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第67話 破天荒なモーニングコール

 「ヤナキ。これからどうする。ここが夢だとしても、何か手掛かりは得られたのか。」


 タチバナが聞く。ヤナキは勿論、と強く頷く。そこには強い意志がある。


 「神官は、明羅(めいら)は、このかざぐるまの力で夢の世界を作ったはずだ。だから、これをぶっ壊す。」


 そう宣言した途端、彼らの背後にある扉が重々しく開いた。そこからやって来たのは件の神官、明羅(めいら)である。彼は眉をひそめて2人を見る。何か言いかけた唇は行き場をなくし、はじめに述べようとした言葉が紡がれることはなくなった。代わりに、敵意を持って意思表明を始める。


 「……それを壊すと?お主が?」

 「そうだ。」

 

 ヤナキの答えに明羅(めいら)は鼻を鳴らす。


 「ふ、ふん!出来ると思っているのか。ヤナキ、それは、妖怪の力を宿した代物じゃぞ?お主ごときが…。」

 「やってみなきゃ分かんねぇさ。」


 挑発に乗ることなく、ヤナキは赤いかざぐるまを手にする。よく回るであろう羽を手で掴み、勢いよく千切ろうとした。が、ただの紙であるはずの羽は鉄のように硬く千切れない。


 「言ったじゃろう!それを壊すなんぞ不可能じゃと!お主らは目覚められんよ!いいや、目覚める必要なんぞないんじゃ!」

 

 まくし立てる明羅(めいら)の勢いは凄まじく、ヤナキは怯む。本当に彼の言う通りかもしれない。夢から覚めることなど出来はしないし、覚める必要なんてないのかもしれない。ふと頭をよぎる考え。だが、それを打ち砕く大きな音が近くで鳴った。


 「!?タチバナ!?何してんだ!?」


 タチバナはヤナキからかざぐるまを受け取り、壁へ突き刺したのだ。無論、傷がつくことはない。そう確認したタチバナは壁へかざぐるまを押しつけたまま動き始める。彼の動きに呼応して強固な硬さのかざぐるまにより壁には傷跡がついて行く。

 ガリガリと木が削れていく音が鳴る。突然暴れ出したタチバナへ2人は驚き以外の感情を持ち得なかった。しかし、当の本人はどこか晴れやかな表情だ。


 「ふ、ははっ!そうか。ここはやはり夢なのか。そして、ここを作ったのはお前が嫌う大人を消すためだと!なるほどな。ということは、贄の儀式は幼稚なお前の威厳を保たせるための方法だったわけか!」


 澄み渡った空と見間違うほどの明るさであるタチバナは声高々に続ける。


 「知ってしまえば呆気ないな!単純だ!だが、安心した。これで俺の目的は達成された!」


 彼の語る目的。それは、これの行いの意味を知ることだった。毎晩行われる贄の儀式。人間を生贄に捧げるという不可解な決まり。そして、その決まりの例外を定めた神官の思惑。全ての意図を、タチバナは理解した。故に、彼は胸を張って言える。


 「ヤナキ!お前の言う通りだな!知ることは何よりも優先するべきことだ!これほど晴れやかな気持ちになるんだからな!」

 「………………。」


 タチバナの様子に呆気にとられつつも、ヤナキは気付く。


 晴れやかな気持ち。彼は今、どうしてそんな気持ちになっているのか。理由は明快で、彼に変化が訪れたからだ。規定の従属から離れ、自由意志を手に入れた彼は以前の彼とは違う。変化をしている。

 それを理解したヤナキは、先の迷いが途端に些細なもののように感じてしまった。本当に明羅(めいら)の言葉通り夢から覚めることはできない。そもそも、覚める必要はない。そんなことは、あるはずもない。


 成長のできない夢など見る価値もなく、変化が訪れない日々など過ごしたくはない。きっと、晴れやかな気持ちで迎えることなどできないのだから。


 ヤナキは頬を緩ませ、明羅(めいら)へ反論する。


 「なぁ、明羅(めいら)。俺はやっぱり、夢から覚めるべきだと思うぜ。」


 明確なヤナキの否定に明羅(めいら)は歯噛みしつつも、抵抗を見せる。


 「………………思うだけでは状況は変わらん…!覚まさせるわけがないじゃろう!ずっと、この夢をみておれば良いのじゃ!」


 少年の叫びに、答える声があった。ヤナキのものでも、タチバナのものでもない。


 「確かに貴方の夢は素敵かもしれませんね。」


 包丁を持つ少女が言う。


 「けど!生贄とか物騒すぎ!」

 

 鍬を肩に担ぐ少女も続く。


 「残念だが、私の正しさは君を夢から覚ますことにあるんだ。」


 ロングコートを手にする少女がそう締めた。


 3人の少女。彼女らが明羅(めいら)の前に立ちはだかる。3人のうちのひとり、スイが千切れたかざぐるまを明羅(めいら)へ見せつける。


 「これ、壊しちゃえば夢は思い通りになんないよね?」

 「!いったいどうやって…!」


 次はロングコートを手にする少女、ミキがここぞとばかりに前へ出て誇らしげにした。


 「簡単さ。君が使っているような妖怪の力を使ったんだよ。」


 これみよがしにコートを見せる。他の少女も各々、包丁と鍬を前に突き出した。


 詳しいことは理解できていない。それでも、確かに援軍が来たのだとヤナキは理解する。そして、友である明羅(めいら)へ告げた。


 「明羅(めいら)。そろそろ起きる時間だぜ。」


 少年少女らの目覚めの時は近い。

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