第16話 少女の舞台
血が飛び散る地面から立ち上がり、少女コユキは決心した。友であるスイを、『つくも様』へ人間を捧げる彼女を止めようと。その為にも、指で無理くり頬を押し上げる。口角があがるのを感じ、喉の奥から声を振り絞る。笑い声だ。
恐らくスイの説得は難しい。赤ん坊の頃から一緒である彼女は理解していた。スイは頑固であり、『つくも様』への信仰心が強い。故に、彼女を倒すにしても彼女を欺くことから始めるつもりなのだ。
幸い、嘘には慣れっこである。だからこそ、ヤナキやコウガの真っすぐな言葉や視線が辛かったのだが。それでも今は、幸運だと思える。彼らに出会えたから、ここで立ち止まれた。
『つくも様』信仰は島全土へ広がっている。それがある限り、人間が贄として捧げられるのは止められないだろう。彼女一人には信仰をどうにか出来る術はない。協力者が必要だ。無論、島の住民ではない人間で。そこまで考え、ふと思い出す。『タチバナ荘』ですれ違った宿泊客を。少女のような少年のような客は、コウガと顔見知りのようだった。その人物にヒントを渡せばコウガが消えたことからも協力を仰げるかもしれない。
思い立ったが吉日。コユキは足早に宿へと戻る。そして一階にある自室に駆け込み、卓上へ紙を広げる。『タチバナ荘』にいる宿泊客への手紙だ。もし、島の住民が見ても勘付かれないような内容にしなければ。無駄なことは書けない。
結果として、たった一文と紙切れを封入し、届けることにした。どうか伝わるように信じて。
手紙を持った彼女は『タチバナ荘』に向かう。その途中、農家の少女スイが首にタオルを巻いて顔を出す。
「コユキちゃん。さっきぶりだね。まだあそこにいるのかと思ったよ。」
「………いつまでもじっとしているわけにはいきませんから。私も『つくも様』の為に役目を果たそうと決心したのです。」
「ふぅん?」
嘘八百。出任せばかりの言葉を友に告げる。スイは物言いたげであったが、コユキが手にしている紙を目にし、意識がそちらに移る。
「それ、どーしたの?」
指摘に動揺することなく、あくまで『かざぐるまの宿』に勤める人間として口を開く。
「少しでも『かざぐるまの宿』へお客様が興味を持ってくださるようにしたためたものです。お客様が増えれば『つくも様』の贄も用意しやすくなりますので。」
頬の内側を必死に舌でなぞる。左右どちらもすることで、自然に口角があがるのを感じた。あくまで、今の自分は『つくも様』に仕える従順な人間だ。そう言い聞かせて演じる。
スイは何度か瞬きをしたかと思うと表情を明るくさせた。
「確かにそーだね!さっすがコユキちゃん!じゃっ、うちも手伝うよ。良いよね?」
「はい。勿論です。」
笑顔を崩さず瞬時に答える。
少女コユキは贖罪のため、行動を開始するのだった。




