第68話 ともに
「………嫌じゃ…いや、じゃ。」
ヤナキらを前にして明羅は後ずさる。どうして彼らはそれほどまでに目覚めようとするのだろうか。どうして大人のいる世界へ戻ろうとするのだろうか。大人のいる世界など、彼らの戻るべき場所ではない。戻りたいと思うような、思えるような場所ではないはずだ。
それなのに、彼の前には立ちはだかる人々がいた。
「お主らは本当に戻りたいのか…!?夢から覚めたら、そうしたら、大人と会わねばいけないのだぞ!?そ、それに、いつかは儂らもあの汚い奴らになる!儂は、そんなのは、嫌じゃ!」
震える唇が少年の心をあらわにする。
彼の心からの叫びを受けた少年少女。だが、怯むことなく、考えを改めることなく佇んでいる。
「………明羅。俺達は、きっと毎日大人になってんだ。ちっとずつ変わってんだ。それを不自然に止めんのはきっと駄目だ。」
「駄目じゃと…。それじゃあ、お主は、あの汚い奴らの仲間になっても良いのか!?」
落ち着かせるように、ヤナキはそっと明羅に歩み寄る。
「いや。なりたくはねぇな。だから、ならねぇように頑張るぜ。」
「頑張る…?馬鹿を言うな!大人は皆、汚いのじゃぞ!?お主がどう心掛けても、大人になればお主も他の奴らと変わらん!どうしたって、変えようがないんじゃ!」
子供から大人へはなれども、大人から子供へはなれはない。幼き心はいつしか、その輝かしさを忘れて薄汚れていくのだ。その不可逆性を悲観せずにはいられようか。
そんな明羅の言葉に、ヤナキはさして難しく考えることもなく、平然と言葉を返す。
「それじゃあ、一緒にそうならねぇよう頑張ろうぜ。」
「は……?」
だらしなく口を開く明羅。ヤナキは彼へ、ヘラリと笑ってその白い歯を見せる。
「大人になんのはお前だけでも、俺だけでもねぇ。ここにいる奴ら皆でなるんだ。一緒にな。だから、一緒に悩んで、一緒に成長すりゃあ良いだろ?」
「いっしょに…?」
「おう。友達ってそういうもんだと思うぜ。」
変化への恐怖。恐らくそれこそが明羅の根底にあるものだったのかもしれない。たったひとり、孤独の変化。少年は唾棄すべき存在へとなるであろう自身を恐れた。しかし、恐れる必要などなかったのだ。彼の側には友がいたのだから。最も、彼も相手も、大人になることを理解しきった訳では無いが。
それでも、ひとりでないのならば。そうであれば、変わっていけるのではないか。
自分らしくありたい気持ちも、友を想う気持ちも、正しさも、己の意思も、全てを抱えて理想の大人になれるかもしれない。
「だから、明羅。そろそろ起きようぜ。これから何かにぶつかっても、手伝うからよ。」
友へ共に進むため、ヤナキは手を伸ばすのだった。




