表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/69

第48話 許されぬ例外

 ヤナキは包丁を強く握りしめて神官の下へ駆け寄る。彼は特段、対処をする素振りを見せない。それならそれで好都合だと、ヤナキは手にした包丁を振るう。狙い通り胸元へ刃先が突き刺さる。


 神官の胸へ吸い込まれるように滑り込んだ刃先。瞬間、鮮血が彼から滴る。しかし、痛む様子はない。ヤナキはすかさず2撃目を行う。再び飛び散る血。だがやはり、神官の顔は痛みで歪むことはない。

 それどころか、傷口がみるみる塞がっていく。


 「………こりゃあ、一体…。」


 ヤナキは驚き2,3歩後退る。それを見た神官はやや口の端を歪めて自嘲気味に言う。


 「儂をそんな陳腐なもので止められると。本気で思っておったのか?」


 後ろへ下がったヤナキに近付く。彼の握る包丁の刃先をわざわざ掴む。その手からは当然血が流れる。それでも、少しすれば切れた皮膚は当然のように繋がった。

 可能性としてないわけではなかった。『つくも様』とやらの力で島民に洗脳まがいのことをしていたのだ。ならば、その不思議な力を自身の防衛に使うのではないかと。だとしても。まるで不死身のような肉体になるとは思いもしなかった。これはヤナキの浅い見解が招いたことだ。


 今回の作戦は失敗か。もはやここまでと腹をくくったヤナキ。しかし、神官は彼の命を狙うこともなく、背を向けてしまう。


 「これで分かったじゃろう。儂に噛みつくべきではないとな。お主はただ、与えられた役割をこなしておればよいのじゃ。」


 去りゆく後ろ姿に声を掛ける。


 「待てよ!俺を殺さねぇのか!俺はお前を攻撃した!神官に楯突いたやつは殺すんじゃねぇのかよ!」

 「…………………お主を殺すつもりはない。これは儂の決定じゃ。」


 食いかかるヤナキをよそに、神官はその場を去ろうとする。しかし、冷たい声が彼ら二人に降りかかった。どちらのものでもない。今しがたこの場に到着した第三者のものであった。


 「どういう、ことです。」

 「!タチバナ!」


 ヤナキの驚きに付き合うことなく、タチバナはあくまで冷静さを保とうとしながら神官へ詰め寄る。


 「神官殿。ヤナキは貴方に無礼をはたらいたではありませんか。それを、見逃すと言うのですか。」

 「………………そうじゃ。」

 「っ!不敬な人間は処罰すると、貴方が定めたのではないですか!」

 

 遂に感情的になったタチバナ。彼は初めてと言ってよいほど大きな声を出す。その圧に押されることなく、神官はタチバナに目をやらず答える。


 「ルールを定めたのが儂なら、例外を認めるのもこの儂だ。………」

 「…………………例外………。」


 例外。イレギュラー。狂い。それら全て、彼が受け入れ難いもの。許してはならないもの。だからこそ、タチバナは寸分の狂いなくルールに従ってきた。

 毎晩行われる『贄の儀式』に参加すること。神官や『つくも様』に不躾な人間は生贄にすること。与えられた役割をこなすこと。それらが彼の、いや、籠目島(かごめしま)の島民が行うべきルールだ。にも関わらず、ルールを定めた張本人が、今しがた語った。ひとりの少年を見逃すと。なんて、馬鹿馬鹿しい。例外などあっていいはずもないのに。


 そんなものが許されるなら、今まで自分は何のためにルールに従ってきたというのだ。


 タチバナは立ち尽くす。その片手は強く握りしめられ、爪が深く食い込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ