第63話 埋葬
「よし。そんじゃあまずはタカヤを埋めんの、手伝ってくれ。」
「…………あぁ。」
ヤナキに従い、タチバナは共に石段の下へ転がるタカヤを見に行く。そこには変わらず瞼を落としたタカヤが頭からは鮮血を流して倒れていた。息は既にない。
徐々に冷たくなる体を抱えて、2人は神社から離れる。少し山を下り、草が地面を占拠する場所に辿り着く。そこでタカヤを肩に担いだタチバナは止まる。彼をここに埋葬するためだ。
「……そういや穴を掘る道具持ってねぇな。」
「問題ない。1人分ぐらいの穴なら掘れる。」
「す、すげえな。」
宣言通り、タチバナは爪に土を詰まらせながらも掘り進める。あっという間に小山ができ、ひとりの少年がすっぽり入るほどの穴が誕生した。
そばに置いたタカヤを腕に寄せ、ヤナキは暗い穴にそっと置く。そして2人で眠る少年へ温度のない褐色の毛布をかける。土に隠れ、タカヤの顔も体も見えなくなり、ふっと息をつく。
「おやすみタカヤ。ちっと休め。」
「………………。」
手を合わせ、言葉を発することない相手に黙祷を捧げる。
しばらくして、ヤナキはタチバナへ言う。
「…………よし。そんじゃあ、『贄の儀式』の前に、またここに来ようぜ。」
「?なぜ?」
「タカヤを生贄にするためだ。」
「!?お前、自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
タチバナは大声を出して立ち上がる。顔には得も言われぬ激情が上り詰めている。それもそのはず。ヤナキは神官を止めると言っていたにも関わらず、タカヤを神官が扇動する儀式へ捧げると言っているのだ。支離滅裂で、わけの分からぬ行動に対して咄嗟に怒りが湧き上がった。
対するヤナキは彼の激情を受け止めてもなお冷静であった。
「………理由はちゃんとあるぜ。ただ、説明するのは難しいんだ。それに説得力もあんまねぇだろうし。だから、今はついてきてくれねぇか。」
「……………………分かった。」
提案を受け、タチバナは黙ってヤナキについて行く。その背中は何の迷いもなく、山の途中にある『ヨモの湯』へ入る。客の影はひとつもない。ヤナキはそのことにやや安堵しつつ、受付の奥に進んだ。先には曇りガラスの扉があり、これまた解錠してあったので開く。
物置のようなスペースのそこには、テーブルが置いてあった。上にはアヒルの黄色い玩具が堂々と座っている。ヤナキはそれを指さし、タチバナへ言う。
「これに触ってみてくれ。」
「?あ、あぁ。」
言われるがままに玩具へ触れる。すると、タチバナの頭にある少年の声が響く。とても見知った声だ。
『籠目島の神官には特殊な力があるんだ。それは亡くなった人を蘇らせて役割を与える力。役割は旅行客、女将、漁師、いろいろある。役割を与えられた人間は記憶を植え付けられて、その通りに動くんだ。勿論、周囲の人にも違和感がないように記憶が植えられる。』
少年、もといタカヤの声は続く。タチバナはただ驚きのまま硬直していた。何故、亡くなったはずのタカヤの声がするのか。彼の話内容は本当なのか。困惑するタチバナをおいて、タカヤは再び話し始める。
『その偽物の記憶に違和感を覚えるには付喪っていう神様の宿った特殊なものが必要なんだ。これは年季の入った物とかじゃないと駄目。それで、付喪に触れると物の近くで起こった出来事が見聞きできる。ただ、『つくも様』だけを信仰している人間はそれが出来ない。……………こんなところかな。』
それっきり声は聞こえなくなってしまった。しんと静まる空気とは裏腹に、タチバナの頭は喧しいほどの情報に翻弄されている。どうにか落ち着こうと深呼吸をして瞬きを幾度もしてみる。鼓動の音が小さくなり、周囲の些細な音が耳に入るようになってきた。改めて、タチバナはテーブルを挟んだ先にいるヤナキへ目を向けた。視線に気付いた彼は頷き口を開く。
「多分、タカヤの声が聞こえたよな?」
「………あぁ。」
「そんじゃあ、分かったはずだぜ。タカヤを生贄にする理由が。」
浴びるようにやって来た情報を整理しながらヤナキの言わんとすることを考える。先のタカヤの話では神官は亡くなった人間を新たな記憶を植えて蘇らせるとあった。つまりは、再びタカヤをこの世に誕生させるために生贄にするということなのだろう。納得をしたタチバナは静かに答える。
「あぁ。………未だ混乱してるがな。」
「だよな。俺もタカヤからこの話聞いたときはビビったぜ。……でも、これで知るべきことってやつのひとつは知れたんじゃねぇか?」
「そうだな。まだまだあるが、一歩前進だ。」
情報の整理を終えた2人は改めてこれからの方針を決める為、椅子に腰掛けた。




