第6話 記憶は足元に
夕飯を終えたヤナキとコウガは部屋に戻る。2階へ上がって建て付けの悪いドアを開くと、夕飯前は無かった白い布団が敷いてあった。白を基調とはしているものの、目立った柄は勿論、カラフルなかざぐるまだった。
「あれ?本がないでござる…。」
コウガは残念そうに呟く。つられてヤナキも部屋の中を探してみるが、やはり部屋の中に本は無かった。
「まぁ、片付けたんじゃねぇか。元々、この宿のものだしな。」
「そうでござるね。じゃあ、また持ってくるでござる!」
行って来いと、見送る気で居たヤナキだったが、コウガに腕を引っ張られて一緒に本を持ってくることに。
部屋を出て、木造の廊下を歩く。夜なので床が軋む音がより一層大きく感じた。そして、廊下に置かれた本棚の前にたどり着く。
「あったでござる!」
嬉しそうにコウガはみにくいアヒルの子の絵本を抱える。ヤナキも自分用にと読みかけていた『籠目島の神秘』という本を探す。
しかし、お目当ての本は見当たらなかった。まぁ、宿泊客は他にもいるのだ。誰かに読まれていてもおかしくはない。コウガの本は手に入ったことだし、良しとしよう。そうして2人は部屋に戻った。
戻ってくるなり、ヤナキは再びコウガへ読み聞かせをした。何度目かの読み聞かせの後、夜もだいぶ深まったと感じたヤナキは言う。
「そういや、風呂はどうするだろうな。」
「確かに。ここには無さそうでござるねぇ。」
「聞きに行くか。」
一階へ降りて、着物を着た少女を捕まえる。何やら浮かない顔をしていたが、2人を目にすると彼女は無理に明るい表情をつくって答えた。
「ご入浴ですね。でしたら、近くの銭湯をご利用ください。宿泊者様は此方の券でご利用できますので。」
そう言って渡してきたのは数枚綴りの入浴券と書かれた紙だった。それを受け取り、2人は準備をして銭湯に向かう。
人工の光がほとんどない外を歩く。地面を踏みしめる感触のまま、ヤナキは未だ晴れない頭を抱える。
「………なぁコウガ。お前はここに来た直後のこと、覚えてるか。」
「え?まぁ、少しでござるが。拙者、ヤナキ殿より先に『かざぐるまの宿』に着いていたんでござるよ。そこで同室の人がまだ着いてないって聞いて探してたでござる。」
それから浜辺で出会って宿へ行った。そこまでは理解した。しかし、ヤナキの頭では引っかかるものがある。自身が家出をしたことは思い出せても、島に来る直前のことが思い出せないのだ。
浮かない顔をしているヤナキへコウガは言う。
「大丈夫でござるよ!きっとお風呂に入ってさっぱりすれば、すっきりするでござる!」
「それもそうだな。」
背にシャツが張り付く。気持ちの悪い汗が流れるのを感じながら、ヤナキは銭湯への足を早めるのだった。




