第8話 罰当たり
入浴を済ませたヤナキとコウガは暗い夜道の中、宿に戻る。生暖かい風が2人の濡れた髪をなびかせた。タオルを肩にかけながら並んで帰る。『かざぐるまの宿』は行きと変わらず古びれた様子で風に揺られて木の音を鳴らす。
「ヤナキ殿!拙者、デザートが食べたいでござる!」
宿に着くなりコウガは言う。ヤナキは溜息をつきつつ考える。
「食えるか分かんねぇけど、食事処行ってみっか。」
「やったでござるー!」
はしゃぐコウガと共に食事処を覗いてみる。するとそこには先客がいた。何処かで見たような、そうでないような少女だ。健康的な肌を露出させた少女は、目が合ったかと思うと元気に挨拶をする。
「こんばんはー!キミらここのお客サン?」
「そうでござる!拙者はコウガ。こっちがヤナキ殿でござる!」
「へー。よろしく!うち、農家やってんだ。昼間、キミらのこと見た気がするー。」
少女の言葉で思い出す。そうだ。確か、宿に来る途中、通った畑で作業をしていた人間が目前の少女だ。
コウガは挨拶を終えると少女の隣に座る。どうやら彼女が食しているプリンが気になっているらしい。視線はただプリンひとつに注がれる。
「プリン、気になんの?」
視線に気づいた少女は紙スプーンを止めて聞く。
「勿論でござる!他にもあるでござるか?」
「あー、ゴメン。これだけなんだよねー。食いかけでいいならあげるよ。」
「ホントでござるか!やったでござる!」
少女は特に考えることなく、食べかけのプリンをコウガに渡す。彼は受け取るなり手を合わせてプリンを口に運んだ。プリンをすくい口に入れた途端、彼の頬はほころび満面の笑みが浮かぶ。
「美味しいでござる!」
「でしょー?ウチでとれたかぼちゃ使ってんだー。」
「すごいでござるねぇ。コウガ殿も食べるでござるか?」
「いや。オレはいいや。」
「それじゃあ拙者、全部頂くでござる!」
ヤナキの返答を聞くやいなや、コウガはゆっくり味わっていたプリンをかきこんで全てを口に含んでしまう。余程美味しかったのだろう、あっという間にプリンの容器は空になった。満足そうなコウガを眺めていたヤナキはふと気付く。少女の頭上にある神棚がぐらついていることに。
それにより、水の入った白い陶器が彼女の頭上に落ちそうになる。
「!あぶねぇ!」
「!忍法!手裏剣の術!」
ヤナキの声に真っ先に気付いたコウガは状況を理解し、懐から小石を取り出す。そして、それを陶器目掛けて投げつけた。見事命中し、陶器は少女の頭上に落ちることはなかった。その代わり、後ろの神棚へと弾かれる。拍子に中の水が神棚にかかる札や他の陶器をも濡らす。
コウガは陶器がぶつかりそうになった少女の顔を心配そうに覗く。
「大丈夫でござるか?怪我は、」
その瞬間、コウガの時が止まる。被害者になろうとしていた少女が眉間に皺を寄せて唇に途轍もない力を込めた表情をしていたからだ。それは、陶器が落ちずに安心した顔とは思えなかった。言葉詰まるコウガの背後からヤナキもその光景を目撃した。そして、疑念が確信になりかける。この島は、やはり何処かおかしいと。
コウガは固まった体を動かし、瞬きをする。次に瞼を開くと少女の険しい顔は霧散していた。
「だいじょーぶ。ケガはナシだよ。」
「そ、そうでござるか。それはよかったでござる。」
「………………オレ達、そろそろ部屋に戻るよ。行くぞ、コウガ。」
いち早くこの場所から去りたい、そんな思いからヤナキはコウガの手を引く。
部屋へ行く途中、着物を着た少女とすれ違った。恐らく物音を聞きつけてやって来たのだろう。だが、彼女の表情はやはり状況には似つかわしくない暗い顔であった。




