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第39話 少年が見たのは

 籠目島(かごめしま)の中心。そびえ立つ山の中心に位置する社には、日付が変わろうとしているのに多くの人が集っていた。彼らは島の住民であり、社内の神楽殿にいる。


 「さて、今宵も贄の儀式を始めよう!」


 音頭を取っているのは神官と呼ばれる少年。人々は彼を見つめる。群衆の中には生気のない少年もいた。彼は『ヨモの湯』の番台をしており、タカヤという名である。


 「………………。」


 タカヤは俯き、神官へ近付く。そして彼から松明を受け取った。いつも通りだ。贄の儀式と冠された通り、神楽殿内部の中心には生贄が用意されている。彼ら彼女のことは知っていた。ミキという少年のような少女のような人物だ。

 既に息のない彼、彼女のもとに行くとタカヤは受け取った松明を置く。他の人々は投げつけるものもいた。そうしてパチパチ音をたて、ミキの死体は燃えていく。タカヤや他の人々はただ見つめる。


 「皆、今宵も良く集まった。これにて贄の儀式は完了じゃ!」


 神官のひと声で人々は散っていく。タカヤもまたいつも通りに神楽殿を出る。そして山を降り、打って変わらぬ生活へと戻る。

 それが普段の習慣であった。がしかし、今回は違った。島の住民と同様に神楽殿から退出したが、社の敷地から出ることはない。神楽殿の出入り口からぐるりと回り、建物に張り付くように僅かに空いた隙間を凝視する。


 そこからは神楽殿の内部が見渡せた。狭い視界の中、タカヤが見たのは燃え盛る死体を前にする神官だ。手には2つの壺がある。

 一体何をするのか。タカヤは瞬きをせずに見つめる。すると、不思議なことに死体はすぐさま灰になり空を舞った。それだけではない。灰は意思を持っているかのようにするりと壺の中に滑り込んだのだ。


 彼の行為が一体何を意味するのか、タカヤには全くもって不明である。しかし、無理解に苛まれた状況は待ってはくれない。次に起こったのはこれまた不可思議な出来事であった。

 なんと、神官の持つもう一方の壺から灰が飛び出してきたのだ。それらは滑らかな曲線を虚空に描いたかと思うと、まるで人のような形をとる。タカヤは咄嗟に身構えた。これから何が起こるというのだ、と。


 彼が見張る中、灰は見事に人の形になり頭や四肢を形成する。無論、形だけではない。目や鼻、口、爪に至るまでの人体が形成されていったのだ。ついでに衣服までもがただの灰から。造られた人間はタカヤも見覚えがあった。親しかった訳では無いが。

 長い沈黙を破ったのは、神官である。彼は怪しげな笑みで言う。


 「お主の名はコウガ。ここで農業を営む者じゃ。…………良いな?」

 「はい。」


 神官の問いかけに、コウガは色のない返事をする。


 「よし。それでは行くが良い。せいぜい励むのじゃぞ。」

 「はい。」


 タカヤはしばらくの間まともな思考ではいられなかった。神官が死した人間を復活させ、新たな役割を与えることは知っていたものの、実物を見るとなるとまた違う。

 この目で実際の光景を見るまでは、種や仕掛けがあるのだと思っていた。しかし、はっきりと目にして理解する。神官は本当に神の力を行使し、死者をよみがえらせるのだと。


 「……………僕は、どうすればいいのかな。」


 これからのことに頭を悩ませる。いや、悩むことすらしたくはなかった。タカヤは疲れていたのだ。いつ自身の命が捧げられてしまうのか、いつ他人の命を奪わなければならないのか。そんな緊張状態からいち早く抜け出したい。もう、何もかも考えるのは辞めたい。

 抜け殻のような少年は敢えて思考を止め、社から『ヨモの湯』へともどるのだった。

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