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第30話 入浴フラッシュバック

 ミキは暗い様子の少年をあとにし、脱衣所へ行く。ロングコートや下の服を全て脱ぎ捨て籠に入れる。そして浴場へ向かった。


 「おや。貸し切りか。」


 偶然にもこの時間帯の利用者は彼女、彼だけだったらしい。それはミキにとって幸いであった。島の住民に対する疑念を整理したいのは勿論、見知らぬ他人へ裸を晒すというのがどうにも好きでないからだ。いつだって自身の性を主張する部位が嫌いだった。故に、入浴自体好きではない。ミキは瞳を閉じて鏡から逃れる。そうして体と頭を洗い湯船につかった。


 「随分アヒルさんが多いね。」


 湯に浮かぶアヒルをつつく。今どき珍しいものだと感慨にふけっていると、声がする。


 『思ったより広いでござるー!それにアヒルも浮いてるでござる!』


 少年の声であった。突然の出来事に驚き、ミキは周囲を見渡す。人影はない。そもそも、ここは女湯だ。母と同伴の子供ならまだしも、中学にあがったぐらいの少年なんぞいるはずもない。

 そこでふと感じる。声に対する既視感。以前、この声と口調を持つ人物に会ったはず。そうだ。浜辺で人探しをしているといって会ったのだ。ミキは己の記憶を辿る。確かサインを貰ったはずだ。手袋に染み込むインクの匂いと形。それを想起し、思い出す。コウガという忍者少年のことを。しかし、彼はあれから見かけない。無論、コウガが探している人も同様に。


 思考を巡らせていると再び声がする。今度はコウガでない声だ。


『おぉ。ホントだ。珍しいな。』

 「………………一体、どういうことだろう。」


 この摩訶不思議な状況に理解が追いつかなかった。ミキは落ち着きなくアヒルを手の内で揉みだす。しばらくするとまた声が脳裏に響く。


 『ふぅ。極楽でござるー。』

 『だな。』

 「…………………。」


 よく分からないまま、ミキは湯から離れる。これ以上入っていてはのぼせてしまいそうだ。浴場から脱衣所に移動し、体を拭く。行きとは違った服に着替え、受付の方へと戻った。髪は短いので備え付けのドライヤーでさっと乾かすだけで終わった。

 脱衣所を出ると、番台の少年が目に入った。どうやらすりガラスの扉から出てきたらしい。ミキは少年を見ると、思い切って先の出来事を聞くことにした。


 「少し聞きたいことがあるんだが、良いかい?あぁ、『つくも様』についてじゃないさ。全く関係ないから安心しておくれ。」


 身を固くする相手に対し、逃げられてしまわないように穏やかな調子で話しかける。番台の少年は『つくも様』のことでないと聞くとほんの僅かにだが肩の力を抜く。


 「実は入浴した時に声が聞こえてね。だが、姿は見えない。………もしかすると、ここは『出る』のかい?」


 『出る』と抽象的な物言いだがその実、ミキは幽霊ではないかと思い始めていた。そう考えれば幾分かは納得もできるからだ。しかし、少年は首を振りたどたどしくも口を開く。


 「ううん……。お姉さんが聞いたのは…『付喪(つくも)』の声だよ…。」

 「『つくも』?」


 思わぬ単語に驚く。何故ここで『付喪(つくも)』というのが出てくるのか。そも、『つくも様』と『付喪(つくも)』とやらは別物なのか。疑問が山のように生まれる中で、少年は落ち着き払って言う。


 「物には神様が宿る…。そして、神様は全ての物事を見聞きして覚えてる…。だから、触れた時に人間へ伝わることがあるんだ。」

 「ほう。なるほどね。他にも『付喪(つくも)』はこの島にあるかい?」

 「…………うん。」

 「ありがとう。面白いことを聞けたよ。」


 手を振って、ミキはその場を離れる。中々面白い話を聞けた。彼女の興味は件の『付喪(つくも)』へ注がれた。他にもあるというのなら探す価値はある。そうして彼女は『ヨモの湯』をあとにする。

 軽い足取りの彼、彼女を眺める番台の少年は引き止めようとしたものの手を伸ばすことはなく、また俯くのだった。

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