第26話 とうもろこし
ミキを手引きして連れてきたのはスイ自身の家、正確に言うと彼女の所有する畑であった。
「そーいや、キミの名前聞いてなかった!うちはスイ。」
「私はミキだ。よろしくねスイさん。」
スイはミキとの間に妙な壁があるのを感じる。あからさますぎるほど作り物めいたミキの笑顔が、彼女にそう直感させるのだ。このままではいけない。タチバナに何を言われたのかは知らないが、恐らくすんなり協力を結べるようにはならないだろう。まずはひとりの人間として、フレンドリーな関係を築かなければ。協力関係はその後だ。
「それでスイさん。君はここを私に紹介してくれるのかい?」
「そ!モチロン、紹介だけじゃないよ!実体験付き!」
「…………実体験……?」
これまでの固まった表情とは違う、明らかに感情が露出した顔つきになる。ここでいう感情とは喜びや嬉しさではなく、警戒や拒否といった後ろ向きなものだ。やや口の端を引きつらせるミキの脳裏には嫌な予感が浮かんでいるのだろう。スイはそれに構わず引っ張る。
「よっし!それじゃあいってみよー!とうもろこし収穫体験!」
「そ、それは辞退する!」
間髪入れずにミキは大声を出す。
「えー?なんでー?」
「何故って君ねぇ!私はスイさんを運ぶのだけで疲労困憊の満身創痍。翌日の夕暮れまで意識を失うように眠っていたんだよ!?」
まくし立てるような早口にスイは応戦。
「いーじゃんいーじゃん!減るもんじゃないんだし!ほら!」
「減るよ!体力が減るだろう!?ちょっと、聞いてるのかい!引っ張らないでおくれ!あっ!?」
根負け、及び力負けをしたミキは嫌々ながらもスイに引っ張られていく。そんな最中も子供のように駄々をこね、彼女の足元は引き摺られた跡がタイヤのようについていた。
ずるずると行き着いた先はとうもろこし畑だった。夏の風物詩とも思える野菜を前に、スイは輝かんばかりの表情で言う。
「ほら!とーちゃく!暑くならないうちに収穫しちゃうよ!」
「拒否権はないのかい…。」
ぶつくさと文句を垂れるのにも構わず、目下のとうもろこし付近へ近付く。お手本を見せるため、スイはミキを見ながらとうもろこしの実の根元へ手を伸ばす。手に力を入れると、パキッと音が鳴り実が茎から分離する。
「ねっ!簡単でしょ!ほらほらやってみて!」
「簡単に言ってくれるね。全く。」
ミキは渋々ながら腰を下ろしてとうもろこしと対面する。そしてスイがやったように実の根元へ手を伸ばし力を入れた。しかし、彼女のように簡単には収穫ができない。
「ふっ、んっ。ぐっ、このっ。」
「がんばれミキちゃん!ミキちゃんなら出来る!とうもろこしに負けるなー!」
「う、煩いよ!気が散るだろう!?あっ!?」
叫び、力んだ瞬間にとうもろこしの実が茎から離れる。パキッという音を耳にし、力を入れたままであったミキは勢いのまま尻餅をつく。
「あは、あははっ!やったねミキちゃん!さすが!」
「ま、まぁね。こんなものさ。」
姿勢を立て直すため、ミキは立ち上がり土を払って格好つける。スイは変わらず笑顔のまま告げた。
「それじゃ、ここにあるのぜーんぶいっちゃおっか!」
見渡す限り、とうもろこし畑。これを全て。そんな恐ろしいこと、ミキにはできっこない。
「わ、私はやめておくよ…。」
「そんなこと言わずに!」
彼女の意思虚しく、引っ張られる形で畑一面のとうもろこしと格闘することになった。




