第7話 ヨモの湯
山の出入り口にヤナキとコウガお目当ての銭湯があった。元々宿から山が近いのもあってか、銭湯もそれほど遠くなく、湯冷めする心配は無さそうだ。
建物自体は何の変哲もない。中からは暖簾を掻き分けて人々が出ていっていた。暗い青色の暖簾には掠れた文字で『ヨモの湯』と書いてある。
「ヨモ…?可愛い名前でござるねー。どういう意味でござるか?」
コウガは呑気に聞く。ヤナキは彼の問いに対して必死に頭を捻る。別段物知りというわけでもないので、ヨモというのが何を指しているのかピンとこない。
「え?あー、蓬のヨモかもな。多分。」
「流石ヤナキ殿!博識でござる!」
「ま、まあな…。」
褒められて悪い気はしなかったが、果たしてヨモというのが蓬を指すのかは定かではない。ヤナキの予想が当たっていることを願いつつ、暖簾のその先へと進む。
中も至って普通であった。入り口から数メートルの場所に番台の少年が椅子に腰掛けている。カウンターのようになっている手前で受付をするようだ。ヤナキは手にしていた入浴券を提示しながら言う。
「すんません。これ、使いたいんすけど。」
少年は入浴券を確認するとバスタオル等、一式が入った籠をカウンター下から取り出してヤナキ達へ渡す。そして、大浴場がある場所を指差した。物言わぬ少年に戸惑ったものの、入浴に浮き足立っていたコウガが先んじて行ってしまったので、ヤナキも少年を気に掛けることはやめた。
「お風呂!お風呂でござるー!」
「あっ!おい待てコウガ!あぶねえから走るなよ!」
バタバタとコウガを追いかける。2人は少年が指差した方向に行く。すると脱衣場を発見した。あっという間に衣服を脱ぎ捨て、いよいよ大浴場へ。
「思ったより広いでござるー!それにアヒルも浮いてるでござる!」
「おぉ。ホントだ。珍しいな。」
体を洗うようにコウガを引き留めつつ、ヤナキは感心する。今どき、銭湯にアヒルが浮かんでいるのなんて珍しい。汚れはないがどこかくたびれているタイルの床も相まって時代を感じさせる場所だ。
シャワーを浴び終えると、先客であるアヒルと共に湯に浸かる。湯の温度は中々熱かったが、少し浸かれば慣れた。
「ふぅ。極楽でござるー。」
「だな。」
体の力を抜き、お湯に身を任せる。何だか今日は長い1日だった気がする。
子供のしかいない籠目島。はじめは不気味さを感じたが、存外悪い場所ではないかもしれない。ヤナキは立ち上る湯気の中でぼんやりとした頭のまま、そう思うのだった。




