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第64話 再侵入

 『ヨモの湯』の受付後ろにある物置部屋。そこに椅子を置いてヤナキとタチバナは顔を合わせていた。これからの方針を定めるためだ。島のことや、神官のこと等知りたいことは山ほどある。だからこそ2人はどこから手を付ければいいのか迷う。ヤナキは必死に頭を捻るが、これといった妙案が浮かぶことはない。

 代わりにタチバナがおずおずと口を開く。


 「そう言えばヤナキ。お前は神官と話をしていたな。何か、島のことについて話したか?」

 「あー、いや。特には…。ただ俺を見逃すってことだけだったぜ。」

 「そうか…。」


 進展があるかと望めたものの、やはり話は振り出しに戻ってしまう。それどころか新たな疑問まで誕生してしまった。それは、何故神官がヤナキを例外として見逃したか、だ。タチバナは未だこの出来事について納得の出来る答えを得ていない。島のことや神官のことを知れば、自ずと分かるのだろうか。

 腕を組み悩むタチバナに対し、ヤナキは唐突にあっ、と声をあげる。


 「あっ!そういや、神社の中で変なもんを見たぜ!」

 「変なもの…?なんだそれは。」

 「神官の姿だ。多分、過去のな。神社にある木に触った時に見えたんだよ。すぐに居なくなっちまったけどな。」

  

 ヤナキはその時のことを思い出す。確か、疲れて側の木に手をついた瞬間、神官の姿が見えるようになったのだ。しかし、すぐさま消えた姿からして幻のようなものだったのだろう。


 「その神官は何か言っていたのか。」

 「えーと、確か…。かざぐるまと扇子持って、皆を眠らせて夢を弄くるだのなんだの言ってたな…。」

 「…………そうか。」


 自身の腕を掴む力を強める。神官の言葉の意味は分からない。理解するための材料は今のところ不足している。だが、正解への道筋は僅かに見えた。


 「かざぐるまと扇子…。恐らくそれには何か特殊な力が宿っているんだろう。」

 「付喪(つくも)みてぇな力ってことか…。いや、でも付喪(つくも)は過去の記録を残すだけじゃねぇのか。夢がどうのこうのってのは聞いてねぇな。」

 「…………そうだな。だからこそ確かめる必要がある。」


 タチバナは席を立つ。つられてヤナキも立ち上がった。いまいちピンときてはいないが、真剣な彼の表情から見て行動する時が来たのかもしれない。


 「確かめるって何処行くんだ?」

 「勿論神社だ。そのかざぐるまと扇子は神官が持っていたのだろう?なら、それらも神社にあるはずだ。……よし。行くぞ。」

 「お、おう!頼もしいな!」


 そうして2人は『ヨモの湯』を出る。再び山を登り、赤い鳥居をくぐる。道中は恐ろしいぐらい何事もなかった。

 敷き詰められた砂利を踏みしめ、ヒソヒソとヤナキは話す。


 「なぁタチバナ。神社っつっても、広いぞ。どこにかざぐるまだの扇子だのがあるか分かんのか?」

 「おおよそはな。………ヤナキ。『つくも様』が何を司る神か覚えているか?」

 「?おう。かざぐるまだろ?」


 まっすぐ神社の奥へ進むタチバナ。参拝客が来るであろう拝殿で足を止めず、さらにその先を目指す。

 

 「そうだ。普通であれば、神社には祭る神の御神体を供えるところがある。俺はその御神体こそが神官が手にしていたかざぐるまだと思っている。」

 「てことは、今向かってんのは御神体ってのがお供えしてあるとこなのか?」

 「あぁ。…………本殿、というんだったかな。」


 丁度彼の説明が終わる頃、ひとつの大きな建物に到達する。ヤナキには拝殿も本殿も神楽殿も違いなど分かりはしない。強いて言うならば大きさが違うことぐらいだろうか。なんにせよ、目的地にはついたらしい。本殿は閉まっていた。2人は互いに顔を見合わせて、扉を開こうと手を伸ばす。


 

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