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第61話 ミキ、正しき道へ

 「さて。私は私を納得させなければいけないんだったね…。」


 自身と瓜二つの人間を前にミキは呟く。すると目前の少女はこれまたミキと同じように話を始めた。


 『あぁ。そうさ。だが果たして出来るかな。』

 「やってみせるさ。君は私に敵対するんだろう?何か言ってご覧よ。しっかり反論しようじゃないか。」


 手を広げて相手を挑発する。少女は鼻を鳴らして、安っぽい物言いに乗っかる。


 『良いだろう。………ミキ、もう一度言うよ。君は明羅(めいら)くんを止めることは出来ない。何故なら、土壇場になって逃げ出してしまうからさ。』

 

 意地の悪い笑みには負けず、口角を上げる。相手の言葉はおおよそミキの予想通りであった。その為、用意していた答えを提示する。


 「逃げる?まさか。今の私には友人がいる。共に立ち向かう友人がね。だから、私ひとりで逃げることなんてない。」

 『はっ!本気で言ってるのかい?』

 「………………なに。」


 ミキの答えは心底見下げたような態度で払われた。やはり一筋縄ではいかないらしい。次なる言葉を浮かべている最中、少女はミキの反応を待たずにまくし立ててきた。


 『忘れたのかい?君は夢の中の籠目島(かごめしま)でスイさんを裏切ったじゃないか。彼女を信じられず、タチバナさんへ差し出したじゃないか。』

 「……………………。」

 『だというのに、ひとりで逃げることなんてない?可笑しな話だね。全く。』


 語られた内容は紛れもない真実。確かにミキは夢の中でスイを信じられずに見捨てた。だが所詮は夢だ。そう思い少女へ反撃しようとしたが思い留まる。夢は夢でも、そこに居たのはミキ本人だった。己の意思で、彼女はスイを見捨てた。ならば、現実であろうと選択は変わらないのではないか。

 即ち、友と謳っていても再び見捨ててしまうのではないか。自身への疑念が募る時、少女は待ってましたとばかりに愉快な顔をする。


 『ほぅら。言い返せない。やはり君は逃げるよ。だって、友も、自身すらも信じられないんだからね。』

 「……………、」


 これ以上調子づかせないように口を開こうとする。しかし、更なる声が大きなくって襲いかかった。


 『考えてもご覧よ!君はいつだって否定ばかりして生きてきただろう?自分の考えも、性も、全て!その証拠が、この長ったらしいコートさ!』


 彼女がそう言って触れたコート。それはとても長く、ふわりとしており体の曲線が定かにならないほど緩い服であった。さらに特徴的なのは首元まで伸びた襟。これら全て、ミキが女であること、性を持つことをひた隠しにするための隠れ蓑であった。


 「………………あぁ。そうだね。」


 遂に否定すら出来ず、ミキは認める。


 「確かに私は何かを信じ抜くだとか、そういうのは苦手だ。いつも逃げて、隠れて、押し殺してきたさ。」

 『……………ふっ。』


 ニヤリとした表情が勝利を宣言する前に、けれど、とミキは続ける。


 「けれど、私はその辛さを知っているんだ。逃げるのも、隠れるのも、押し殺すのも、苦しいんだ。」

 

 眼が少女を捉える。どこからどう見ても彼女は女性だ。女の性を持っている。鏡で見てしまえば明確なのに、ミキは今まで否定し続けていた。


 「どうして苦しいか、考えた。それは至って簡単でね、」

 『……………。』


 相手は黙っている。ミキの答えを何処か心待ちにしているのかもしれない。それもまた、思い込みに過ぎない可能性はあるが。


 「それはね、きっと正しくないからだ。少なくとも、私が正しいと感じていないからだ。」

 

 そこまで聞いて、少女は小さな声を発する。何かに縋るような気配さえ感じさせて。


 『………………君の正しさが万人の正しさとは限らないだろう?本当に、その選択で良いなんて保証はないだろう?』

 「あぁ。そうだね。それでも、信じるさ。自分をじゃない。自分の感じた正しさをさ。」

 『………………ふぅん。』


 静かに、2人の距離は縮まる。歩み寄ってきた少女は右の方へ手を伸ばす。それに呼応し、こちらも手を伸ばした。


 『………私は、いつでも君の内にある。今は協力するが、正しさを感じられなくなったら、また現れるよ。…………精々覚悟することだね。』

 「ふっ。あぁ。お手柔らかに。」


 手のひらを起点に2人の人間がいま一度ひとりになる。問答を終え、同じ道を目指すために。

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