第49話 そのワケ
神官が去った後の場には立ち尽くしたタチバナと状況が飲み込めないヤナキのみ。2人はしばらく言葉を交わすことはなかった。しかし、遂にヤナキが口を開く。
「………タチバナ。俺を殺さねぇのか。」
その問いに怒りや困惑、やるせなさを織り交ぜたタチバナは答える。
「神官殿はお前を見逃すと言った。…………お前を例外とすると…。」
明らかに納得をしてはいない表情。ヤナキとしては命拾いしたのだから安心すべき場面なのかもしれない。だが、どうしてもタチバナのチグハグな表情が突っかかる。眉には力が入り怒りが見え隠れするというのに、瞳は悲しげな色をしている。そして口元は自嘲気味に上がり、不格好な笑みが張り付く。
そんなタチバナの気持ちを全て推し測れるはずもない。ヤナキは慎重に言葉を選ぶ。
「……………これからどうすんだ。」
「どうするだと?決まっている。いつものように役割を果たして、『贄の儀式』に参加するだけだ。」
機械のように語る。彼自身の意思らしきものは見えず、感じられるのはもはや妄執に届かんとする盲目的でがむしゃらな心だけだ。
下手な呼びかけは無意味だろう。何せ、タチバナの心には強く硬くルールというなの鎖が縛り付けてあるのだから。だとしても、ヤナキはタチバナを想って神官に従うなんてことをするつもりはない。今まで神官へ抗い、散っていった人間がいるのだから。言うならば、ここにいるヤナキは彼らの延長線上にある。
彼らの知識や経験を見聞きし、神官を止めるのに利用する。そしてまた、ヤナキ自身も他の人間へ何かを残す。そうすればいつかは神官を止められるはずだから。
決意をするヤナキとは別に、タチバナは次は自分とばかりに質問する。
「お前こそ、どうするんだ。」
「俺は勿論、神官を止める。…………その為にはもっと知らなきゃいけねぇことがあるけどな。」
まずは不死身とも思える神官の体について。これを解決しなければ止めることは叶わないだろう。それには、神官しいてはこの島についてより詳しく調べる必要があるかもしれない。悩むヤナキ。タチバナは彼を前にして発言を反芻していた。
「知らなければいけないこと…。」
「おう。物事には理由があるだろ?だから、俺はもっと調べなきゃなんねぇんだ。」
理由。それはタチバナにとって二の次のものであった。何故なら、そんなものを考える必要などないと思っていたからだ。彼の行動は常にルールに則って行われる。そこにワケを求めることなどなかった。そうあるから、そうなのだと。思考を停止して従っていた。
そんな彼の在り方も限界なのかもしれない。肝心のルールに例外が生じたのだ。タチバナは例外なんぞ認めたくはないし、認めるわけにもいかない。が、今なら思う。そのような考えの根本から間違っているのではないか。
タチバナの従うルール。何故定められたのか。何故神官が主導するのか。何故『贄の儀式』なんてものがあるのか。全てを知ることが出来たなら、タチバナも納得をして己の意思で選択出来るだろう。
早速調査に向かうヤナキ。タチバナはひとりでに、自身もまた知るべきことを知りに行こうとするのだった。




