第31話 鍬とある少女
『ヨモの湯』を出たミキはとある場所を目指していた。それは彼女の疑念を解消出来るかもしれない場所であり、行かなければならない場所だ。
山を下り、浜辺への道筋を歩く。褐色の地面を進むとそこへ辿り着く。そこは一面の畑であった。昨日まではとうもろこしが埋まっていたが、今となっては真っさらになっていた。ミキは慎重に畑を踏み進む。
「……………あった。」
その先で、お目当てのものが見つかる。特別なものには見えない。ただの平鍬だ。他と違うところといえば刃先に僅かな赤が付着しているところぐらい。
だが、ミキにとってはそれ以上に目下の平鍬が意味をなしていた。というのも、これが番台の少年の語る『付喪』かもしれないからだ。もしそうであれば、鍬の目前で行われた出来事を見聞きできるはず。
期待を込めて、地面に転がる鍬へ触れる。するとやはり、脳内に声が響いた。
『っ!?コユキちゃん!?』
驚く声は少女スイのものであった。しかし、それから声はパタリと止んでしまう。コユキの声は勿論、スイ自身の声も。
「まさかこれで終わりかい…?」
『ヨモの湯』にあったアヒルに触れた時はもう少し長く声が聞こえたものの、今回は違うのか。触れる『付喪』によって時間や場面が変わるというのは十分にあり得る。ミキは諦めて鍬から手を離そうとした。その瞬間、またスイの声がする。
『もう、居ないから…。だからこそ、動かなきゃ…。そう、だよ。もう、コユキちゃんはいない。……なら、せめて、コユキちゃんみたいに、うちも…。』
「………………。」
涙交じりの声は痰が絡んだようなしゃがれたものであった。それ故、彼女の言葉が本心であると推測するのは難しくない。だからこそ、ミキは混乱する。
スイの言い分では、コユキは彼女が殺めたというわけではなさそうだ。しかし、それはおかしい。何故ならミキは聞いたのだ。タチバナからコユキが消えたのはスイの仕業に違いない、と。昨日の朝、彼との話を思い起こす。
『付喪』から得た情報を整理すると、タチバナは嘘をついていた可能性が高い。そして、スイはコユキのように動くと言っていたのだから島の住民とは敵対する選択をしたのだろう。
だとすれば。昨日、ミキがスイを信じなかったのは大きな過ちだったのではないか。もし彼女がタチバナに襲われた時、共に応戦していれば。
「………私はいつもこうだ…。」
そこまで結論づけた時、ミキはひっそりと呟く。気付けば右腕を掴み、力が入っていた。
彼女は独白する。
「いつもいつも、他人を、自分すらも信じられなくて、茶化して。………ははっ。お笑い草にもならないね。」
少女の独り言を聞く人間はいない。強いて言うならば、手にしている鍬が沈黙を保ったままただそこに存在するだけだ。




