第60話 自室
次なる目標はミキに縁の深い物の捜索。3人は取り敢えず彼女の家に行くことにした。ミキの家は海岸沿いに建っており、潮の匂いがたっぷり染み込んだ平屋の家だ。外構の塀は石が積み立ててあるものであり、そこに並ぶクリーム色の木の門をくぐれば敷地の中になる。
「はぁ〜。ミキちゃんの家って相変わらずでっかいねぇ。」
「どうも。……とは言ってもここで付喪を探すのは骨が折れそうだけどね。」
スイの感嘆とは打って変わって、ミキはやや憂鬱そうだ。だが、文句を言ってはいられない。緩やかに首を振って、彼女は友人らを招待するように先陣を切る。
「付喪の目星はついているんですか?」
コユキの問いへ強く頷く。無論、付喪の予想はついていた。何処にあるかも、はっきりとしている。
「あぁ。………恐らくこっちだ。」
3人は靴を脱ぎ、家に上がる。中はフローリングと畳が折り混ざった様式であった。その代わり、部屋を区切る扉の役割は全て襖が行っている。ミキは先頭にたち、奥へと進む。そして、とある一角で立ち止まり襖をスライドした。
シンプルな机と座布団に、膝下ほどの引き出し付きラック、背が高く重量のあるタンス。必要以上の物を置かない部屋はミキの自室であった。ミキ足を踏み入れると真っ先にタンス横にあるハンガーラックへと向かう。そこに掛けられているのは厚手の衣服ばかり。その内のひとつ。ロングコートの前で立ち止まる。
「……これが、私の付喪だろうね。」
「へー。コートが付喪かぁ。まー確かに、ミキちゃんはよく着てたもんね。」
スイの言葉に頷く。そして、躊躇いからも時間を埋めるために質問をする。
「付喪に触れると、自分に会うんだね?」
「はい。そうでした。少し話をして、相手が納得したら私の体の中に入ってきたんです。」
「………………そうかい。………じゃあ、私も自分に会ってくるよ。」
「お気をつけて。」
意を決してコートへ触れる。途端に、ミキの視界は黒に塗り潰された。身構えてはいても驚く彼女は、瞬きをする。瞼が幾度か開閉し、目前の景色が正常なものへと移り変わる。勿論、真の意味では元通りというわけではない。顔を横に向けると、すぐにそれが分かった。
『やぁ。』
ミキ本人。もうひとりの彼女が手を降ってくる。手を振り返さずに相手の少女を観察していると、言葉が続く。
『意外だったよ。君がここに来るなんてね。』
「………それはどうしてだい?」
『どうしてって…。だって君、逃げるのが得意だろう?自分と会うなんて考えたら、臆病風吹かせて逃げると思ってたからね。』
「ふぅん。そうかい。」
コユキは言っていた。もうひとりの自分を内に取り込むと。そう考えたら、中々骨が折れそうだと思い、ミキは目を細めるのだった。




