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第21話 3人目

 静まりかえる夜。神楽殿の内部は打って変わって、殺伐とした状況に陥っている。原因は包丁を手にしている少女、コユキだ。彼女は次々と襲いかかる島民を躱しながら倒れている神官へトドメをさそうとする。


 「邪魔をするなら、殺してでも!」


 より俊敏に動くため、コユキは包丁を逆手に持つ。そして力いっぱい帯を裂く。拍子に着物がはらりと落ちる。気にすることなく、むしろ身軽になった少女は襦袢(じゅばん)だけを身に纏い神官めがけ突進した。


 「させ、ねぇよ!悪いけど!」


 漆器売りの少年が拳で殴りかかる。咄嗟に片手に持っていた着物を投げつけ、目眩ましとした。淡い色の布が被さる少年へ蹴りを入れ、進む。

 そんな少女を止めるため、背丈のある少年は持っていた松明を振り炎を消す。そして彼女の背後に回り頭を殴りつける。


 「っ、邪魔、です!」

 「………そうか。」


 眉ひとつ動かさずに少年は、反撃として振るわれた包丁の刃から離れるように後ろへ下がる。だが、進ませるつもりではない。


 「ナガセ。お前らの松明、寄越せ。」

 「あぁ。頼んだよ。タチバナくん。」


 ナガセと呼ばれた漆器売りの少年はタチバナという少年へ松明を渡す。つられて周囲の人々もタチバナに木の棒を託した。彼はそれらを受け取ると勢いよくふる。その後、火が消えたのを確認すると膝に打ち付けて松明を真っ二つにした。といっても、折れ口は鋭利にとがり、綺麗に折れたわけではない。

 タチバナは尖った切り口をコユキに向くようにして、彼女目掛けダーツの要領で勢いよく投げつける。


 何かが空を切る音を聞き、彼らに背を向けていたコユキが後ろを振り向くが遅い。彼女の耳から頬にかけて、薄く白い肌を松明だった木片が切り裂く。


 「っ。」


 少女は理解する。このまま足を止めていたら、此方へ向かってくるタチバナに捕まってしまう。そうしたら、神官を殺すことができない。

 歯を食いしばり痛みに耐える。顔の右側面を抑えながら、未だ情けなく倒れている神官を睨みつけ駆け出す。


 「………止まらないか。タカヤ!」

 「!」


 己の名を呼ばれた小さな少年、『ヨモの湯』で番台を務めいていた彼は神官のそばにいた。タチバナの大声に肩を震わせ、彼の顔を見る。役割は分かっているなと言わんばかりの強い瞳に気圧され、気持ちとは裏腹に神官を庇うよう前に立つ。

 一瞬。コユキは彼が神官を庇うとは思っておらず、動きが鈍る。その刹那の間、変わらず投げられる木片が頭の真後ろに当たる。そして、追ってきたタチバナが彼女の背を思い切り蹴飛ばした。


 転がる少女に馬乗りになり、タチバナは折れた松明を首筋に突き刺すよう、狙いを定める。


 「………恨むなら、好きに恨め。」

 「恨みません。ただ、後悔は、少しあります。」


 ひとこと交わし、タチバナは松明の切っ先を振り下ろす。何度か振り上げ、振り下ろし、動作を反復させる。痛みが少女を襲うが、それだけではない。言葉通り、後悔が痛みよりも素早く彼女を襲う。願わくば、友との時間を、贖罪を、成し遂げたかった。だが、道しるべは残してきた。少女のような少年のような人物を想起する。彼女、あるいは彼がこの異様な信仰を終わらせてくれるのではないか。

 僅かな期待と、友スイの顔が脳裏に浮かび少女コユキはこときれた。


 


 

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