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第4話 不思議な力

 食事処でスイカを食べ終えたヤナキとコウガ。2人は出かけること無く、部屋に戻ることにした。再び2階に上がり、部屋を目指す最中、ふと廊下に置いてある棚が目に付く。

 腰ほどの高さの棚は二段に分かれており、どちらにも本が並べられていた。ご自由に、ということなのだろう。折角なので数冊手にとって部屋に戻る。


 「マンガはないでござるか…。」

 

 隣にいたコウガはがっかりと肩を落とす。


 「まぁ、この機会に小説でも読めばいいんじゃねぇか。」

 「嫌でござる!拙者、活字とは相性最悪でござる!」


 強い拒否反応を起こしながら、コウガはヤナキ一緒に部屋に入った。

 無理強いするつもりもないので、ヤナキは諦めて持ってきた本を読むことにした。彼が手にしたのはハードカバーの本であり、タイトルは『籠目島(かごめしま)の神秘』というものであった。他の本は側に積み上げて、早速ページをめくる。


 内容は至って単純で、籠目島(かごめしま)の信仰に関するものであった。どうやらこの島にいるかざぐるまの付喪神とやらには不思議な力があるらしい。

 途中まで読み進めているとバタバタという音が耳に入る。どうしたのかと、本から視線を外すとコウガが本を倒しているのが目に入った。


 「…………何してんだ?」

 「よく聞いてくれたでござる!これぞ、忍法ドミノ倒しでござる!」

 「本でやるな!」


 倒れた本を直しながらヤナキは言う。対するコウガは悪びれもなく、足を放り投げて駄々をこねる。


 「暇でござるよヤナキ殿ー!」

 「………はぁ。じゃあ本でも読め。これなら絵本だし文字はすくねぇだろ。」


 脇に挟めてしまうほど大きな本をコウガに差し出す。どうやら彼の興味は引けたようで、押し黙る。


 「…………ヤナキ殿。読み聞かせしてほしいでござる…!」

 「分かった。じゃ、その代わり今日は忍法を使うなよ?少なくとも宿の中ではな。」

 「了解でござる!」


 ヤナキが読み聞かせたのはみにくいアヒルの子であった。細かいところまでは覚えておらずとも、内容はだいたい理解していた。子ども向けも子ども向け。果たしてコウガは楽しめるのかと訝しんだが、思いのほか楽しめたようだ。

 読み聞かせが終わるとコウガは瞳を輝かせて言う。


 「もう一回!もう一回お願いでござる!」

 「お、おう。」


 圧に押されつつ、ヤナキは今一度みにくいアヒルの子を読む。それが終わるとまた読み聞かせを頼まれた。何度も何度も読み聞かせた。その度にアヒルは家族から迫害されて、ひとりで旅立つ。その先でもまた、醜いという理由で迫害される。最終的には己が白鳥だと気付けたのだから、アヒルの旅は素晴らしいものなのだろう。

 では、ヤナキ自身はどうなのか。彼の、彼自身の旅は良いものになるだろうか。


 そこでようやく気付く。というよりも、思い出す。ヤナキはこの島に来る前、己が家出をしてきたということを。

 だが、それが何だというのだ。どうだっていい。ヤナキはそうして日が暮れてもコウガに読み聞かせをするのだった。

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