第54話 九十九つくも付喪
島へ辿り着いた3人は、早速島の中心にある神社を目指す。浜辺を抜け、褐色の地面へ足を踏み入れる。見慣れた景色。夢、あるいは現実でも見たはずのそこは僅かな違和感が塵のように積もっていた。
進む最中、彼女らはスイの家が所有する畑を通りかかった。変哲もないそこを通りかかる前に、転がっていた鍬がスイの注意を嫌に引く。金属の刃がきらり。光ったような気がした。曇天の空ぐもりでは日光が差すことはない。それでも光って見えたのは、スイの脳裏に残る記憶のせいか。
彼女の釘付けになった視線に気付いたミキは、鍬を見てふと言葉を洩らす。
「…………そういえば、夢で『付喪』という不思議なものに会ったよ。」
「つくも?それって、『つくも様』ってやつとは違うの?」
単純なスイの疑問にミキは頷く。そして、かつて受けた説明を横流しする。
「あぁ。実は夢の中にいた神様はかざぐるまに宿る『つくも様』だけではなかったんだ。付喪と呼ばれるモノに宿る神々が沢山いたらしい。」
「どうして、今それを?」
「そこにある鍬が『付喪』のひとつだったんだ。………私は夢で、鍬に触れて過去の声を聞いた。全く、興味深い経験だったよ。」
肩をすくめて語る彼女は何処か楽しげだった。どうやら言葉通り、夢の体験へ身を委ねていたらしい。
スイはミキの話を咀嚼し、バラバラに分解する。つくも様。付喪。神。似たりよったりでマーブル柄のピースが脳内には幾つも浮かぶ。それらをくっつけることは叶わない。が、空白の場所に、当てはまるべき何かがあるのではないか。見落としがあるのではないかと、足りない頭で考える。
「…………つくも……付喪ね……。はぁ。だめだぁ。傘のお化けとかしか思い浮かばないや。」
「?スイさん。珍しく考え事ですか。」
「珍しくって失礼だなぁ!……うちらが見た変な夢、つくもってのが関係すんのかと思って、頭捻ってたの!」
「なんだい。そういうことか。でも、辞めたほうがいいんじゃないかい。明日にでも知恵熱で寝込んでしまうよ。」
「もう!失礼だな!2人とも!」
全く遺憾である。スイは折角頭をフル回転させていたというのに、友人ときたら真面目にこちらの頭を心配していた。
腕を組み、拗ねているとすまないなんて思っているのかいないのかよく分からない声をミキがかける。そうしてくだらない話をしている途中。ミキは先のスイの発した単語に引っかかりを覚える。
「唐傘おばけ…。そうだ。九十九は悪戯好きの妖怪であるという考えもあったね…。」
「?それがどーしたの?」
「いや。不思議に思っていたんだ。私達の夢がどうして同じものだったのか。だが、それも九十九、もとい妖怪の力ならば理解できる。」
口がうまく回り、面白いほどに早口になる。ミキは己の考えが冷めぬうち、2人に話したくて堪らなくなっていた。興奮が冷めない彼女へ、コユキは制止するように落ち着いて質問する。
「……………夢を作り出したり、自由に弄る妖怪がいる……ということですか。」
「あぁ。……キミ達も耳にしたことがあるだろう?明羅さんには目に見えない友人がいると。」
ミキの言葉にコユキははっとする。今の今まで要領を得なかったスイまでも、内容を掴めてきたようで、あっと大声を出した。
「つまり、明羅くんが妖怪から力を借りて、あの変な夢を皆に見せたってこと!?」
「仮説だがね。」
確定した真実として語りはしないものの、ミキの発言は堂々としており、彼女のうちでは揺るぎのないものであるように思えた。ミキの自信も相まって、他2人もまた摩訶不思議な夢、及び島民の昏睡状態が明羅の仕業ではないかと思い始める。
空を埋め尽くす灰色の厚い雲。その壁へ、僅かな隙間が空いたような気がした。




