第22話 迷子の報酬
「はぁ。一体『ヨモの湯』は何処にあるんだい…。」
ぶつぶつと不満をたれながら夜道を歩くのは、少年のような少女のような人物ミキだった。彼、彼女は昼間にコユキから貰った入浴券を使うため、灯りのない田舎道を進んでいる。しかし、『ヨモの湯』がある方面には行ったことがないため、道ではないような木々の間を歩く羽目になっていた。
周囲は暗く誰もいないと考え、ミキは首から足元まで伸びるロングコートを脱ぐ。この暑さだ。コートなんて着ていてはろくに動けまい。観念して2つに折り腕に抱える。
頼りにしていた懐中電灯がチカチカと不気味に点灯する。
「………こんなとこで切れてくれるなよ。私は君が頼りなんだからね。」
電池が切れないことを祈って懐中電灯を振る。通じたのか、点滅はなくなり、目の前をまん丸く照らしてくれた。
安心しつつ、先を急ぐ。人はおろか、動物とさえすれ違わない。騒々しい虫の音が少し頼もしく思えてくる。額からこぼれ落ちる汗を拭い、先を急ぐ。すると、照らした地面が妙なことに気付いた。
「………血痕…?それも2箇所…。」
草木にべっとりとした血液。それが、ミキの視界に映ったのだ。いやしかし、血痕と断定したものの絵の具かもしれない。しゃがんで匂いを嗅ぐ。一方は既に匂いはせず、付着した草の青い匂いしかしない。が、もう一方はほんのり血のような香りがした。とはいってもこれだけではここで何かあったと判断するには充分足りえない。
高揚感を覚えつつ、山道を登る。彼女の頭からは『ヨモの湯』へ行くという目的が薄れつつあった。のだが、幸か不幸か、暖簾のかかった建物、即ち『ヨモの湯』を発見する。
思い出したかのように懐中電灯で照らしつつ、入り口に手をかける。
「閉まっている…。いや、まぁ、迷っていたから仕方がない。」
これではとんだ無駄足だ。溜息をつき、踵を返そうとする。その直前に、待てと内で考え立ち止まった。
このまま収穫なく帰るのは何だか癪だ。故に、今はあの血痕について調べてみよう。付近にはこれといった情報はなかったので、道に従い山を登ることに。
「孤島の殺人事件…。テンプレートすぎるが、面白そうじゃないか。」
口元を緩めて独り言を呟く。自分が夢中になれるもの。それがようやく目の前に現れてくれたような気がして、ミキは跳ねるように歩く。
そうして、より彼女を釘付けにするものに出会う。
照らした地面に、何かが転がっているのだ。決して小さくはない。それでも、熊や鹿のような野生生物ではない。これはつまり、人間だ。
駆け寄り、先ずは脈をとってみる。触れた手首はごくごく普通に温かい。倒れた人間の顔を覗き込むと、ミキの喉からは笑い声が漏れてしまう。
「これはこれは…。昼間にコユキさんと一緒にいた子だね。とんだ偶然だ。」
取り敢えず昼間出会った少女を抱え、ミキは『タチバナ荘』に帰ることにするのだった。




