第65話 くるくるかざぐるま
本殿の金扉を開く。中は閑散とした広々とした空間であり、木材を持て余したかのように芳醇な自然の匂いが停滞していた。鼻の奥まで届く匂いに顔を顰めながらも、ヤナキとタチバナは奥へ進む。
その先には小さな木の台が置いてあった。上には布をかぶった何かがある。タチバナはヤナキへ視線を投げる。これこそが、探していた御神体もといかざぐるまだと。ヤナキは頷き、推定かざぐるまに被さる布を外す。予想通り、下にあるのは赤いかざぐるまであった。そっと手を伸ばす。
風のない筈の屋内。だというのに、ヤナキが触れた途端、かざぐるまがくるりくるりと回りだす。突然の異常へ驚き、タチバナの反応を見ようとするが、叶わない。ヤナキの意識は、瞳は、目前の景色から離れてしまったからだ。
***
「おい明羅、そろそろ帰る時間じゃねぇか?」
「嫌じゃ嫌じゃ!まだ遊ぶのじゃ!」
2人の少年が浜辺に座り込んでいる。傍らには砂で出来た城がある。
「つっても、お前の親、厳しいだろ?」
「だ、だからこそ、まだ遊びたいんじゃ!家には帰りたくないんじゃ!なっ、いいじゃろヤナキ!」
「しゃーねぇな…。」
頭をかきながら、少年ヤナキは明羅の説得を諦める。そして、再び砂上の脆い城を固めようと掌で叩く。次第に固くなる砂はちょっとやそっとでは崩れない耐久となる。明羅はというと、砂で器用に柵を作り、擬似的な庭をデザインしていた。
庭として囲った内には、砂を掘って池を作る。勿論、中には海から救った水を入れた。
「どうじゃヤナキ!理想のマイホームの完成じゃ!」
「おぉ。いい感じだな。」
「そうじゃろそうじゃろ?永遠に住みたくなるじゃろ?」
「うーん。住むってなると掃除とか大変そうじゃねぇか…。」
「こ、細かいことは良いんじゃ!」
なんとも夢のない、地に足ついた感想に明羅は耳を塞ごうとする。砂の城というのは、はなから現実とかけ離れているのだ。わざわざ些細なことを気にする必要はないだろう。そうして2人は城に飽き足らず、他の家々を作り始めた。いつしか周辺には城下町が形成される。
一段落ついたと思ったヤナキは大きく伸びをして、あくびをかく。ここ最近眠れていないせいか、眠気が迫ってきて仕方がない。
「なんじゃヤナキ。寝不足か?」
「おう。よく寝れなくてな。」
「ふっ。なら儂に任せよ。」
「?どうにかできんのか?」
明羅は胸を張って得意げに答える。
「まぁの!儂は人間でない友人が多いのじゃ!そやつに頼めば夢のひとつやふたつ上手く見れるじゃろう!」
「へぇ。その友達ってのはどんな奴なんだ?」
「聞いて驚くな。かざぐるまの妖怪じゃよ。」
「へぇ。かざぐるまの…。」
いまいちピンとこないヤナキは瞬きをする。どんな原理で夢の操作ができるのか定かではなかったものの、明羅の自信満々な様子からして問題はないのだろう。ヤナキは大人しく明羅の友人とやらによく眠れるよう頼むことにするのだった。




