第18話 買い出し
『タチバナ荘』から帰る途中、コユキは申し訳なさそうに隣のスイへ言う。
「スイさん。その、私、これから買い出しへ行こうと思うのですが…。」
「買い出し…?宿の?もちろん着いてくよ!」
スイは己の腕と相手の腕を組んで歩く。コユキは嫌がることなく受け入れる。そうして2人が向かったのは浜辺を出て宿の方向とは真逆の位置。鬱蒼とした雑木林の中であった。
忌々しい日差しが遮られ、肌が焼け付くような感覚から解放される。道々は中途半端に舗装されており、林の中であっても人ひとりが歩けるぐらいにはなっていた。
パキパキと木の枝を踏み倒しながら進むと、トタンで出来た建物が視界に入る。それこそ、コユキの目指した場所である。看板などはなく、一見廃墟にさえ見えるそこに近付く。何処が出入り口か分からないほど蔓に支配された建物のそばに行くと、コユキは大声を出す。
「御免下さい!『かざぐるまの宿』のコユキです!」
しんとあたり一帯静まりかえる。かと思うと、内からバタバタ音が聞こえ、半分を窓が占めるドアが開く。中からやって来たのは作業着姿の少年だった。
「コユキちゃん、いらっしゃい!もしかしてお椀かい?」
「はい。お客様用に。」
若い姿に似合わず年寄りくさい雰囲気を漂わせる少年はコユキの言葉を聞くと愛想のよい笑みを見せ、再び奥に引っ込む。僅かな木の残り香を堪能していると、彼は黄色のプラスチックバットを抱えて来る。その中には黒塗りの漆器が敷き詰められていた。
「今日は気分が良いから安くするよ。そうだな…10個買ったら半額にしよう。」
「半額!?良いのですか!?」
「おうよ。」
半額という魅惑の言葉に惑わされ、コユキは必要以上の器を買おうとする。少女は気付かない。半額と言えど、漆器を10個も買うのは無駄にしかなり得ないということを。
隣で行く先を眺めていたスイは思わず口を出す。
「ストップ。コユキちゃん。10個もいらないでしょ?」
「で、ですが半額ですよ!?この機を逃せばチャンスはやって来ないかもしれませんし…。10個買うとしておおよそ1万5千円…。だいたい7千5百円お得になります!7千5百円ですよ!」
徐々にヒートアップしたコユキは、スイへいかにお得かを熱弁する。あまりの熱の入りように、つい肩を揺らして説明を始めた。
対するスイはやや気圧されながらもコユキを一度引き剥がし、冷静になろうと試みる。
「お、落ち着いてコユキちゃん。コイツ、この前来た時も似たようなこと言ってたよ。」
「えっ!?そうなのですか…?」
コユキの問いかける瞳に、少年は目を合わせず居心地悪そうに口を閉じる。流石のコユキでも、その様子を見ればスイの指摘が図星だということに気付く。先までの熱が嘘のように引き、静かにプラスチックバット内の器をひとつ手に取る。
「………では、これだけ買うことにします。」
「ま、まいどあり。また来てくれよ。は、ははっ。」
ぎこちなく笑う少年を背に、コユキとスイはトタン仕立ての家を出るのだった。




