遅れ馳せ夏祭り④炎上
マーズ忍法花火大会の翌日は金曜日。
1週間前には倒れた彩桜だったが、前日の疲れなんて全く感じさせないピョンピョンぶりで元気に過ごして下校した。
台所でオヤツを貰うと両手と頭に乗せてアトリエへ。
「今日は ふわふわドーナツだよ~♪
味いろいろだからね~♪」
テーブル毎にドーナツ大盛りな籠を置いていく。
「コレでいいっすか~?」「あっりがと~♪」
追い掛けて来た若者達から おしぼりトランクとティーセットが入った大きな箱を受け取る。
「みんなもリーロンからドーナツもらってね~♪
祐斗~♪ おしぼり お願~い♪
俺、紅茶 淹れる~んるん♪」
どんどんティーポットを出しているのは見えているが、皆には背を向けているので『お湯は?』『茶葉は?』な状態だった。
蒸らしているらしい間にカップを並べる。
並べているとは見えるのだが、テーブルの真ん中辺りは どうやって注ぐのだろうと不思議に思える。
「取り来て来て~♪」
行くと、全てのカップに均等に注がれたばかりの紅茶が揺れている。
いつもの事ながら謎でしかないが、紅茶が美味しいので、皆、良しとしている。
最後の最後に堅太が残っていた。
「彩桜、ちょっと」「ほえ? 冷めちゃうよ?」
更に奥へと引っ張る。
「お? おいっ」
奥の壁に浮かび上がったドアを躊躇なく開けた彩桜の方が堅太を引っ張り込んだ。
「ね、どしたの?」また?
「こんな部屋あったか?」
「内緒話専用♪ 忍法部屋♪」
「ま、いっか。
昨日の空マーズ、彩桜なんだろ?」
頷いてから首を傾げた。
「サーロンは?」
「フーランちゃんと花火 見てたよ♪」
「怒ってなかったか? 今日は?」
「ちゃんと話したもん。納得してくれたもん。
毎日お祭りトキだけ来てたんだもん」
「そんならいいけどな。
フンドシ天使OKなのは彩桜だけだからな」
「堅太もダメ?」
「俺の場合は俺がどーこーよか見た人からブーイングの嵐だろ。
じゃなくてな、子供マーズの誰かを巻き込むなって話だよ」
「ん~。チビッ子だけにする~」
「そうしろよ。それだけだから出るぞ」
「あ♪ 此処、堅太専用の特別勉強部屋にする~♪
一緒に入っても違和感ナイでしょ♪」
「お~い反撃かよ?」
「じゃにゃくてぇ、ホントに必要でしょ♪
内緒話でも特訓でも♪」
「うわ……」
「じゃあ机と椅子ねっ♪ ノートとかも♪
いまから1つ、公式と単語どっちいい?」
「普通に勉強するからっ」
「じゃあ単語――」着信音~♪「――青生兄だ~♪」
「そんなら俺は――足が動かない!?」
「うん……うん……すぐ行く~♪」通話おしまい♪
「東京 行かなきゃなの~♪
堅太また今度ねっ♪」解還♪
「今度も何も嫌だからなっ!」逃げた。
「あらら~」
―◦―
マーズが集まったのは東邦テレビで、見田井と金 銀 青マーズとの軽い打ち合わせだけで生放送が始まった。
『視聴者の皆様からの投稿が大変大変っ! 多くございましたので、急遽マーズ&キリュウ兄弟にお集まりいただきました!
司会は私、お馴染み『見たい聞きたい』の見田井でございます。
では早速ではございますが、概要を。
9月5日から7日まで、つまり昨日までの3日間、本拠地の竜翔県 中渡音市にてマーズ&キリュウ兄弟主催の夏祭りが行われたという事で間違いありませんよね?』
『その通りだが何か?』
『東邦テレビのローカル局には連絡して、録画も許可していましたが何か?』
いつも通り下段中央には銀 金 青と並んでいて、話すのは銀と青マーズ。
『確認しただけじゃないですかぁ。
各日毎の内容は、5日が中渡音市 中央公園でのクラシックの夕べと盆踊り。
6日が中渡音市一の規模を誇る本浄神社での奉納大祭。
7日が渡音川 中流域でのマーズ忍法花火大会だったそうです。
そもそも何故、9月に入ってからの夏祭りとなったのでしょう?』
『7月末の世界大地震、8月初めの復興があったからです。
邦和は復興が遅れましたので、その影響で中渡音も夏祭りが行われていなかったんです。
俺達マーズも、キリュウ兄弟も欧州で音楽修行をしていましたので、それを知らなかったんですよ。
2学期に入り、メンバーの中学生達が学友から寂しい夏だったと聞いた事から、夏祭りを計画したんです。
ただし邦和中を巡るのは無理でしたので、マーズにとってはホームの、キリュウ兄弟にとっては生まれ育った中渡音のみとなったんですよ』
『クラシックの夕べに関しては、キリュウのサクラが学校で囲まれて落ち着けない状態になっちまったからだ。
地方都市には芸能人なんか珍獣だからな。
それでサクラを主役にした演奏会でサクラ本来の音楽を知ってもらおうと考えたんだ。
マーズ&キリュウ兄弟では派手なパフォーマンス付きだからな』
『真の奏者だと示したのですね?』
『その通りだ。おかげで翌日からは静かになったんだよな?』
『うん♪ 囲まれなくなったの~♪』
『そうですか。
盆踊りの方は、フリューゲルのメーア=ドンナーとSo-χのカナデ&ヒビキ姉妹が歌っていたそうですが?』
『Vあるんだろ? 流したら一目瞭然だろーが』
『ではクラシックの夕べと盆踊りのVTRをどうぞ!』
サクラと桜マーズをソリストとしているバイオリン協奏曲が流れている。
客席では涙を流している中学生が大勢だとズームアップして横に流す。
『だから本物のクラシック奏者だと一目置かれて学校での騒ぎは沈静化したんだ』
『つまりクラシックの夕べは成功したんです。
俺達の目的としても、夕涼みとしても』
変わって盆踊りの場面に。
大勢が幾重にも輪になって踊っている中央には高い櫓。
その中程に張り出した通路的な舞台では、浴衣姿の子供&黄緑マーズとサクラ、法被姿のチビッ子マーズが踊っている。
櫓の上舞台では和楽器を演奏するマーズと歌っているメーアとカナデ&ヒビキ。
それらを順にアップにして最後には涼しげに揺れるマーズカラーの提灯。
『盆踊りは毎年この公園の広場でやってたんだ。
けっこう色々なイベントが催される広場だから、予定していた日取りには準備が間に合わなかったと聞いた。
9月も土日や祝日は予定ビッシリだったから平日にと決まったんだ』
『皆さんの笑顔から喜びが伝わりますねぇ』
『だろ♪ ああ、飲食コーナーだな。
ゆっくり味わうも良し、食べ歩くのも良し。
合体させて楽しむのも良しだ♪』
『合体? ですか?』
『あの逆さま金魚のカップゼリーなら、かき氷やアイスクリームに乗っけてもらえる。
かき氷にアイスクリームとゼリーもOKだ♪
マーズ屋台のお好み焼きコーンに焼きそばや たこ焼き、焼鳥なんかを入れてもらってもいい。
オーソドックスなのを言ったが、組み合わせは自由だ』
『あの、巾着みたいなビニール袋の中身がキラキラしていますが?』
『袋は金魚やスーパーボールを入れるのを模している。
中身は水ヨーヨーみたいな飴だな。
どんぐり飴ほどは大きくない、透明度の高い飴玉に水ヨーヨーの柄が入ってるヤツだ。
黒 灰、キラキラするから女の子に人気だったんだよな?』
『『おう♪』ガンガン売れたぞ♪』
『お祭り焼モノ飴もカワイイってな♪』
『焼モノ、の飴ですか?』
『そーゆー形の飴だ♪』『渡してやってくれ』
黒から青へ、そして見田井へ。
『これは確かにカワイイですねっ♪
串の先に、林檎飴みたいに透明コーティングがされた、一口サイズのデフォルメたこ焼きと焼もろこし、焼イカがツヤツヤキラキラとしています♪
この中身は?
中身に着色しているんですよね?』
『だよ♪ 中身はマシュマロで色のはチョコ。
だから味としては基本、チョコマシュマロだな♪』
『焼モロコシの黄色はバナナ味とか、見た目とのギャップを楽しんでもらいたいんだ♪
ま、『食ってみてくれ♪』』
『いいんですか!? では次のVTRをご覧いただいている間に いただきますね♪』
棒付き飴達を見せている。
『『今じゃねぇのか?』』
『カワイイ棒キャンを食うオッサンの絵は要らねぇだろ』
『『確かになっ♪』』
『そうハッキリ言わなくても~。あっ――』
司会者が『どうぞ』と言っていないのにVTRに移った。
『見ての通り、真面目な奉納がメインの祭だ。
この神社の主神は月の女神様だ。
他にも月の神々がお住まいだし、眷属神とも言える見張り神らしい白蛇だったり白狐だったりな男神様も居る。
本当に居るから、ほら、夜空に写り込んでいるだろ。
幽霊じゃなくて神様だからな。
上から見てるから社に背を向けての奉納でも問題無いんだ』
『空に白い……鹿ですか?』
『人みたいな姿で現れる事もある。
この時は鹿の姿だったってだけだ。
つまりマジだから失礼な訪問をすれば罰が当たるって事だ』
『本当に神聖な場所なんですねぇ。
それで、この奉納でもメーアが?』
『メーアにとっちゃあ里帰りだからな。
メーアが音楽の世界に進んだのも月の女神様のお導きなんだよ』
『それを話したら人が殺到――』
『愚かな行いをすれば相応の報いがある』
『――あ……ですよねぇ』
『続けて忍法花火だな。
コイツが危険行為だとかで炎上でもしたのか?』
『そうなんですよ!』
『行ってた、見たって人からは0だろ?』
『そうなんですよねぇ。
ですが、どちらとも判断できかねるものもありましたのでねぇ』
『そんなら一度 止めてもらえるか?』
画面は対談しているスタジオに。
『アレは花火じゃなく忍法花火だ。
コイツなんだよ』『見田井さんにあげる~♪』
桜マーズがポイッと投げた。
『わあああっ!?』
思わず受け取ってしまったが、真上に投げた。
『ん? でも熱くない?』
パチパチ火花を出している火球に見えるものは見田井の真上で留まっている。
『確かめてみてみて~♪』
『ええ……』立ち上がって指でツンツン。
『実体も無く、熱も何も……ありませんね』
両手で包んで連れて座った。
『どうなっているんです?』
掌に乗せてカメラへと突き出す。
『火じゃなくて光なの♪ だから危険ナイの~♪』
『花火らしく工夫してるけどな。
持っても平気なくらい安全なものだ。
そう思って、もう一度 見てもらいたい』
VTR再開。
『だから火の粉に見えるヤツを浴びようが火傷はしない。
どうなってるとか聞かれても説明は無理だ。
本当に知りたいんなら真剣に忍者修行すればいい。命懸けだがな』
『光の奥義とも言えますので特忍、神忍でなければ成せません。
ですので本当に、真剣に命懸けですよ。
こう話すと拒絶したかに思われてしまいますので、拒絶ではないと示す為に、もう1つ、マーズスタッフが撮影したものもお見せしましょう』
データをスタッフへ。
少しバタバタとしたが最速で再生された。
『記録用ですから何等の加工もしていません』
『花火の上ですか?』
『はい。観覧席が足りなくなって、急遽、川の上の席とヘンゲ龍に乗って忍法花火を上から見る席を増やしたんです』
『竜翔県は竜ヶ峰から何度も竜が飛んだって伝説から名付けられたんだからピッタリだろ♪』
『これは……花火の中を飛んでいますよね?』
『忍法花火ですからね♪
せっかく飛んでいるんですから最大限 楽しむべきでしょう?』
『それは同感です!
いいなぁ。僕も乗りたいですよぉ。
あっ、その説明の時でしょうか?
褌天使達が登場したのは!』
『そうです』『それも騒いでるんだな?』
『そうなんですよ!
空マーズファンの方々から、真面目な空マーズ君が褌天使をするなんて有り得ないと!』
『空、何か言いたいかぁ?』『いえ……何も……』
『お~い桜。説明しやがれ』
『すっごく大勢で危険でザワザワだったし、暗くなってたから目立って注目してもらわないといけなくて、俺の分身を空マーズにしました。
まさか! て見るでしょ?
忍装束、暗いトコだと保護色だし~。
でもチビッ子マーズの法被しかなかったのぉ』
『櫓で踊っていた時の?』
『うん、盆踊りのです』
『そういうことでしたか!
空マーズファンの皆様! ご安心ください!
あれは桜マーズ君だったそうです!』
『褌天使ダメなのぉ?』
『褌天使は桜マーズ君だけのものです!』
『そっか~♪ だったらいい♪』
『他にも騒いでるのか?』
『あっハイ! 浴衣の件も!
販売しないのですか?』
『出来上がる頃には秋になるだろ。
来年のデザインのを春にはグッズ化するよ。
ただし注文販売な』
『そうですか!♪』
『ねぇねぇ浴衣馬ぬいは?』
『そんなら桜だけは法被と褌な♪』
『うんっ♪』るんるんる~ん♪
『本当に!?♪ 新グッズですね!♪』
『近いうちに発表しますね♪』『うんうん♪』
この放送で、ようやくお祭り騒ぎは収束……するどころか、更に高まってしまうのだった。
騒がれるのは人気の証。
マーズ絡みで騒がしいのは常の事ですので、この騒ぎのお話は ここまでにします。
え? 竜翔県なんて何処に? ですか?
――遠江県と駿河県の間です。
日本と邦和との地形の大きな違いは、邦和には煌麗山と竜ヶ峰という富士山そっくりな山が東西に並んでいる点で、その分 本州が長くなっているんですよね。
プレートの動きで運ばれた島々が云々――という話もありますので、その分も違っていて、伊豆半島の西には温水半島という双子みたいな半島が並んでいるんです。
まぁ、中渡音って? な点から日本地図には無い場所が舞台だろうと想像してくださっていたとは思いますが。
m(_ _)m
〈位置関係(思いっきり雑ですが)〉
信濃県 甲斐県
竜ヶ峰 煌麗山
遠江県 竜翔県 駿河県
渡音湾 温水 駿河湾 伊豆
半島 半島
あっ! 静岡県を分断したとお怒りにならないでくださいねっ!
このお話は異世界、ハイファンタジーで、邦和は日本ではありませんのでっ!
m(_ _;)m




