第51話 胡蝶の夢
「……………ここは……。」
ひとりの少女がベットから起き上がる。上も下も真っ白で、妙な薬品の匂いが漂うここは、恐らく病室だろう。だが、一体何故少女はそんなところにいたのか。普通に考えれば、少女の体が不調をきたして病院へと来たのだろう。しかし、当の本人は頭がぼんやりとしていてものを考えられない。
彼女のいる部屋は四人部屋のようで、他二つのベットにも誰かが寝そべっている。一つは空いていた。何の気なしに、眠っている人間を観察する。
「…………?あ、れ………。スイさん………ミキさん………?」
見覚えのある顔だ。そうだ。籠目島で見た顔だ。そこまで記憶が蘇り、遂には自身がコユキという名であることも思い出す。
「……………ですが、私は、死んだはずでは………。」
頭を抱える。もしや、これは夢なのだろうか。はたまた、籠目島で女将をやっていたことこそが夢なのだろうか。
「女将…………?」
自問自答の最中、ある疑問が浮かぶ。どうして己が宿の女将などしていたのだろうか。考えてみればおかしいではないか。だって、コユキには両親がいる。『かざぐるまの宿』を営むのはコユキのような子供でなく、両親のような大人に決まっているであろう。
しかし、夢の中、あるいは現実ではコユキ自身が宿を運営していた。やはり、籠目島での出来事こそが夢なのだ。そう思えば、チグハグな出来事にも説明がつく。
「そうですよね。……考えてみれば、ヤナキさんとコウガさんとミキさんが観光客というのもおかしいですし。3人とも籠目島で育っているのに…。」
納得したように頷いていると、ベットに横たわる少女らが起き上がってきた。
「おはようございますスイさん。ミキさん。」
声を掛けると、少年のような少女のような人物、ミキが髪を手ぐしで整えながら答える。
「やぁ。おはようコユキさん。」
次いで、伸びをしたスイが元気よく言う。
「おはよー!ふたりとも!」
何の変哲もない。2人はいつも通りの2人だ。これといって目につくところはない。そうして少女らを眺めているとスイが頬をかきながら話し始める。
「そういや、うち、変な夢見たんだ。」
「変な夢…ですか?」
「そそっ!うちらの島に『つくも様』っていう訳分かんない神様が住み着いて、そいつに生贄を捧げる夢!」
静かに聞いていたミキは驚いたように声を出す。
「奇遇だね。私もそんな夢を見たんだ。」
「…………実は私もです……。」
「え!?そんなことあるんだ!?」
2人の告白に、スイはあっと口へ手を当てる。この状況に対し、コユキはここが夢の世界なのではないかと考えてしまった。何せ、3人の人間が同じ夢を見るだなんてこと、起こり得るハズもない。
当惑の中、窓の外を見る。厚い雲に覆われたグレーの空は夢、もとい現実では一度も目にしなかった景色であった。




