第47話 6人目
木と鉄がぶつかり合う。鳥居の下では鈍い音が響いていた。奏でるはタチバナとタカヤ。少年同士は息を上がらせて互いのバットとデッキブラシを交わす。
「タチバナくん!君は本当にこのままでいいの!?」
「愚問だな。」
感情的なタカヤの問いかけに対して冷静さを保つタチバナ。間髪入れない彼の解答は、迷いのなさを感じさせた。
そんな様子に歯噛みして、されど諦めずに言葉を続ける。
「人を生贄にするなんて、おかしいよ!」
「そうか。お前の中ではそうなんだろうな。だが、俺にとっては違う。この島の仕組みにただ従うだけだ。例外なく、狂いもなくな。」
いくら呼びかけても相手の声音は変わらず。無論、意思も変わらぬようだ。それでも食い下がることなくタカヤは声を荒げる。
「変なのは『贄の儀式』だけじゃない!この島には大人がいないんだ!ひとりも!それなのに、他の人は受け入れている!」
「それが道理だからだ。」
「違う!僕達は神官に考える力すら奪われているんだよ!記憶も何もかも!だから違和感に気付けない!」
2つの武器が交差する。その瞬間に力が拮抗し、鍔迫り合いの状態へと持ち込まれた。タカヤは負けじと声と共に手の力を込める。顔が近付き、タチバナの表情がよく見えた。額にやや汗をかいてるものの、困惑や戸惑いの色は見えない。だが、だとしても、彼に問いかける行為をやめはしなかった。
「随分と現実離れした話だな。」
「確かにそうだね。僕も、夢なんじゃないかって思ってるよ。でも、夢だとしても此処から覚められないなら現実と一緒だ。」
睨みつけるような眼差しでタチバナを見る。が、力負けしたタカヤはのけぞり、石段を2,3歩下ってしまう。よろけた隙を逃すはずもなく、タチバナは金属バットで猛攻を始めた。
「お前が何を信じ、何を疑うかは勝手だ。だが、それは俺にも同じこと。俺はただルールの中で生きるだけだ。それが正しい道だと思うからな。」
再三、主張を否定されたタカヤ。遂に、体力の限界が近付いてきた。恐らく、自身ではタチバナに勝つことはできないだろう。そこまで理解をして、最期の足掻きに入る。
「…………終わりだ。」
「そうだね。でも、終わらせるのは君じゃない。」
「なに。」
頭にバットのフルスイングがぶち当たる。ぐらぐらと揺れる体。どうにか、最後の力を振り絞りタカヤは足を動かして地を蹴る。そうして彼は己の体を跳ね上げる。一度、上へ上がったかと思えば、すぐさま重力に従って落下する。
「タチバナくん。僕は、君に殺された訳じゃないよ。…………………君は僕の命を奪ってなんかいない。」
石段から落ちる合間、聞こえるかどうかの声量で言う。
転がり落ちたタカヤは頭から赤い血を流す。徐々に広がる血溜まりは、彼の生命が終わることを示していた。
「……………………タカヤ。お前は…………。」
タチバナは落ちていったタカヤを確認することなく、その場で彼へ届ける言葉を霧散させる。それは後悔か、感傷か。彼のみぞ知る真意は胸の内に閉まったまま、タチバナは鳥居をくぐるのだった。




