第56話 試練
再び瞬きをすると、先の出来事が嘘のようにコユキとミキの姿があった。
「スイさん!大丈夫ですか?」
「え?あー、うん。」
珍しく声を荒らげてコユキがスイの肩を揺さぶる。その衝撃でスイはぼんやりとする頭をリセットして、改めて状況の整理を始めた。
「スイさん。呆けていたが何があったんだい?」
脳内には、先程の自分そっくりの人間とした対話が浮かぶ。スイは頭から爪先まで同じ人間に引き留められていたのだ。明羅に会うことをやめろ、友人のためにも、と。
「………この鍬に触ってから、2人が見えなくなったんだ。それから、うちそっくりの人間が話しかけてきて…。」
「それで?」
頷きミキは続きを促す。スイは少し言葉に詰まった。話をして、そうして、もうひとりのスイは溶けるように重なり消えてしまったのだ。中々説明が難しい。
「それで…話したら、『そっか。』って言って消えたの。うちにぴったり重なって。」
「ふむ。」
話を聞く2人は疑うことなく、真剣に相槌を打つ。スイに起こった出来事がいったい何を意味するのか、必死に頭を回転させているようだ。勿論、スイは己の身に降りかかった事に検討などつかない。なので、静かに2人を待つ。
「…………スイさんは鍬、もとい付喪に触れて不思議な現象を目の当たりにした。………つまりは、鍵は付喪にあるというわけか。」
「ミキさんは確か、九十九とやらは妖怪の一種とおっしゃいましたね。私達が見た夢、そしてスイさんが出会った出来事も妖怪九十九の仕業だと?」
「あぁ。私はそう考えているよ。」
ミキは己の見解を述べ、顎に指を這わす。これから向かう明羅が妖怪の力を使うというのなら、こちらも対策が必要なのではないか。そしてそれは、スイの出会った付喪が有効なのではないか。不確定ながらも、既知の情報を駆使して選択を下す。
「2人とも。明羅さんの元へ向かう前に、付喪を集めていかないかい?」
「?なんで?付喪ってのは過去の記憶を見聞きできるだけなんでしょ?」
「あぁ。だが、妖怪九十九の力が宿っているのは確かだろう。こちらも無策で向かいたくはないからね。」
希望的観測であることは十分承知している。しかし、付喪が何の役にも立たないただの記録装置だとは思い難かった。そんなミキの懸念を理解したコユキは拳を握りしめて同意する。
「ですね。私もミキさんに賛成です。」
友人2人の選択にスイも従うことにした。きっと、この2人ならば大丈夫だから。
「よく分かんないけど了解!それじゃあ、装備集めに行こー!」
「………装備?」
「そう!明羅さんを倒すための伝説の装備集め!…………あれ、違った?」
「い、いいえ。そういうことでいいと思います。」
こうして当初の目的から少し外れ、3人は島にあるはずの付喪探しを始めるのだった。




