第36話 演じるものたち
ヤナキと名乗る少年を前に、ミキは立ち尽くしていた。彼には問いたいこと、問わなければならないことが山ほどある。だが、何から切り出せばいいのだろう。迷いの末、とある少年の頼みを思い出す。
「ヤナキさん。君のことをコウガさんが探していたよ。」
そうだ。忍者のような少年、コウガが彼のことを探していたのだ。ミキは彼にサインをもらい、ヤナキを見掛けたら声を掛けると話していた。良い機会ではないか。そう思い話したが、相手の反応は芳しいものではなかった。
「……?コウガ?誰だそれ。」
「え…?き、君の友人ではないのかい?」
ヤナキは首をひねる。本当に思い当たるフシがないようだ。
「ワリィけど、人違いじゃねぇかな。」
「………………。」
呆気にとられつつも、ミキは質問をすることにした。この状況を把握するためには、今の相手の状態をしる必要があるからだ。
「………そういえば、この宿にはコユキさんという女将がいたが今はどこに?」
嫌な焦燥感にかられながらも質問をした。だが、先と同様にヤナキは首をひねり申し訳なさそうに答える。
「そのコユキってのもうちの宿にはいねぇと思うぞ…。」
「そう、かい…。ありがとう。」
そこでようやく、今まで口を閉ざしていた番台の少年と目が合う。彼は何か言いたげに宿の外へ視線を移す。此処から出ようと言うことなのだろう。彼に従い、ミキはヤナキへ礼をしてから外に出る。
じっとりとした汗が流れる風に撫でられて、僅かに冷たさを覚えた。
「………あれは、一体どういうことだい。」
口火を切ったのはミキだった。
彼女は未だ混乱の最中にいる。顔を合わした少年、ヤナキはコウガという友人がいたはず。そして、『かざぐるまの宿』にはコユキという女将がいたはず。だというのに、そんな存在は知らないと一蹴されてしまった。
今までの出来事は、ミキが見た幻覚だったのだろうか。はたまた、夢でも見ていたのか。不安がのしかかる中、解を求めるように少年の言葉を待つ。
彼は一度目を閉じたかと思うと口を開いた。
「これが神官の力。正確に言うと、『つくも様』の力だよ。」
「なに?」
「…………僕達は神官に役割を貰うんだ。旅行客、女将、農家、漁師。それを貰った瞬間、以前の自分じゃなくなる。たとえ死んだとしても、役割さえ貰えば生まれ変わるんだ。」
気が付けばミキの眉間にはしわが寄っていた。それも無理はない。到底信じ難い話を聞かされたのだから。しかし、少年を疑うことはしない。なぜならば彼の話によって摩訶不思議な事象はある程度説明がつく。
そうして頭を整理していると、ふとした疑問に行き着く。
「待ってくれ。君の説明ではヤナキさんは既に亡くなっているということか?」
少年は小さく頷いた。
「うん。………あの人は生贄に捧げられた後、新しい役割を貰った。だから、あの宿にいる。」
「なるほど。」
冷静さを取り戻したミキは考える。この島の仕組みについてはおおよそ理解した。さて、これからどうするべきか。暮れ始めた日を背に頭を働かせるのだった。




