様?】
【此処は絶滅種保護区域。
だから管理神様がいらっしゃるんだ。
ほら、あの方だよ】
朱色の鳳凰が飛んで来た。
【恐竜や大型獣達は、より雲地が安定している壁の向こうに移しましたよ。
過去の罠は全て今ピュアリラ様方が滅してくださっていますので、小動物神の皆様も移しますね】
【イーラスタ様、ありがとうございます。
壁の向こうに行く道も作ってくださっていたんですね?
先程は説明もそこそこに上に戻って申し訳ありませんでした。
悪神が動き出しましたので小動物神様をお願い致します。
長く掛かるかも知れませんが……】
【獣語のメッセージは此方にも届いておりましたよ。
後は全てお任せください。
では皆様、より安定している雲地に里を作りましょう】
【ありがとうございます!
では【失礼致します!】】一緒に礼!
―◦―
イーラスタと小動物神達から離れたエィムとミュムは、段々になっている不安定で穴だらけの雲地を降下し続けていた。
【それで次は何処に?】
【人世に行くよ】
【このまま下に?】
【そう。あれかな?】少し角度を変えた。
【この辺りは雲地が薄いから気をつけて】
【確かに……不安定で普通の雲みたいだね】
【見つけた。扉を増やしたんだけど雲地が動いてしまうんだよ。
開くから通って】
【うん】下に抜けた。【え……?】
エィムも抜け降り、扉を閉めて隠した。
【いつもの島国の反対側だよ】
【見慣れない地形で驚いたよ】
【次は教会? オフォクス様のお社がいい?】
【エィムにとっては父様だよね?】
【そうだけどね】
【また赤くなったね♪】
【緊急事態なんだけど?】
【そうだったね♪】
頑張って陽の気を保つミュムだった。
―・―*―・―
マディアが強過ぎるのか……?
近い200年分程は消せた筈だが、
これ以上は儂では無理だと言うのか?
マディアの方が強いとでも?
獣神の歳は分からぬが……
マディアは如何に見ようが幼い。
結婚も最近の事であろうな。
ならば200年で十分であろう。
「マディア。起きよマディア」
揺り起こしてみるが目覚めない。
「マディア。起きぬかマディア」
「ヤダ……それに誰?
父様じゃなきゃ起きないよ」
目を開けようともしない。
「お前の主だ。起きよ」
「主? 僕、オジサンなんか知らないよ」
片目だけ開けた。
「修行で眠ってるんだから邪魔しないで」
また閉じた。
ならばこのまま魂を抜いてやる!
儂に畏怖を感じたならば
抜くのは免じてやろうかとも思ったが
罪はマディアに有るのだからなっ!!
記憶を消したのだからマディアがザブダクルを知らないのは当然なのだが、そこには思い至れないままにイライラ爆発状態で唱え始めた。
その魂内ではオーロザウラが呪の暴走連鎖を喜び嘲笑っているとは気付かずに。
―・―*―・―
その頃、職域の方では――
支配が解けている人神達には死司・再生の装束が配られ、再生最高司シャーナルカイトに引き連れられて人世に向かって降下を始めた。
ロークスとラナクスが押し込んだ職神入り賽子を預かったチャムは、眠らせて神力封じの網で集めている人神達を更に詰め込んでは魂納袋に入れて纏めては、人世に降りるのを繰り返していた。
そうして楽し気に往復していたチャムは、
【6回目♪ 最終便のジュ~ツイ♪】
兄達に手を振って消えた。
【逃げ隠れておった者も全て集めたようだな】
【ふむ。ではそろそろ職域を封じるか】
【人神が入れぬようにな】
【ロークス、ラナクス。上の地は?】
兄弟が話していると、チャリルとタオファが飛んで来た。
【神王殿にはハーリィが伝えたが、王は残ると言ったそうだ。
神世の地 全ては間に合わぬだろうからと】
【王として神世を護らねばならぬから職神だけでも避難させ、反撃を頼むと。
職神ならば優秀だからと】
【では全ての支配を解くつもりなのね?】
【そうだ。早急に解かねばならぬ。
敵神の意のままにされたならば世が終わる】
【だからこそマディアは職神を避難させろと伝えてきたのだろう。
放置出来ぬからな】
【納得よ。おそらくそうね。
短期間でも修行すれば軍よりも大きな力になるのだから反撃も叶うわ】
【では職域の結界を】【【そうね!】】
4神が職域の四方に位置取り、職域毎に成されていた結界を1つに纏めると、結界が光を帯びた。
〖弟の声を聞きました。貴殿方の声も。
強い禍も感じ取っています。
此処は私達が護ります。
どうか早く離れてください〗
【お目覚めになられたのならば貴女様も!】
〖私達は動けないのです。
ですが護りならば叶います。
父譲りの破邪で護り徹してみせましょう。
さ、早く離れてください〗
結界が破邪光で輝かんばかりになった。
【では、神世を元通りにする為に必ず戻りますのでっ】
【ドラグーナ様にもお伝え致しますのでっ】
〖ありがとう。
私達はドラグーナの子。
決して負けはしません〗
【では!】【また何れ!】
悔し涙が滲むのを感じてはいたが、兄弟は妻の手を取って術移した。
―・―*―・―
【彩桜、揺れる迄は予定通りにね。
皆を不安にさせないようにお願いね】
【うん。だから学校に来たよ。
青生兄も気をつけてね】
【俺達は大丈夫だよ。
紗ちゃん達も連れて来てね】
【うん!】
―・―*―・―
ザブダクルは職域各所から迸った浄破邪光で覆われた瞬間に、咄嗟に瞬移していた。
術は終わったところであったな。
ならば取り出せるか?
荒れた地に降りる。
掴んでいたマディアの身体に手を突っ込むと、光球と化した魂を引き出した。
その魂から一筋だけ糸のようなものを引いて伸ばし、身体に繋げた。
これでよし。
マディアの魂が身体を保つであろう。
では――
己が――ではなく、乗っ取ったダグラナタンの腹から再度 封珠を取り出し、初めてまじまじと覗き込んだ。
白い龍……が、2体?
まさか王妃も龍であったのか!?
どちらがマディアの妻で
どちらが王妃なのだ!?
王ならば見分けられるのか?
ふむ。選ばせればよいだけか。
一時だけ焦ったが、気を取り直して術を唱えつつマディアの魂を封珠に押し込んだ。
封珠を腹に戻し、改めて辺りを見渡す。
地面が土地なので職域の在る下空ではなく上の神世の地だとしか分からない。
「此処は……何処だ?
マディア、目覚めよ」
〈ヤダ〉
マディアの身体は浮かび上がり、勝手に飛んで行こうとしていた。
「待てマディア!」
〈知~らない〉上昇を続ける。
ザブダクルは追って飛び、マディアの正面から顔を両手で挟んで固定した。
「儂の目を見よ」〈ヤダ〉
ザブダクルに押さえられているのをものともせずマディアは速度を上げた。
「何処に行く!? 答えよマディア!!」
答えもせず、目を閉じて飛び続けるので、ザブダクルはとうとう闇球にした支配をマディアの鼻に押し込んだ。
〈クッサーーーい!! 何するのっ!!〉
鼻の穴からポンッと勢いよく闇球が飛び出した。
頭をブンッと振ってザブダクルをブッ飛ばした。
「待てマディア!!」
今度はマディアの背に瞬移し、背中に闇球を次々と込めていった。
〈イッターーーい!! 鱗イタイのっ!!
ええっ!? 僕の鱗、煤けちゃったぁ~。
ヤダヤダヤダヤダッ!!
元に戻してよねっ!!〉
大騒ぎするマディアの声を無視して闇球を込め続けていると、美しく照り輝いていた碧色の鱗は、艶の無い斑で黒々としたものに変わっていった。
〈オジサン嫌い!! 大っキライ!!
僕に乗らないで!! 助けて父様!!
オニキスのならツヤツヤ真っ黒なのに!!
こんなのヒドいよぉ~〉
叫び続け、高速で飛び続けながらマディアはグルングルンとアクロバット飛行のように暴れていた。
何故、支配が効かぬのだ!?
ザブダクルはマディアの背に しがみついているだけで必死だった。
―◦―
何故に此奴はイチイチ封珠を腹に戻すのだ!?
この強い浄化にすら気付けぬ馬鹿なのかっ!?
せめて身体の外に持たせねば
闇禍様がお怒りに――
《とうに朝であろう!!》
激怒も露な闇禍がオーロザウラの眼前に浮かんだ。
《策は進行中で御座います!
今暫し! 今暫しお待ちを!!》
カウントダウンも2桁に入ったかという状況です。




