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第35話 再演

 浜辺にいたミキは早速、『ヨモの湯』へ向かうことにした。その最中、彼女の背に声がかかる。


 「…………出かけるのか。」


 顔を出したのはタチバナであった。


 「あぁ。『ヨモの湯』にでも行くつもりさ。」

 「『ヨモの湯』…?随分遠出だな。誰かに勧められたのか。」

 「以前、コユキさんにね。それじゃあ。夕飯までには戻るよ。」


 ミキは自然体を装ってタチバナのもとから去る。今の問答で不自然なところはなかったか。自身のうちで考える。何処か不審なところを見せてしまえば、タチバナによって生贄にされてしまう。なるべく足早にその場を去る。

 そんな彼女を後ろから眺めるタチバナはただ無表情に佇むのだった。


***

 「やぁ。また来たよ。」


 藍色の暖簾をくぐり、ミキは番台の少年へ挨拶する。彼はミキが島から出ていないことにやや不服な表情をしつつも、小さくお辞儀をした。少年の態度から敵意を感じなかったミキは入って早々話を切り出す。


 「単刀直入に聞こう。この島には代表のような人間はいるのかい?」

 

 はじめ、質問の意図が理解できなかった少年は面食らう。そして徐々に頭が回り、把握する。恐らくミキは『つくも様』信仰を扇動する人物を知りたいのだと。

 正直に答えるかどうか迷う。対するミキは少年の答えをいつまでも待てるといった具合に再度口を開くことなく、ただ見つめ返す。


 「……………いる。神官様って呼ばれる人。」

 「ほう。その人は普段どこに?彼が『つくも様』信仰の中心かい?だとすれば、神の力を使えたりするのかな?」

 

 思わず前のめりになるミキに対し、少年は驚き仰け反る。息が肌に触れる距離から、腕を伸ばさなければ届かない距離まで移動。そして、少年は落ち着きを取り戻して答える。


 「いつもは山の中心のお社にいる。僕達はあの人に役割をもらって生きてる。逆らえば死ぬ。」

 「ほう。それで?」

 「あとは………。」


 息継ぎをして、再度説明を続ける。


 「……あの人は、神様の力を使える、と思う。でも………説明が難しい。」

 

 少年は言葉を濁し、迷いを見せる。ミキはその間、何も言うことなく待つ。

 しばらくして彼は立ち上がる。


 「着いてきて。貴方なら、きっと分かるはず。」

 「?あぁ。分かった。」


 いまいち要領を得ないものの少年に従いついて行くことにした。


 2人は『ヨモの湯』を出て、緩やかな山道を下る。その先はミキも見知った道であった。即ち、『かざぐるまの宿』への道である。何故今更そこへ向かうのか。皆目見当はつかないが、黙って歩く。


 木組みの建物が視界に入る。それこそ『かざぐるまの宿』だ。建物の前には木の板が立てかけており、しっかりとした黒字で宿の名前が記している。


 「……?」

 「どうしたの。」

 「いや、なんというか、違和感というか。」


 ミキは少し立ち止まる。建物はなんの変哲もない。そのはずだというのに、彼女の心にはさざ波が立つ。それを見た少年は安堵とともに告げる。


 「良かった。その気持ちは正しいよ。………違和感の正体はすぐに分かると思う。」


 それだけ言って、宿に入る。ミキも共に入ったが、その瞬間に謎の不和に対する問いは判明した。


 「よぉ。いらっしゃい!ようこそ『かざぐるまの宿』へ!」

 

 目前には顔の知らぬ男。


 「こ、こんにちは。……君はここの従業員かな?」

 

 少年の発言を待たず、ついミキは口を開く。男はさして気にすることなく、当たり前のことを確認するように言う。


 「?おう。従業員ってか支配人?みてぇな。女将さんか?」

 「…………名前を聞いても?」

 「あー、紹介が遅れたな。俺はヤナキ。よろしくな!」

 「…………………。」


 男、ヤナキを前にしてミキは絶句する。混乱が襲いかかり、口を半開きにしたまま立ち止まってしまった。一体、何が起こっているのだろうか。理解が及ばぬまま、時が止まるのを感じた。

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