最終話 おはよう
からからと、赤い羽が回っている。
目覚めたヤナキの視界には白い天井と、端にかざぐるまがあった。
「………………おはよう。ヤナキ。」
声の主の方へと首を向ける。そこにいたのは明羅であった。彼はベット側のパイプ椅子に腰掛けている。そこでようやく、自身が夢から覚めたことを悟った。
「おはよう明羅。………夢から覚めたんだな。」
「……………あぁ。」
数センチほど離れた窓から陽光が差し込む。既に夏は過ぎ去り、秋へと移り変わろうとしているらしい。開いた窓からは日差しのみでなく、ほんのり冷たい風が吹き込む。
「のう、ヤナキ。」
「なんだ。」
「……………儂は、父様や母様のようになりとうない…。」
「………そうか。」
そうだろう。ヤナキは心の内で同意する。何せ、彼の両親は周囲へ信仰を押し付け、狂信的な気配すら感じさせているのだ。故に、彼らのようになりたくないことは理解できる。
「じゃが…儂は結局2人と同じじゃった。夢の中で、神官をやって、お主らを意のままにしようとした…。」
忌み嫌っていた両親と同等または、それ以上のことをしてしまった。夢の中と言えど、その事実は揺るぎようがない。
ヤナキは気落ちしている明羅へ手を伸ばす。励ますように、奮い立たせるように肩を叩く。
「でも、気付けたじゃねぇか。なら一歩前進だな。これからだぜ!これから!」
「…これから……そう、か…。」
明羅は一度、静かに瞳を閉じる。網膜には未だ、夢の中の島が浮かぶ。贄の儀式を執り行う自身の姿がありありと浮かぶ。自身は結局、忌避する大人になってしまうのではないか。
恐れは完全に消え去った訳では無い。しかし、目の前には眩しいくらいに笑う友がいた。
「…………ヤナキ。儂がもし、また、こうなってしまったら止めてくれるか?」
「当たり前だ!……いや、今度はその前に止めるぜ!」
「………そうか。」
「お前も、俺が嫌な奴になりそうだったら止めてくれよ!」
「………あぁ。勿論。」
2人の友は約束を交わす。これからも進むために、共に歩むために。
静かな密約の外では、何やらちょっとした騒ぎが起きているのか、喧しい声が壁越しに聞こえてきた。
「忍法!床すべりの術でござる!」
「コウガさん!スリッパで遊ばないでください!全く!」
何故か懐かしいような声がする。ヤナキが見知った声であるのに。そんなおかしな感覚に囚われながらも、ふと微笑む。本当に、皆が目覚めたのだと実感したからだ。
瞼を開けた少年少女。彼らを歓迎している空は、厚く覆われた雲から光を差し向け祝福していた。




