第40話 見知らぬ君、感じる面影
タカヤはひとりで山を下りる。彼のそばには喧しい虫の音と監視をしているかのような月のみ。彼はただその存在を感じながら歩く。そんな中、タカヤに声を掛ける人間がいた。
「よっ。タカヤ。どうしたんだ?気分でもワリィのか?」
「…………ヤナキくん…。」
少年の前に現れたのは死した筈の人間、ヤナキであった。彼は『かざぐるまの宿』に帰ることなく、ふらついていたようだ。
「まだ、帰ってなかったんだね。………もしかして僕に用事?」
ふと、ありもしないことを想像して聞く。が、やはり妄想は妄想。ヤナキの解答はタカヤの想像の斜め上をいった。
「いや、タカヤってか神官に…だな。」
「………神官に…。どうして…?」
イヤな予感がはしる。どうかこれ以上言葉を発しないでくれ。そんな願いむなしく、ヤナキは真っすぐ答えた。
「『贄の儀式』を止めさせてぇからだ。………やっぱり、生贄なんかどうかしてる。」
「……………………。」
何故、そのような考えに至ってしまったのか。タカヤには到底思いつかなかった。だが、理由など大したものではないのかもしれない。ヤナキがヤナキである限り、生贄の存在は許容し得ないのかもしれない。
だとしても。それでも、悲劇につながる彼の思想を、タカヤが受け入れるのは容易ではなかった。
「………止めなよ。『贄の儀式』を止めさせるなんて、そんなの、危険だよ。だって、それは『つくも様』の不敬になるんだよ。…………そうしたら、君もただじゃ済まなくなる。」
哀れなほどに悲しげに、目を細めて相手を見つめる。されど、ヤナキの意志は変わらないようだ。彼は強く突っぱねる。
「俺はどうなったっていい。でもな、人の命を神様なんぞに捧げるってのは変だろ。大昔の村じゃねぇんだ。」
「……そうだね。確かに、そうだね。」
あまりにはっきりとした物言いに、不思議な感覚を覚える。目前のヤナキはタカヤにとって親しい仲ではない。勿論、神官の力で親しかったような記憶はあるが実感はない。にも関わらず、ヤナキの気迫は懐かしいものに思えてしまった。それは、記憶がどれ程ほつれてしまっても彼が彼であるという証拠である。
「ねぇ、ヤナキくん。どうしたら君みたいになれる?」
突然の問いに、ヤナキは少し固まる。だが、微笑んだかと思うと白い歯を見せて宣言した。
「そりゃあ、自分に従えばいいんじゃねえか。間違ってるって思ったことは止めて、正しいって感じた道へ行きゃあいい。」
「………思うこと、考えることも嫌になったら?」
「そしたら…。俺が一緒に考える!ちっとずつでもいいからさ。」
「それは…頼もしいね。うん。心強いや。」
簡単で単純な解。しかし、タカヤにはそれで十分だった。話せることをヤナキへ話そう。そして楽になるはずだ。後のことは一緒に悩めばいい。
月が照らす中、タカヤはひとつの決断を下したのだった。




