第55話 スイ、友を想う
明羅がこのおかしな状況を引き起こしたのではないか。3人はそう結論づけた。ともすれば、することはひとつ。彼がいるであろう神社へ向かうだけだ。そうこうしてはいられない。すぐさま向かおうとするが、スイはやはり鍬が気になってしまった。
「ね、あの鍬持っていきたいからちょっと待ってて!」
「分かりました。」
コユキの許可をもらい、畑に転がる鍬を拾う。
その為に、冷たい木でできた持ち手に触れた途端、スイの視界は真っ暗になる。
「!?」
驚き、瞬きをした瞬間に視界は何事もなかったかのように正常なものへと戻る。しかし、決して元通りというわけではない。何せ、付近にいた友人が居ないのだから。
「コユキちゃん!ミキちゃん!」
呼びかけても2人の応答はなし。
あくまで、友である2人のものは。
『そんな叫ばなくても平気だよ。』
「!」
声の主はすぐさま分かった。突然目の前に現れた少女だ。彼女はスイと同じ顔、同じ学校、同じ体温で鍬を持っている。
「な、なんでうちがもうひとり…。いや、どうでもいいや。それより2人はどこ?」
睨みつけるスイに対して少女は口を吊り上げ言う。
『安心して。2人にはすぐ会えるよ。………キミが、止まりさえすればね。』
「止まる…?どういうこと。はっきり言ってよ。」
苛立ちが抑えきれず、言葉が棘を持つ。姿の見えない友人は果たして無事なのか。この不可思議な現象は明羅が与しているのか。スイにはてんで分からない。だからこそ焦りが高まり態度となって表象する。相手は依然として余裕綽々な様子だ。
『言葉の通りだよ。今、キミがしようとしてることを辞めるってこと。』
「……………明羅くんに会いに行くなって?」
『そう。』
少女は手にした鍬をくるくる回し、もて遊ぶ。子供がごっこ遊びをするように振り回す。
『考えてもみてよ。明羅くんは九十九だか付喪だか知らないけど、それで他人の夢を操ったりできるんでしょ?危ないに決まってんじゃん。』
ふざけた調子から一変。動かしていた手を止めて、スイを真っすぐ見る。その顔には真剣さのみが残っていた。
『そんな人に会いに行く?危ないでしょ。……キミは大切な友達を危険に晒すつもり?』
「…………………。」
スイは押し黙る。確かにそうだ。さすが自分自身。彼女の言う通り、少女スイならば、友を想うのならば、危険を知りながらも進むなんてことは論外だ。止めるべきであり、やめるべきなのだろう。
しかし、それは彼女の我儘にすぎない。とある少年の言葉を思い出す。
『ヤナキ殿はもう居ないからでござる。だからせめて、ヤナキ殿のように誰かを守りたいでござる。』
彼は友を想い、だからこそ友の意思を継ごうとしていた。そんな彼へ心動かされなかったはずがない。夢であろうとも、確かな事実として未だ心のうちにあるのだ。故に、スイは目前の少女もとい自分へ答える。
「それでも、コユキちゃん達は進みたがっていた。だから、うちも行くよ。子供じゃないんだから他人を思い通りにさせるつもりはない。」
『子供じゃない?何言ってるの。子供でしょ。キミは。』
「違うよ。」
首を振り、少し微笑む。ただの言葉遊びだが、少女の発言を否定する。
「ただの子供じゃない。いつか大人になる、その途中にいる子供だよ。だから、毎日少しずつでも前に進むの。うちも、キミも。」
『………………そっか。』
目を見開き、驚く少女。彼女は納得したように、こちらに歩み寄る。そして、スイへ触れる。2人の少女が、溶け合うように1人になった。




