第27話 疑惑の交渉
「いやぁーお疲れ!ミキちゃん!」
「全く、本当に疲れたよ…。」
スイは明るい調子でヘトヘトのミキへ肩を置く。疲れた様子だが、何処かすっきりしたように思える。幾分かは胸の内が分かったと思ったスイは、本題を切り出すために落ち着いた場所へ移動することにした。
とうもろこし畑を通り、他の野菜を育ててある褐色の地面を踏みしめる。そこで、スイについて来ていたミキは目にした。倒れかかっている平鍬を。なんの変哲もないものだ。だと言うのに、何故目を引かれたのか。それは、鍬の刃先に僅かな赤色が見えたからだ。一体なんの色か。ミキの脳内は一昨日見かけた血痕と鍬を結びつける。
「?どーしたのミキちゃん。」
「………いいや。なんでもないよ。それより早く休みたいところだね。」
「あはっ!もうすぐうちの家につくから!」
スイは笑顔のまま再び前を向く。後ろをついて行くミキの顔は険しい。
「…………やはり、君の言う通りかもしれない………。」
ぽつりと、誰にも届かないほどの声量で疑念を口にするのだった。
***
「ささっ!かけてかけて。」
客室に案内をして座布団に座るよう促す。ミキはなるべく自然な笑顔で、といってもそもそも疲れ自体は本当なので心の底から自然に、倒れ込むように座布団へ座り込む。
スイはというと少し奥に引っ込んだ後、お盆を持って再び客室に入ってくる。湯飲みを2つ、長方形のテーブルに置くと彼女も座布団へ座った。
一口、ミキが茶を啜ったのを見るといよいよと本題を切り出す。
「実はね、ミキちゃんに話したいことがあるんだ。」
「……………なんだい。」
その時、ミキの瞳には今までの比にならないほどの警戒を強めた色が映る。
「ミキちゃんはさ、この島、変だって感じたことはない?」
期待を込めた視線を送る。それに対し、ミキは回答に悩む。先ほど発見した血のついた鍬、そしてタチバナの助言。それらがスイに対する警戒心を強めているのだ。もしかするとスイの発言はブラフであり、島に異変を感じた人間を炙り出すためのものかもしれない。最悪の場合、彼女によって命が脅かされる危険だってある。
ミキはあくまで冷静に、取り乱すことなく答えた。
「違和感ねぇ…。特にはないかな。」
思わぬ答えにスイは固まる。だが、すぐさま次の行動を思案する。先からミキの様子がどうにもおかしい。敵対心とまではいかないが、信用とは程遠い態度。冷たい瞳。とうもろこしを収穫していた時はここまでではなかったはず。何故彼女が急にこうなったのかは不明だが、だとすればある程度の信頼を置いてもらう行動をしなければ。
スイは思い切って情報を開示することにした。
「………この島はさ、『つくも様』ってのを信仰してるんだけど恩恵を受け取るために生贄を用意してるんだ。」
「………………。」
単刀直入の物言い。それは焦りからか、緊張からか。いずれにせよ、吐いた言葉は戻せない。ミキは変わらず口を結んで何も話さない。スイは息を吸って、話を続ける。
「その生贄ってのは人間なの。……島の住民は、人間を殺して生贄にしてるの。」
そこまで言い切り、スイは次の言葉に迷う。何故なら、彼女もまた人を殺めて生贄を捧げる側の人間だったからだ。このことを伝えるか否か一瞬の思惟の後、無駄な情報は与えないことにした。今ここで余分な事を伝えるのは、更なる疑念を生むことになり悪手となり得る。そんな逃げのような選択をしたスイは反応のないミキにやや怯えながら口を開く。
「うちは、生贄を捧げる信仰なんて止めたい。だから、ミキちゃんにも協力してもらいたいんだ。」
「……………分かった。私に出来ることがあるなら、お手伝いしよう。」
「!ありがとう!ミキちゃん!」
ぱっと表情を輝かせるスイ。それとは対照的に、ミキの表情は僅かに作り物めいて能面のような白く冷たい顔だった。




