ジョーヌと心咲の結婚式
なんだか大騒ぎになった土曜日も夜。
輝竜家の離れ・洋館のホールで、育ての親や友人に向けてプチ演奏会をした7人兄弟は、皆が帰宅すると軽く休憩や仮眠をした。
そうして元気を取り戻すと、邦和時間の深夜~明け方迄は忍装束の音楽ユニット・マーズとして欧州でライブをし、帰宅したのは翌日(日曜日)の早朝だった。
「今日は俺達も走るからなっ♪」次男・白久。
「目覚まし代わりなのですね?」六男・藤慈。
「では強めの治癒で包みますね」三男・青生。
「お♪ ガツンとヤッてくれ♪」四男・黒瑯。
「ならば皆、揃って行くように」長男・金錦。
「新曲を作らねばならぬからな」五男・紅火。
「「紅火が喋った!?」」
「む……」白久と黒瑯を睨む。
「兄貴達み~んな仲良しさ~ん♪
集まってるから行っくよ~♪」七男・彩桜。
兄達が玄関を出ると、彩桜の友人やらの大勢が出発を待っていた。
彩桜がリードを持っている輝竜家の大型犬達の中には紗桜家のショウとモグも居て、彩桜は何故だかショウとモグそっくりな力丸を背負っていた。
「力丸は怪我でもしたのかぁ?」医学博士な白久。
「怪我でも病気でもありませんよ」獣医師の青生。
「うんうん。力丸 初めてだから~。
それじゃ出発するの~♪」
ザッ! と舗装道の薄い砂を蹴る音がして、大型犬達、彩桜とイトコの颯龍、彩桜の友人やら後輩やら兄やら、自転車軍団と続いて物凄い速さで走り去った。
彩桜の友人や近所の人達は、これを『爆走散歩』と呼んでいる。
彩桜達にとっては軽いジョギング感覚の爆走散歩を終えると、自室での瞑想タイム。
常識外の不思議な能力を持つ輝竜兄弟には必要不可欠な時間だ。
【ねぇねぇサーロン、ミツマル建設保養所(結婚式場)行くまで何する?♪】
小休止に入るとすぐに、彩桜は向かい合っている従兄に話し掛けた。
この話し方は獣神秘話法。
少々特殊なテレパシー能力だ。
この日は、白久が常務として勤めているミツマル建設(通称:ミツケン)の保養所で、青生の動物病院で受付事務をしているジョーヌが結婚式と披露宴を行うのだった。
フランス人設定だが実は龍神なジョーヌの姉神達は輝竜家で暮らしているし、人としてのジョーヌには家族や親族が居ないので、輝竜兄弟とイトコ達は親族の代わりであり友人として招待されている。
【ボク、東京に行かないといけないんだ。
大学院の先輩のアパートを退去して、金錦お兄さん家の寮に荷物を運んであげないといけないから。
だから分身でボクをお願い】
【ん。ソラ兄も大変だねぇ。夏休みなのに。
あ♪ 俺も引っ越しお手伝いする~んるん♪】
サーロンの正体はソラで、彩桜の護衛と称して一緒に中学生生活を楽しんでいる。
ちなみにサーロン(翔 颯龍)の兄リーロン(驪龍)は龍神ドラグーナの子オニキスで、弟ユーロン(羽龍)は漢中国人ユーレイだ。
輝竜兄弟だけでなく、そんなイトコ兄弟も瞬移(瞬間移動)や分身などを易々とやってのけるので、東京だろうが欧州だろうがホイホイ行ってしまう。
【いいの? So-χの新曲も作ってもらってる最中なのに】
So-χはソラが所属しているロックバンドで5月にメジャーデビューしたばかりだ。
紅火も言っていた新曲とは、次のシングルのカップリング曲だ。
【メーアがノリノリだから大丈夫♪
俺、ソラ兄と一緒に行くの~♪】
メーア=ドンナーはドイツ人ボーカリスト。
『ロック界の王者』という異名を持つ超有名バンド・フリューゲルのリーダーで、フリューゲルの曲は全てメーアが作っている。
―◦―
東京に瞬移して、ソラが先輩から得た情報を頼りにアパートへ。
鍵も預かっているので入る。
【学生専用で、大きな家具とかはアパートの備品なんだよね】
ソラは運び出す物を確認している。
【じゃあ買い行く~♪】消えた。
【何処に? まだ店なんて開いてないよね?】
【北渡音のアウトレットパーク♪
俺達兄弟 顔パスだから~♪
あ、そっか。サーロンも顔パス~♪】
【え?】
【開店前でも閉店後でも入れるの~♪
白久兄のおかげ♪
み~んな同じ顔だから顔パスなの~♪】
【でも買ってもらうなんて……】
【金錦兄トコの備品♪
福良さんの好み、拾知(予知・情報収集能力)したから大丈夫♪】
ものの10分程でロシアンブルーらしい猫を抱いた彩桜が戻った。
【紅火兄にロボット掃除機 貰った~♪】
【また本物かと思ったよ。それも先輩の好み?】
【うん♪ パッキングして運ぶねっ♪】
小さなボールを投げると天井近くでパッと壁なんて無いかのように突っ切って拡がり、透明なシートは降下しつつ全てを覆った。
【お部屋丸ごとお引っ越し~♪】
シートに触れてブツブツ。
シュッと小さくなった塊を連れて瞬移した。
備え付けの家具は新品に戻ったかのようにピカピカになって残っていた。
平日は東京暮らしな金錦の家は敷地が広い。
敷地内には白久が東京に居た頃に住んでいた家も在る。
門から見れば、庭の向こうの正面に白久の家、右手に金錦の家、左手に寮が2棟並んでいて、上から見ると『コ』の字になっている。
寮は兎も角、2軒の家は豪邸と言える大きさだ。
地価の高い東京では、これもまた常識外だ。
東京の煌麗山大学の院生になったソラと響は、空いていた白久の家を借りている。
【ねぇねぇソラ兄、この部屋でいい?】
頭に塊を載せて猫を抱いている彩桜は1階端の部屋のドアを開けた。
【場所はいいと思うけど……豪華すぎない?】
高級家具にビックリだ。
【そぉかにゃ? 寝心地いいんだよ♪
荷物 元通りしたら管理人さんトコねっ♪
予備鍵あった~♪】
パッキングした塊から抜き出してチャラチャラ。
―◦―
手続きは簡単だった。
福良に偽装(変化術)したソラが数ヶ所サインした程度で、手土産を渡したら喜んで送り出してもらえた。
輝竜家に戻り、作曲活動 真っ最中な白久の部屋に行き、進み具合を確かめると、たっぷり礼を言ったソラは響が居る紗桜家に帰った。
彩桜とサーロンは、そのまま白久の部屋に残って曲作りに加わった。
―◦―
自称So-χサポートメンバーズの輝竜兄弟とメーアは、全力を注いで最速で曲を形にした。
この曲は、5月末の渡音フェスの最中にメーアとの熱愛報道をされて臥せった奏に向けて響がステージで歌った『想い』に対するアンサーソングだ。
「カナデ。レンシュは、リハで、だ」片言メーア。
「はい。ありがとうございます」深々と礼。
「俺達は録音してから行くからな。
先に忍者達に運んでもらってくれ。
演奏者用のリハ室 兼 控室をSo-χ部屋にしてる。
個別練習用ブースもあるから存分にな」
白久は奏に言った後、メーアにはドイツ語で。
レストランを営むシェフな黒瑯は、調理真っ最中な式場と白久の部屋とを行ったり来たりしていた。
「黒瑯、スタジオで録音してから控室入りだ」
「おう」
黒マーズに連れられて戻った黒瑯は白久を追った。
黒マーズはメーアと奏を連れて忍者移動(瞬移)した。
輝竜家 離れの洋館内にはスタジオが2部屋ある。
各々の部屋では、青生が爽(So-χギター)に、紅火が恒(So-χドラム)に出来立ての曲を伝えていた。
なので他5人はホールで録音し、使った楽器ごと式場へと瞬移した。
披露宴会場では忍者達(本人やら分身やら)がドラムセットやシンセサイザー、アンプやらの大きな物・重い物をセッティングしていた。
輝竜兄弟(こちらも本人だったり分身だったり)はSo-χ控室に入り、小さめの楽器を用意し始めた。
白久は録音したデータをブースで発声練習しているボーカリスト達に渡し、鳴らして確認してから準備に加わった。
【あ……俺、心太さん(新婦の従弟)にスーツ着せなきゃだった~】
【って言っといて行かねぇのかぁ?】
【ん? 分身が行ったよ♪】
【桜マーズと空マーズとサーロンしてて2人目の彩桜かぁ?
ったく器用だよな♪】
手を止めずに彩桜が白久と話していると、カケルを迎えに行っていたソラが戻った。
【あれ? 新婦側控室の彩桜は分身?】
カケルを残して控室から出たものの暫く様子を見ていたので。
【うんっ♪ 心咲さんの従弟の心太さんにスーツ着せる約束してたの~♪】
【お兄も従弟なのに――あ、そっか。
父方と母方なら見ず知らずな可能性あるよね】
神眼(透視能力)で様子を確かめている。
カケルは彩桜を見付けて話し掛けていた。
【そぉかも~♪ 心太さん、心咲さんと同じ高階さんだけど、カケルさん優生さんで母ちゃん達ソックリ~♪】
カケルの母も心咲の母も よく知っているので。
【やっぱりお互いを知らない親戚なんだね】
「常務、楽器の位置確認をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「そう呼ぶなつっただろーが。
今日は ただの演奏サポーターなんだからなっ」
声の方を見ると、白久がスタッフの背を押して出て行くところだった。
別のスタッフが戸口で礼。
「スピーチをしてくださる方は此方にいらっしゃいますでしょうか?
煌麗山大学教授の輝竜様と、きりゅう動物病院 院長の輝竜様はいらっしゃいますでしょうか?」
金錦と青生が顔を見合せ、
【已むを得ぬな】【そうですね】
スタッフの方へ。
「あの、常務――」『ソッチは兄弟だっ!』遠くから。
「打ち合わせでしょうか?」
「少し離れましょう」
金錦と青生も出て行った。
残った兄弟が準備を再開しようと――
「輝竜シェフ、確認したい事が――」
「行くからっ!」
――黒瑯までもが出て行ってしまった。
【厨房まで行っちゃったぁ】【仕方ありませんよ】
「バタバタだねぇ」「いつもの事ですよ♪」「む」
3人になってしまったので彩桜 藤慈 紅火は準備を加速した。
準備は後少しで終わりというところで
「輝竜様、お式が間もなくですので、神殿にご案内いたします」
スタッフに呼ばれてしまったので、残りはマーズをしている分身達に任せた。
―◦―
【ジョーヌ師匠カ~ッコイイ~♪】
【彩桜君ヤメてっ】笑えないので必死。
黄色に近い金髪のジョーヌは細身なので背が高いように思えるが、実はそんなに高くない。
白無垢 綿帽子の心咲とバランスの良い紋付き袴姿が並んでいる。
【いっぱいタオル入れられたでしょ♪】
【そうなんだよね。
ライブの袴姿とは随分と違うんだね】
ジョーヌもマーズの一員。黄マーズだ。
【ライブでタオル入れたら踊ってると落ちちゃうも~ん♪】
【確かに……】【巫女さん踊るんだ~♪】
【普通は踊らないの?】
【知らにゃ~い。兄貴達トキ寝てたのぉ】
チビッ子には静かに座っている事すら難しいだろうと、眠らされてしまったようだ。
しかしソラと響の式では見ていた筈なのだが?
こうして普段通りな彩桜と話しているうちに緊張が消えたジョーヌは無事に宣誓を終え、ホッとして披露宴会場へと移動するのだった。
【式が終わって移動し始めたよ~♪】
彩桜からSo-χ控室のソラへ。
【どっちでやったの?】和神殿と教会。
【ジョーヌ師匠が袴姿~♪】
【フランス人なんだよね?】設定が。
【邦和国籍なったからじゃない?】
【あ~、そうかもね♪】
『翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団2.5
外伝その2 ~武勇伝の裏側で~』
始まり始まり~です。m(_ _)m
こちら側では輝竜兄弟(マーズ含む)やらキツネの社の神様やらの動きを追います。
略称は『ユーレイ外伝2』です。
つまり前の外伝中の話題をこちらに引っ張り出した時には『ユーレイ外伝1』と書くことに……すみません。
m(_ _)m
『ユーレイ武勇伝』と『ユーレイ外伝2』は並行しますが、1話で同じ時間分 進むのではありませんので話数も違ってきます。
『ユーレイ外伝1』ほどに長くするつもりはありませんが……たぶん武勇伝本編よりも外伝2の話数が多くなると思います。
それでも長くしないようにと考えていますので、プロローグ・エピローグはありません。
m(_ _)m
今回は試しに本文中に註釈を付けながら進めてみましたが……これを続けるのは私には無理です。
ですので次話からは『ユーレイ外伝1』のノリのまま書いていきたいと思います。
m(_ _)m




