第5話 みにくいアヒルの子
「なぁコウガ。そろそろ終わりで良いか?」
ヤナキは持っていた絵本を閉じて聞く。
「大丈夫でござる!ヤナキ殿、ありがとうでござるー!」
満足そうにコウガは答えた。読み聞かせはかれこれ数時間にもわたった。気が付けば、日も暮れている。
中央の天井にぶら下がる紐を引っ張って灯りをつけると、オレンジの暖かな光が部屋に広がった。
「にしても、そんなに気に入ったのか。あの本。」
「そりゃあもう!マイ・フェイバリットブックでござるよ!」
「そっか。そりゃよかったな。」
忍者を自称するのに横文字を酷使するのは如何なものかと思いつつ、ヤナキは微笑む。彼に兄弟はいないが、もしいるとすればこんな感じなのだろうか。
足を崩して会話を続ける。
「なぁ、どんなとこが気に入ったんだ?」
「そうでござるね…。」
コウガは考え込むように窓の外を眺める。外は真っ暗だ。町中とは打って変わって灯りの少ないこの島では、空を照らす星がギラギラしている。
「…………拙者もアヒルの中にいる白鳥なんじゃないかって、思えたんでござるよ。だから、場所さえ変えれば拙者も輝けるんじゃないかって。」
「そうか。まぁ、適材適所ってやつだな。」
先の静かな雰囲気とは一変、コウガはいつもの調子に戻って声を弾ませる。
「そうでござるよ!『てきさいてきじょ』でござる!」
「全然違ぇよ!?」
「誤差でござる!」
なんて話をしていると、ドアがノックされる。
「失礼いたします。お夕食の準備が整いました。」
「ご飯!すぐ行くでござるー!ヤナキ殿も!」
「お、おう。」
コウガに引っ張られる形でヤナキは部屋を後にする。軋む階段を下って、一階へ行く。食事処には幾つかの小鉢と小さな鍋が2つ置いてあった。卓上に並んだのは山菜がメインであり、肉は鍋横に数枚重ねて置かれている。薄いのでしゃぶしゃぶ用だろう。
「いただくでござる!」
「いただきます。」
2人は声と手を合わせる。かざぐるま柄の箸入れから割り箸を取り出して割り、漬物へ手を伸ばす。
漬物にしては味が薄いものの、ヤナキにとってはむしろ丁度よい塩気が舌をうつ。
「ん。美味いな。」
「そうでござるね!ちなみにヤナキ殿。お肉、いらないでござるか?いらないなら拙者が頂くでござる!」
横を見るとコウガの肉は無くなっていた。ヤナキが漬物を味わっているうちに、彼はメインディッシュを食べ終えてしまったようだ。
「………ちっとならやる。全部はやれねぇけどな。」
「やったでござる!」
箸を踊らせながらヤナキの肉を取る。すぐさま自身の鍋につけて、美味しそうに火の通った肉を頬張った。
口角の上がった顔を見て、本当に美味しいのだろうと思いながらヤナキも肉へと手を伸ばすのだった。