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遅れ馳せ夏祭り①盆踊り



 2学期初日。

囲まれ騒がれて疲れきった彩桜は、走って逃げ帰った玄関を素早く閉めるとズルズルポテッと倒れた。


「彩桜!? まずは食え!

 彩桜なら食ったら治る!」

台所から駆け寄った黒瑯が運んで、即座に粥を作って食べさせた。


「プリンも~」「おう♪ ソッコー作ってやる♪」


 食べているうちに本当に元気が戻った彩桜は大皿てんこ盛り盛りデザートでご機嫌になった。

「林檎飴も~♪ たこ焼きと綿菓子も~♪」


「はあ? お祭り屋台かよ♪

 作ってやるけどな♪」「うんっ♪」


お祭り屋台メニューをいろいろと作っていると、甘い香りや醤油やソースの香ばし旨そうな匂いが広い家中に漂い流れた。


昼が近い事もあり、空腹な若者達が引き寄せられて集まる。

「今日の昼メシいい匂いだ~♪」

「夏祭りなかったから嬉し~♪」

そんな声が聞こえるので黒瑯は本格的にガンガン焼き始めた。


【ねぇねぇ黒瑯兄♪ お祭りしにゃい?♪

 お盆、復興直後だったでしょ。

 盆踊りも神社のお祭りもなかったんだもん。

 あ♪ 中渡音て花火大会ナイよね!

 神力花火したいの! マーズの忍法花火♪】

お祭りがあればオーストリアから瞬移で戻るつもりだったのに中渡音では全て流れてしまったのだった。


【確かに寂しい夏になっちまったよなぁ。

 白久兄に話して市役所と商工会に行ってみたらど~だ?】


【うんっ♪ 黒瑯兄、リーロンと屋台してねっ♪】


【おう♪ メニューを考えるよ♪】




 たっぷり食べた後、白久には夜に話そうとアトリエに向かっていると、渡り廊下に出ようとした所で堅太に押し戻された。

声を出すなと口の前に人差し指を立てた堅太に引っ張られて彩桜の部屋へ。


「どしたの?」ほぼ口パク。


「庭、彩桜なら見えるんだろ?」


言われて神眼を向けると中学生だらけだった。

「あらら~勝手門から入ったのかにゃ~ん」

勝手に入ってよい門という意味ではないのだが。


「見えたんだな?

 祐斗と凌央に任せて彩桜は逃げろ。

 忍者移動でドロンしろよな」


「ありがと堅太。

 どして こんななったんだろ?」


「芸能人なんか滅多に会えるモンじゃないだろ。

 彩桜も芸能人。超有名人なんだからな。

 それにマーズに会えるかもとか考えて集まってるんだよ。

 昨日のテレビので一気に大騒ぎになったんだろーな」


「迷惑ごめんねぇ。ドロンしとく~」


「帰っても部屋から出るなよ。

 廊下なら入れちまうからな。

 アトリエは絶対ダメだから忍者移動でも来るなよ」


「うんうん。ごめんねぇ」瞬移。



――ミツケン支社長室。

白久だけなのは神眼で確認済み。

「助けてなのぉ」


「ど~したぁ?」


「家の庭、人いっぱいなのぉ。

 学校でも大変だったのぉ。

 なんだか不穏いっぱいなのぉ」

始業式で全校生徒の不穏に囲まれ、以降もグイグイ押し寄せて来るので倒れるに至った。


「確かになぁ。で、その林檎飴は?

 林檎だけじゃなさそうだがな」


「庭のとは別件なの。

 夜、白久兄に相談したかったの。

 ちょっと遅くなったけど夏祭りしたいの。

 コレ黒瑯兄が作ってくれたの。

 みんなと食べたかったのにアトリエ行けなかったのぉ。

 あ~、堅太に渡したら良かったぁ」

籠に盛り盛りな果物飴を持ったまま来てしまった。


「別件なぁ……そんなに彩桜に会いたいなら彩桜メインの演奏会するかぁ?

 中央公園の野外ステージでクラシックの夕べ。

 マーズ&キリュウ兄弟でな。

 前に有兎(あると)チャンと約束したのも果たせるから一石二鳥だ♪

 お祭り屋台コーナーもしたらど~だぁ?」


「俺ね、花火大会したいの。

 神力花火でマーズ忍法花火って♪

 渡音川でしたいな~♪」


「そんなら本浄神社の夏祭りも続けて3夜連続 中渡音 夏祭りといくか♪」


「うんっ♪」


「そんじゃあ一緒に許可やら取りに行くかぁ?

 ソイツは手土産にしようぜ♪」


「うんうんっ♪」




 そうして巡っているうちに兄弟が増えていき、夜、帰宅した時には揃っていた。


 夏祭りなのだから秋らしくなる前にしたいが、中央公園も市民ホールや体育館、その間の広場も全て週末は様々なイベントで予定が埋まっていた。

それにマーズ&キリュウ兄弟も週末はフリューゲルとのライブがある。


なので週末は諦めて平日の夜にと決めた。

商工会の役員達と市役所・消防署・警察署の関係管理職員達と話を詰めていると、皆やはり寂しい夏だったと感じていたので可能な限り早くしようという流れになった。

最終的には翌日から大いに告知して、9月5~7日の3夜連続で盛大に行うと決まった。



 金錦は確認を済ませると東京に戻り、白久は響音(ひびきね)社の記者・有兎に連絡するからと部屋へ。

紅火は作らなければならない物が多いと作業部屋に行き、青生と藤慈も手伝いに行った。


残った黒瑯と彩桜はリーロンを巻き込んでメインとなるメニューを考え始めた。


そこに慎介が戻った。


「あれれ? 祐斗達 送ったの?」


「そうではありませんよ。

 久世君達は まだアトリエです。

 週末ですので泊まりですよね?

 集まっていた生徒達の保護者を呼んで説明会を開いていたのです。

 本当に難儀しましたよ」


「騒いでたヤツラは?」

黒瑯も あまりにあまりなので逃げたのだった。


「保護者に連れ帰ってもらいましたよ。

 一旦は眠らせて説明会をしておりましたが、目を覚まさせると騒ぎの続きとなりましたのでね」


「あ~、たこ焼きとか焼モロコシとかって騒いだんだろ」


「黒瑯様が匂いを充満させるからですよ」


「ヘロヘロ彩桜のリクエストだったんだよ。

 けど遅れ馳せ夏祭りするから解決だ♪」


「夏祭り、ですか? いつ?」


「場所とスケジュールは この通りだ♪

 だから慎也は本浄神社に行ってるよ♪」


「クラシックの夕べと盆踊り……花火大会まで。

 そうですか。これで少しは生徒達が落ち着くとよいですね」


「お~い他人事(ひとごと)みたく言うな~。

 マーズがヤルんだからなっ」


「では私も張り切ると致しましょう」にっこり。


「師匠達、忍法花火係ねっ♪」


「ええ、お任せくださいね♪」



―◦―



 翌日は土曜日。

西長安でのライブ日なのでマーズが揃う。

時差の少ない場所での開催なので朝から西長安だ。


皆に遅れ馳せ夏祭りの話をして告知用の映像を撮っていると、興味津々なメーアが寄って来た。

「何やってるんだ?」


「復興で遅れたけど夏祭りするの~♪

 3夜連続で本浄神社が中日(なかび)

 ラストは花火大会なの~♪」


「おいおい。本浄神社でやるんなら俺を除け者にするなよなぁ」


「あ、そっか~♪ メーア、盆踊りの歌う?」


「何でも歌うぞ♪」


「とっても和風で和語だよ?」


「任せやがれってんだ♪

 で、カナデも歌うのか?」


「じゃあ奏お姉さんと響お姉ちゃんも呼ぶ~♪」



―・―*―・―



 マーズ主催の中渡音祭の初日は中央公園でのクラシックの夕べと盆踊り。

下校して彩桜が会場に瞬移すると、準備は ほぼ終わっていた。

【黒瑯兄 リーロン、試作は?】【【アレだ♪】】

他の出店を邪魔しない、しかも『THE邦和の祭』を連想させるものばかりだ。


準備時に出来上がった それらの試作を食べながらウロウロ。

【この青いゼリーは? 金魚さん入ってる~♪】

もちろん赤いゼリーの金魚だ。

淡い青のカップゼリーに泳ぐ金魚は目にも涼しい。


【他の出店のアイスや氷に乗っけるんだよ♪】

【これから運ぶんだから食うなよ?】


【クレープお好み焼きだ~♪ アツアツ~♪

 アイスコーンみたくなってるけど中身は?】


【たこ焼きでもヤキソバでも好きなの入れて完成させろって形だ♪】

【入れずに そのままでも旨いけどな♪】

他にも合作タイプのものがある。


 マーズお祭り屋台と出店との飲食コーナーは慰霊祭の時と同様で、コの字に店を配置して内側にはテーブルを並べている。

食べ歩くもよし、落ち着いて味わうもよしという形だ。


【ヨーヨー飴とアイス羽カス貰ってく~♪】

勝手にアイスを注入して屋台からピョンピョン出た。


 野外ステージとの間の広場には盆踊りの櫓。

その周辺には飲食でない出店が多く並んでいる。

櫓から公園の木々へと高い位置に渡されている縄ではカラフルな提灯が揺れているのが涼しげだ。

もちろん提灯の色はマーズカラーを2色ずつの縞にしている。


その提灯デザインのライトが今回の新グッズで、夜道で使うもよし、部屋に飾るもよしな大と、コンプリートしたいファンの為の小、ライトではない装飾品のミニがある。

グッズ売場は出店の野外ステージ側の端で、既に人集りになっていた。


それらを眺めながら彩桜は走り、野外ステージ裏のプレハブ小屋に入った。


「彩桜、今日の衣装だよ。着替えてね」

差し出した青生は既に着ている。


細身の(スッキリ)忍装束に半分だけ浴衣?」


「うん。ステージでの並びの都合でマーズは左、兄弟は右に羽織るんだ」


「とっかえひっかえバラバラなるのに?」


「それでも定位置には戻るからね」


「そっか~♪」


 上半身は忍装束を着てはいるが片肌を脱いだ形、帯の下方は片方だけをからげて丈を短くしているので、いつもの帯の垂れの代わりに広い布が長く垂れているようにも見える。

裾に向かって濃くなる灰色の浴衣地の淡色部分は各々のマーズカラー掛かっている。

濃灰の裾には昇龍と打上花火。


「彩桜と桜マーズは皆の前方、真ん中だからね」

「浴衣を足に絡ませてコケるなよなっ♪」


「「コケにゃいも~ん」」もう分身している。

「オジサン白久兄と」「オジサン銀マーズじゃ「にゃいんだから~♪」」


「オジサンは余計だっ!」


「「オジサンから逃~げる~♪」」「コノッ!」


「マーズは上半分の和面だからね」

青マーズは古風な狐面を着けていて、桜マーズ用の猫面を持っている。


「銀の兄貴は般若?」「何でだよっ!」

「「銀色般若~♪」」「待てコノッ!」


「ふむ。そうしよう」「紅火までっ!」


「狭いんですから走り回らないでくださいね」


聞いちゃいない。天井も壁も知った事かな鬼ごっこだ。

「「パルクール~♪ 楽し~♪」」

それでも着崩れない。

浴衣の裾は絡まりもせずに格好良く靡いている。

とっかえひっかえも存分に、だ。



―◦―



 クラシックの夕べが始まると、直前迄そんな事をしていたとは想像も出来ない程に、音色を極めようと真剣に奏でる兄弟だった。


元々設置されていたベンチの後ろにはミツケンの足場客席。

其処には大勢の中学生が居る。

皆、彩桜に近付こうと来ているのだった。



 包囲されている気分だからこそ演奏に逃げ込んでいるとも言える彩桜だったが、紡ぐ音色が確かに纏う浄破邪が不穏を出し続けていた弱禍を完全に滅したらしく、次第に涙する者が増えていった。


【彩桜、もう安心していいと思うよ。

 盆踊りに移ろうよ】


【みんなと一緒に踊ってもいい?】


【いいと思うよ。楽しんでね】


【うんっ♪

 ラン♪ 盆踊り一緒しよ~♪】【うんっ♪】



―◦―



「お姉ちゃん、お兄は?」


「それが……疲れているみたいで……」


「ま、お祭りは明日もあるし~、今日は来ても ほっとくしかないもんね♪」


「そうよね。歌わなければならないから……」


「歌いたくなかった? 帰りたい?」


「そうじゃないわ。少し心配なだけよ」


「お兄が? ユーレイなんだから風邪も引かないよ♪ 心配いらないって♪

 あ♪ ソラが手招きしてるから行こ♪」

ソラに手を振り返して走った。


「そうね。私も楽しまないとね」

「カナデ、ダイジョーブか?」


「あっ、はい。今日もよろしくお願いします」


「楽しい、ダイジだ。

 だがタイチョー、イチバンだ。ムリキンだ」


「ありがとうございます♪ 大丈夫ですよ♪」


笑顔で頷いたメーアにエスコートされて、奏は(ステージ)に上がった。







不穏は確かにあったものの発生源が明確でなく、煽動者が居るのかどうかすら感知できずという状態で、学校では浄破邪防護を維持するより他になかったようです。


そういえば、あの騒ぎも変だったな~と彩桜が思うのは年末の別の騒ぎの時です。

騒がしい中学生達を集めてのクラシック演奏は、弱禍と一緒に この時には見えていなかった原因も浄滅したようです。

盆踊りも屋台も楽しんで、明日からは本浄神社のお祭りと花火大会を楽しむだけ。

不穏が消えた晴れやか気分に加えて楽しみで楽しみで、いつも以上にピョンピョンしてしまう彩桜なのでした。



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